50:緑の石の秘密
第4章の始まりです。
「うーん、作戦は失敗だったみたいだね」
緑の光に包まれたかと思ったら、目の前にドレークさんがいる。
「いきなり『転移』してきたときはびっくりしたよ。まあ準備はしていたんだけどね。
魔族の男のルギウスくんだっけか?。彼が特にひどい傷だったね」
ドレークさんが何かを言っているが、私は理解ができない。
さっきまで、魔王と戦っていたはず・・・。
そしてエレンさんはディーンさんと共に生きることを決めて
マリアさんはまた魔王に洗脳されて、魅了状態になって・・・。
「ワカバくんや教会の神父さんにここに来てもらって、みんなの手当てをしたよ。
あ、ワカバくんは冒険者時代はなかなか優秀な癒し手だったんだよ。知ってたかい?」
もしかして私たちは助かったの?
「魔族の男性と女性がいて驚いたけど、君が『願って』つれてきたのだから僕たちも助ける判断をしたよー」
あの時私は助けてと惨めに願うことしかできなかった・・・。
「あっ、ここは僕の家なんだ。ゆっくりくつろいでね」
私はぼーっとドレークさんを見る。
「うーん、ジュリアくん。理解が追い付いてないみたいだね。」
目覚めたばかりか確かにぼんやりする。
「あの・・・みんな無事なんですか?」
私は一番に気になっていることをドレークさんに聞いてみた。
「うん。シオンくんもティアくん、傷の深かったスザクくんとルギウスくんは既に目覚めているよ。魔族の女性のクレアくん・・だっけ、彼女だけがまだ眠っているようだね」
スザク、という言葉に思わず反応する。
彼を最後にみたのは・・・壁に激突し、力なく倒れる姿・・・。
「スザクくんの傷も深かったけど、ビックリはしたのはルギウスくんだね。
あれだけの傷を負っていたのに、もう動けるなんてビックリだよ」
皆、無事そうで良かった。一目会いたい。
「あの・・・スザクは・・・どこですか?」
私はドレークさんに聞いた。
その時、パタンという音と共にと扉が開かれる。
「ジュリア、良かった。目覚めたんだね」
「ジュリア、ジュリア」
扉から入ってきたのはスザクとティアさん。
そしてシオンさんがもの凄い勢いで抱きついてきた。
「シ、シオンさん!?」
「良かった。本当に良かったよ・・・」
彼女は震えながら、私に抱き着いている。
「うう、これ以上失わなくて良かったわ。」
彼女の言葉で再認識した。
私たちは大切な冒険仲間を失った。
エレンさん、マリアさんを魔王のせい奪われた。
それもマリアさんは魔王の洗脳によって。
魔王に敗れて、そして大切な仲間の二人も奪われた。
「うう、ジュリアが無事で良かったわ・・・。」
「シオンさん・・・・」
洗脳によって失うものが多い・・・。
特にシオンさんは恋人だったラフェールさんとの絆も。
「あの、ルギウスさんは・・・。」
ドレークさんはルギウスさんも無事だと言っていたけど、ここにはいない。
「眠っているクレアさんを診ているよ。」
スザクが答えた。
さっきクレアさんはまだ目覚めてないって言ってたっけ。
洗脳から解かれて、精神が不安定だったのを無理に気絶させた。
もし、目覚めたときにだれか診ていなければ、自殺を試みるかもしれない。
それを防ぐためにルギウスさんは診ているのだと理解した。
「それにしてもルギウスは凄いな。『ジュリアが目覚めたようだぞ。クレアは俺に任せて行ってやれ』って、唐突に言ったから驚いたけど、まさか本当に目覚めてるなんて」
ティアさんが言った。
「なんか気配とかでわかるらしいですね・・・。」
スザクが手を顎に当てながら言った。
気配だけで目覚めたのがわかるってルギウスさんって本当に底知れない・・・。
「私も気配察知使えるのに全然わからなかった。」
シオンさんは私に抱き着きながら、落ち込んだように言った。
ルギウスさんが別次元すぎるだけだから気にしなくていいと思うけど・・・。
