56:女神のペンダント
「ううう、ごめんなさい」
私だけじゃなくクレア達も魔王討伐に参加することができない。
・・・私のせいで。
その事実に私は涙をこらえきれなかった。
「ジュリア・・・!」
そばにいるスザクが言った。
「ジュリア、あなたは悪くないわ。」
シオンが私に抱き着く。
「クレア達を連れていけない。でも戦力の補強も難しい。どうすれば・・・」
「ルギウス・・・」
クレアは悲しそうな顔でルギウスさんを見つめる。
そして下を向いて悔しそうな顔をした。
「ごめんなさい、クレア」
そんなクレアの表情を見て、私は小声で呟くように言葉に出した。
沈黙が流れる。
「・・・僕は、こういったはずだよ」
沈黙を破るようにドレークさんが言った。
「『事情を知っているティアくんやクレアくんたちが魔王討伐に参戦してくれるのが一番ありがたい』ってね。」
でも私たちは「女性」。
魔王の駒となった可能性がある勇者に洗脳されて魅了状態となってしまったら・・・。
足手纏いどころから「敵」となってしまう。
「だが勇者があちら側にいる以上、それは叶うことはないだろう・・・」
ティアがドレークさんに言った。
「洗脳や魅了状態を防げば、それが叶うんだけどね・・・」
洗脳を・・・防ぐ。
もしそれを防ぐ方法があれば、私たちも戦える。
でもそんな方法があるの?
「女神のペンダント・・・」
シオンが突然呟いた。
「・・・聞いたことあるぞ。」
彼女の声にティアが反応した。
「そのペンダントをつけた者に女神の加護を与えるらしい。その加護で、幻惑、洗脳、能力封じといった魔法効果から護られるという幻のペンダントだ。」
幻惑、洗脳を封じる・・・。
つまりそのペンダントをつけたら魅了状態からも護られるってことだ。
そしたら、スザクと共に戦える。
それだけじゃない。
もしかしたら、エレンさんとマリアさんにこのペンダントを装着できたら、魔王の洗脳から解放させてあげれるかもしれない。
「そのペンダントは私の故郷の『ルクの街』から、さらに東に行ったところにある塔にあるらしいの。」
「そのペンダントが効力が本当ならクレア達と一緒に戦えるってことか。」
「でもペンダントがそこにあるかわからないわ。私の故郷の言い伝えみたいな話だったし・・・」
シオンの言葉にみんなが黙る。
もし塔まで行って探しに行ったとしても、そのペンダントが無かったら意味がない。
でも私は・・・・
「それでも私は行きたいです。」
このまま何もせず指をくわえているくらいなら・・・
「行きましょう!その塔へ!」
これは自分の意志。
今までも何か行動していたけど、それは誰に背中を押してもらっていたからできた。
今度は自分がみんなの背中を押すんだ。
「そうね。現状なにも手掛かりがないし行くしかないわ。」
クレアが言った。
「僕も行きますよ。」
スザクも同調してくれた。
「それじゃあ早速準備をしよう。」
「うーん、ティアくんにはギルド副マスターの仕事をしてもらいたいけど・・・」
ティアの言葉にドレークさんが唸る。
「・・・あの塔への再調査を君への『仕事』にしておくとするよ。」
「再調査?」
「実は昔ギルドとして、あの塔に調査に行ったことがあるんだけど、塔の入り口にすらたどり着けずに調査は打ち切ったよ。」
「えっ。」
「塔の近くの『ドニーの村』までは簡単にたどり着けたんだけどねー。そこから塔に近づいたんだけど、塔の周りのモンスターが異様に強くて満足に調査できずに打ち切りになったんだ。」
「問題ないな。」
ルギウスさんがドレークさんの言葉に対して即答した。
「モンスターが強いという理由で調査できないって理由なら、俺やクレア、そしてスザクやティアもいる。問題ない。」
流石ルギウスさん。圧倒的自信だ。
・・・でもそこに私の名前がないのが悔しい。
「そうだったね。君たちがいたね。」
ドレークさんが笑いながら言った。
「ルギウスさん、私たちだって「戦力」だってことを証明するわ。」
シオンが私の肩を抱きながら言った。
「女神のペンダントを手に入れて、あなたに認められるくらい強くなるわ。ね、ジュリア?」
「は、はい。もちろんです。」
「・・・期待しているぞ。」
ルギウスさんは静かに言った。
「さて東の塔へ向かう時期だが、なるべく早めがいいな・・・」
「ジュリアとクレアさんは目覚めたばかりだからすぐってわけにはいかないかな?」
「私は大丈夫よ。むしろ長い間お眠りしていたから少し力が有り余っている位よ」
魔王も力をつけているはず。
そういう意味では時間はあまりないし、叶うならすぐに行きたいくらいだ。
「そうか、じゃあ明日早速出発しよう。」
「はい。」
「どうやら決まったみたいだね。今回はノーランド山の調査に行ったティアくんは、引き続き、東の塔の調査にいきましたってことにしておくよ。」
ギルドマスターも大変だよとドレークさんは言う。
「申し訳ない。」
ティアは頭を下げながら言った。
「いいんだよ。部下が成果を上げられる環境を作るのが僕の役目だからねー。あっ、旅に使う馬車もこちらで手配しておくよ。御者はティアくんが務めてくれるかい?
流石に僕とはいえ、人まではすぐに手配できそうにないからね。」
「いえ、ありがとうございます。」
本当にドレークさんにはお世話になりっぱなしだ。