49:エレンの復讐
第3章ラストです。
後半は魔王視点となります。
「お前がいなければディーンは死ななかった」
「お前がいなければディーンと故郷で穏やかに過ごせた」
「お前がいなければディーンとの子供を授かった」
「お前がいなければこの体は汚れなかった」
「お前がいなければジュリアとシオンを裏切らなかった」
「お前がいなければジュリアとシオンに怖い思いをさせなかった」
「お前がいなければパーティのかっこいい姉でいられたんだ」
「お前がいなければお前がいなければお前がいなければ」
拳と言葉が止まらない。
心から憎しみがあふれ出るたびに、拳と言葉が出る。
・・・それに身を委ねるのが気持ちいいと思う自分もいる。
もう止まらない。この快感に身を委ねて、こいつに怒りをぶつける。
「お前がいなければお前がいなければお前がいなければ」
「エレン」
ディーンの声が私の憎しみを止める。
私の目の前には、勇者のようなものが転がっている。
「・・・エレン。つらかったんだね」
ディーンが私をぎゅっと抱きしめる。
「これでも生きているってすごいね・・・。
この男、『勇者』じゃなくてゾンビなんじゃないのか。」
安心する。
私が小さいころ両親に怒られて、ディーンの家に逃げ込んだとき
彼との初めてのデートのとき
彼が私にプロポーズしてくれたとき
私たちの家での初夜のとき
何度も何度も何度も、ディーンに抱きしめられたからわかる。
このディーンは本物だ。
本当にディーンは蘇ったんだ。
「・・・これ以上はこいつの命が消えてしまう可能性がある。
それでは魔王様の命令に逆らってしまうことになる。」
魔王「様」のおかげでディーンは蘇ったんだ・・・。
「エレン。僕はもうこの男はどうでもいい。君とまた共に歩めるんだから・・・」
「私もだ。これに怒りをぶつけて、少しは晴れた。」
「これからは、僕たちをもう一度ひきあわせてくれた魔王様に、共につくしていこう。」
「ああ、ディーン」
ディーンと共に私は魔王様につくす
「うふふ、エレンも美しくなったじゃない」
エリーが私に声をかけてきた。
私はその発言の意図が理解できなかった。
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~魔王視点~
我は魔王。
目の前には、生きているだけの勇者
我の駒たちに相当な復讐を受けたのだろう。
復讐を終えたエリー、シュリ、エレンの姿が魔族化していた。
相当の憎しみを心からあふれ出させ、それに身を委ねて復讐したのだろう。
彼女達が魔族化したのは、我の目指すことにとって朗報だ。
勇者の眼に光は宿っておらず、体液があふれ出ている。
「これでも生きているなんて・・・。これが勇者なんでしょうか?」
我の隣にいる『魔王妃』マリアが言う。
我と愛し合い我を受け入れたことで彼女は能力が大幅に上がり見た目も変わった。
「こんなのと夜を共に過ごしたことがあるなんて・・・痛ましいですわ」
マリアはゴミを見るような目で勇者を見て言う。
「マリアよ。我はこの勇者の力を取り込む。」
人類の希望を。絶望である我が「取り込んだ」時、
果たして人族は団結できるか?
きっとこの「絶望」を他者のせいにして、同族に八つ当たりして現実から目を背けるのだろう。
高ぶる。
「力を取り込むには、それなりの時間がかかるだろう。その間我は動けぬ。その間・・・」
「取り込むには、どれくらい時間がかかるのですか?」
マリアが焦ったような顔で聞いてきた。
我は『魔王妃としてしばらくの間頼んだぞ』と言おうとしたのだが。
「・・・そうだな、短くて1週間、長くて1か月くら・・・」
「ああ、いけません!」
「ど、どうしたのだマリア?」
我はマリアの変貌に驚き声を出す。
「わかっております。魔王様の更なる力を得るために必要なことだと・・・」
「そ、そうか」
「ですが、魔王様に初めて愛していただいたその直後にそんなこと言われてしまうなんて・・・。
・・・私はしばらくは愛してもらいたいです。それにエリーとシュリもまだ魔王様に愛してもらってませんわ。」
マリアには清楚な印象を持っていた。
まさか、淫らな想いで我の勇者の取り込みを延期させようとしてくるとは・・・。
「これは私の魔法で、『この状態のまま』延命させます。ですからもう少し愛してほしい・・・」
「わかったぞ。マリアよ」
「魔王様」
勇者は交わった女性のスキルの覚醒を促す。
それは所謂『勇者の奇跡』というのだろう。
その奇跡があるのなら『魔王の奇跡』もある。
エリー、シュリ、そしてマリアとさらに交わり、スキルの覚醒を促して、より強力な駒とするのもいいかもしれない。
ルギウス達に立て直しの時間を与えてしまうことになるが・・・。
「マリアよ。では勇者の延命を頼んだぞ」
「承知しました。魔王様」
高ぶる。
戦いは戦いとして成立するから面白いのだ。
次回登場人物まとめを挟んで、第3章終了となります。
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今後の展開のネタバレにならないように気を付けて返信いたします。