「でもジュリアがあんな魔法が使えるなんて・・・。驚いたわ。」
「僕は気を失っていたから知らないんだけど、みんなを助けたみたいだね」
「魔法・・・?」
シオンさんとスザクの言っていることがわからない・・・。
「ん?スザクとルギウスが敗れて、私ももうダメだ、終わりだって思ったら、ジュリアが緑の光の魔法を発動しただろう?」
私のつぶやきに反応したティアさんが言った。
「え、え、あの」
私が戸惑っているとスザクが声をかけてくる。
「ジュリア、もしかして自覚ないの?」
「うん。そうなの・・・。スザクたちを助けてって願ったらね。そうなったみたいで・・・」
「そ、そうなんだ」
うーんとスザクがうなる。
どうしよう、どう説明したら・・・。
「僕が説明するよ」
ドレークさんが唐突に言った。
「ドレークさん!?」
「君たちが出発するときに、僕がジュリアくんを引き留めたよね」
そういえばあの時、ドレークさんは私の首飾り緑の石を見て引き留めた。
私はその首飾りを手に持つ。
「その石はね。『転移石』っていうんだ。」
「テンイセキ?」
私はよくわからず、ドレークさんの言葉を繰り返す。
「スザク、知っている」
「ごめん僕も知らないんだ・・・」
「転移っていうのは、まあ簡単にいえば瞬間移動みたいなものさ。」
「・・・つまりこの石のおかげで、ここに瞬間移動したから助かった。ってことですか?」
シオンさんがドレークさんに言った。
「うん、そうだね。」
「だが、そう都合よくドレークさんの家に瞬間移動できるものなのか?」
ティアさんが言った。
確かに私の緑の石のおかげで、瞬間移動できたとしても、その移動先はドレークさんの家となるものなのだろうか?
「ティアくん、ここに移動してきたのは必然なんだ。」
ドレークさんはそう言いながら赤い石を出した。
「その石が関係あるのか?」
「転移石は、2つそろってその効果を発揮するんだ。この場合は、ジュリアくんの緑の転移石が転移元、僕の赤い石が転移先になったわけだよ。」
ドレークさんは赤い石を見せながら言った。
「あ、もしかして・・・」
私はドレークさんが赤い石を見ながら何か呟いていたのを思い出していた。
「そう、ジュリアくん。その時に君の緑の転移石と僕の赤い転移石を『リンク』させたんだ。もし転移されたときのことを考えて、赤い転移石を僕の家に置いておいたんだ。もしものために手を打っておいてよかったよ。」
ドレークさんは笑顔で言った。
「転移石は稀少価値が高くて、さらに2つ無いと意味がない。それに一度使ったら効力は失われる・・・。転移という能力はそれだけ稀少な能力なんだ。」
お父さんとお母さんから貰ったお守りでスザクたちを助けることができたんだ。効力がなくなったとしてもこれからも私の大切なお守りだ。
「僕たちはドレークさんのおかげで助かったんだね。ありがとうございます。」
スザクがドレークさんにお礼を言う。
「大きな作戦の時こそ、最悪の事態を想定して動くのが、僕の役目だからね。」
「でも使い方とか、もっと丁寧に教えてくれても良かったと思うんですけど・・・」
私は思わず言葉に出した。
あの時ドレークさんは『願って』とは言っていた気がするけど。
無自覚に願ったおかげで偶然発動したけど、もし発動しなかったことを考えたら・・・。
「あ、いやそれはね・・・。早く出発したいティアくんが凄い目で見てくるから・・・怖くてね。」
そういえばドレークさん、あの時少し怯えていた・・・。
私はジトっとティアさんの方を見る。シオンさんも同じような目で彼女を見つめている。
スザクは下を見ている。
その目線に耐えられなくなったのか・・・
「わ、私のせいなのか?」
と顔を真っ赤にして、ティアさんは叫んだ。
平日は感想返信が遅れることはありますがご了承ください。
物語の展開に差し支えない範囲で必ず返信します。