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54:命令

 翌日・・・。



「さて・・・全員揃っているみたいだな」

 ルギウスさんが言った。



 私たちはドレークさん家の一室に集まっている。


 というかドレークさんの家広い・・・。


 ギルドマスターとなるとこんな広い家に住めるのだろうか?



「クレアたちは大丈夫か?」

「大丈夫よ。それにこの娘たちとも仲良くなったし。」


 クレアはそういうと私たちを抱き寄せる。


「そうか。それなら良かった。」

「さあ、早速魔王対策の話をしようかしら。」


 クレアはルギウスさんに言った。


「その前にスザクよ。」


 ルギウスさんはスザクに向いて言った。


「あの珠を壊したのはお前だな。じゃあ俺に命令するんだ。」




 ―『魔王と倒せと』




 ルギウスさんの「覚悟」


 違う種族に従わせられるという覚悟を持って、クレアさんを取り戻すためにスザクたちと協力関係を持った。



「そうすれば、俺を従わすことができる。これで『安心』だろ?」

「・・・わかった。」



 ルギウスさんは裏切らない。



「・・・命令だ。」



 スザク、本当に・・・。






「自分で考えて行動するんだ。」


 スザクは静かにそう言った。






「な、に」


 ルギウスさんは驚いた声を上げる。


「それ以上の命令はないよ。」


 淡々とスザクは答える。


「なぜだ、種族が違う。俺は魔族だ。『自分で考える』が命令だったら裏切ることだってできる。そこまで信頼していいのか?」

「君は僕たちを裏切らない。だよね?」


 スザクは私たちに向かって尋ねる。



「ええ。そうね。」


 ルギウスさんは私たちの仲間だ。種族なんて関係ない。



「お前たち・・・」

「それに・・・」


 クレアがルギウスさんの目を見て・・・


「あなたが裏切るような真似をしたら、私が承知しないから。」

「そうだな、クレア」


 フッと笑いながらルギウスさんは言った。


「スザクよ。俺は魔族最強の誇りにかけてお前たちと魔王を倒す。」

 

 彼は自分の胸に手を当ててスザクに言った。


 ルギウスさんとスザクの信頼は確固たるものになっただろう。


 種族を超えて信頼関係を作りあげるなんて本当に凄いよ。







「まずは魔王の戦力を整理しないと・・・。」


 魔族化したディーン、剣聖のエリー、賢者のシュリ、スザクに勝った漆黒の騎士



 そして・・・。



 エレンさんとマリアさん。




「その中で不明なのは魔王が召喚した漆黒の騎士だ。スザク、やつは一体・・・」

「・・・レオンハルトさんだった。」

「何!?レオンハルトだと?」


 ティアがスザクの言葉を聞いて驚きの声を上げた。


 私も驚いた。洗脳されている間にスザクに剣の稽古をつけた人って村長さんが言ってた。



 そんな人がなぜ魔王の配下に・・・。




「モック村の南の森の調査の任務後、騎士団を抜けて旅に出たという騎士じゃないか・・・」

「確か任務後に王都に戻ってきたら妻が死産していたとかでショックを受けていたね。」


 ティアとドレークさんが言う。



「・・・違うんです。」


 スザクは悲しい声で言った。


「戦っているときに彼は・・・」



 ―『俺もやつに妻を奪われた。』

 ―『そして子供を身籠った。』

 ―『そして洗脳から解かれた。』

 ―『俺の妻は、自殺した。』



 ・・・レオンハルトさんも勇者の洗脳の被害者だった。


 

