52:女子会
「さてと・・・」
男性たちが部屋から出ていったを見たクレアさんは言う。
「改めて私の名前はクレアよ。貴女たちの名前を教えてくださるかしら?」
「ティアだ。ギルドの副マスターをしている」
「シオンよ。」
「私はジュリアです。」
「ティア、シオン、ジュリアね」
クレアさんは私たちの顔を確認しながら名前を呟く。
「3人とも私の命を守ってくれて感謝します。」
彼女は真剣な声で私たちに言った。
「・・・私が洗脳から解かれて、錯乱して自らの命を殺めようとした時、貴女方が私の愚かな行為を止めてくれたことをうっすらと覚えているの」
私も自分のやってしまったことを受け入れらず「死」を意識したことはあった。
だから解放された瞬間に、そういうことをしてしまうのでは?と思って少し警戒していた。ましてやクレアさんは魔族の元四天王。相手の命を奪える力もある。
その力がもし自分に向いてしまったら・・・。とあの時、私はクレアさんを注視していた。
「でも乱暴なやり方をして止めてしまった。手とか体は大丈夫か?」
ティアさんはクレアさんに問う。
私は、氷魔法を手に思いっきり放った。
シオンさんは剣を落とすために手に矢を放った。
ティアさんは殴って気絶させた。
「ええ、問題ないわ。」
クレアさんは手を見せながら言った。
「だが思いっきり殴って気絶させてしまって・・・」
「あなた方が私を傷つけたのは、錯乱して自分の命を消そうとした私を止めるため。むしろ感謝するのは私よ。だから私を攻撃したことはもう気にしないで。」
クレアさんは笑顔で言った。
「・・・ねえ、3人とも。もっと私に近づいてくれるかしら。」
突然クレアさんが言った。
そして彼女は近くに寄った私たちをまじまじ見て・・・
「うん、みんな可愛いわね」
え、突然何を言っているの?
と私は少し混乱してしまった。
けれど私以上に混乱している人がいた。
「な、か、可愛いだと、私が。」
ティアさんが顔を真っ赤にしてあたふたしている。
彼女はどちらかと言えば、かっこいいと言われるのが多そうだ。
「ええ可愛いわよ。顔を真っ赤にしているところとか」
「うううううう」
うめき声をあげながら、ティアさんは顔を手で隠して蹲った。
私は魔界へ出発するときのことを思い出していた。
あの時は頬を膨らませて怒っていた。
そして今は呻き声を上げて蹲っている。
確かに可愛い。
ティアさんを見ていたら、突然、腕が引っ張られた。
「あなたも可愛いわね。」
クレアさんに抱きしめられていた。
「え、あのクレアさん」
戸惑いながら私は名前を呼ぶ。
「あら、あなたは『さん』を付けるのね」
クレアさんは少し寂しそうに言った。
「よかったら呼び捨てで呼んでくれるかしら?私もジュリアって呼ぶわ。」
そういえばスザク以外の人を呼び捨てで呼んだことがないな。
エレンさんもシオンさんもマリアさんも。
・・・慣れないけど勇気を出して呼んでみる。
「ク、クレア・・・」
「なあに?ジュリア」
クレアさん・・・クレアはうれしそうに言う。
その顔を見るとなんだが恥ずかしくなる。
「ちょ、ちょっとジュリア。私のことも呼び捨てで呼んでよ。」
シオンさんが慌てたように私とクレアの間に割り込む。
「私の方が付き合い長いのに・・・」
しょんぼりと彼女は言う。
「あら可愛い嫉妬をするのね。」
「ねえジュリア。さあシオンって呼んで。」
興奮して彼女は私に詰め寄った。
「シ、シオン」
「やったわ。ジュリアはスザクさんのこと以外、みんなのことを『さん』付けで呼ぶからなんかうれしい!」
なんというかここまで喜ばれるのは少し驚きだった。
「シオンも私のことはクレアって呼んでね」
「ええわかったわ。」
シオンとクレアがそんな会話をしていると「私も・・・」と蹲っていたティアさんがむくりを立ち上がった。
「私も呼び捨てで呼んでほしい」
顔は真っ赤のまま、ティアさんは叫んだ。
「え、でもギルド副マスターですし・・・。」
私は思わず言った。
冒険者とは立場違うっていうか・・・
「あーーーーーなら、ギルド以外の場とか、公の場以外ではいいだろ。
だからシオンもジュリアも呼び捨てな。わかったな」
ティアの渾身の叫びだった。
「んふふ、ティア可愛いわ。」
「シ、シオンお前まで可愛いっていうか!」
「でも本当に可愛いです。」
「ジュリア・・・お前まで・・・」
だって本当に可愛いですもの。
戦いの時はかっこいいですよ。
というのは心の中だけで思うことにした。
*******
打ち解けた私たちはたくさんお話しをした。
クレアとルギウスさんの出会いの話。
シオンの故郷の話、
ティアは女性にモテた時の話。
私とスザクの関係の話。
話題は尽きなかった。
そして話題は「勇者の洗脳」「魅了状態」に関わる話にも・・・・。
「スザクさんとジュリアは一生懸命乗り越えようとしているのね。」
「私はラフェールとは戻れなさそうだからさ、うらやましいな・・・。」
シオンは少し声のトーンを落として言う。
私は本当に幸運だった。
本当はラフェールさんのように拒絶することの方が多いと思う。
もし逆にスザクが女に洗脳されて、その女と私を罵倒したりしたら・・・。
私も「今更なによ」と拒絶していたかもしれない・・・。
でもスザクは待っていてくれた。
本当に幸運なことだ。
「あ、ちょっとしんみりしないでよ。もう吹っ切れてるんだから」
シオンは空気を察して慌てて言う。
「私がダメだったから、ジュリアとスザクさん、クレアとルギウスさんは元に戻ってほしいから心から応援しているの。」
彼女は笑顔を作って言った。
「ねえ、みんなはさ・・・。」
クレアはそう言うと言葉を切らす。
言葉が出てこない・・・というより言う勇気が無いように見えた。
「どうした?クレア」
ティアは言葉をつまらせたクレアに尋ねた。
ティアの言葉を聞いてクレアは勇気を振り絞って口を開いた。
「私とルギウスって本当に元の関係に戻れると思う?」