 そしてゾっとした。



 洗脳され、勇者に魅了されている間に何度も身体を重ねた。 

 もしかしたらあいつとの子供を身ごもっていたかもしれない・・・。



 そんなの恐怖でしかない。



「・・・その言葉に思わず動揺した僕は、一瞬の隙を突かれて負けた。」

「でもレオンハルトはなんで魔王の配下に・・・」


 ティアが言った。

 勇者に恨みがあるとはいえ、魔王の配下になるなんて・・・。






 沈黙が流れる。






「みんな、ちょっと聞いて・・・」


 沈黙を破るようにクレアが口を開いた。


「そのレオンハルトって騎士と、勇者と戦う前に四天王の一人として戦ったわ。」

「えっ!?」


 彼女の告白に私たちは驚いた。

 なぜレオンハルトさんは四天王であるクレアに挑んだのか。


「本当に強い騎士だったから覚えているわ。けれど私のことは『通過点』としてしか見てなかった。」


 ―『魔王を勇者より先に倒す。』

 ―『魔王を倒したら勇者を懲らしめる。』


「彼は私との戦いに集中できてなかった。」


 クレアは淡々と続けた。


「私も四天王よ。集中力のない、目の前の戦う相手と向き合えない相手には負けないわ。」


 ―『あなた、なかなか実力があるようね。けれど今のあなたの戦いに挑む姿勢では私に勝てない。』

 ―『魔王様、四人目には絶対に勝てないわ。彼らは私よりも遥かに強い。』

 ―『今回は見逃してあげるけど、もう二度と挑まないことね。』


「・・・彼は私との戦いでボロボロになった身体を引き摺って去って行った。去り際にこんなことも言っていたわ・・・。」


 ―『俺は・・・戦う相手とも・・・大切な人とも・・・向き合えなかったんだな・・・』


「その後の彼はわからないわ・・・。ごめんなさい。」



 ボロボロの身体で安全な街に帰還しようとしたが、力尽きたのか。

 そこで魔王が勇者に恨みを持つものを復活させたのかもしれない。



 ディーンさんと同じように・・・。




 それとも魔王に監視されていて、勇者を倒す目的を果たすために力を得たのか。

 妻を実質殺されたようなものだ。



 私ももし洗脳時にスザクを殺したりしてしまったら・・・。

 きっと悪魔にもで魔王にでも魂を売る。そしてあの男に復讐したいと思うかもしれない。


 


「でもなぜレオンハルトさんは四天王であるクレアさんに挑んだんだ?」



 ・・・一つの考えが浮かんだ。



 私たちは勇者に復讐すると決めたとき、魔王を倒すことで「勇者の使命」を潰すことにした。



 もしレオンハルトさんも私たち同じ考えを持っていたとしたら・・・



 私は意を決して口を開く。



「レオンハルトさんは勇者に復讐するためにクレアに挑んだんだと思います。」

「どういうこと?ジュリア?」


 スザクが私に聞いた。




 彼の問いに答えるには・・・


 

 復讐にまみれた心を・・・私の心を晒さないといけない。



 でも言わないといけない。




「・・・私たちもね。勇者に復讐するためにあの作戦に参加したの。」



 私は話した。


 魔王の情報につながるかもしれないノーランド山の調査の作戦に参加して、魔王を倒して勇者の使命を潰すことで、好き放題やっている勇者に復讐できるのではないのかと。

 

 スザクと一緒に魔王を倒して英雄になることで、勇者が洗脳を使って女性を弄んだことを広めてやれば復讐できるのではないかと。



「ジュリア・・・」


 スザクは私の名前を小さく呟いた。



 この作戦が成功したら言葉は濁されてしまったが、一緒に住めたらと彼は言ってくれた。



 でも私の復讐心を見て、引いてしまっているのではないだろうか?

 そんな醜い心を持つ女性の隣に居たいと思うだろうか?

 



「・・・レオンハルトはクレアとの戦い負けた後、魔王が接触した。それが漆黒の騎士だというのか?」

「そうだと思います。」


 ルギウスさんの問いに私は答えた。


 魔王がどのように接触したのかは定かではない。


 クレアとの戦いで帰還途中に力尽きて、ディーンさんと同じように勇者に恨みを持つものを復活させられたのかもしれない。

 もしくは、「勇者への復讐心」を煽って、自分に忠誠を誓わせたのかもしれない。



 恨むきっかけを作った勇者、そして魔王は洗脳、魅了状態で苦しんだ人を利用する。



「スザク、今度は勝てるか?」

「あの時は動揺したけど、勝てない相手ではない。」

「そうか。」


 勝てるではなく、勝てない相手ではないと彼は言った。



 ・・・私は少し無理をしているように見えた。

 もし彼がかつての師であるレオンハルトさんと向き合った時、私は彼を支えることができるだろうか?




 実力では勝てるかもしれない。

 けれど、自分を強くしてくれた『恩人』に彼は本気で戦えるのだろうか?




「なら漆黒の騎士は問題無さそうだな。ならこの戦いにおける一番の問題は・・・」







 この後、ルギウスさんの言ったことに私たちは衝撃を受けた。








「勇者が俺らとともに帰ってきてないことだ」

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