表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/132

48:解放された憎しみ

エレン視点となります。

「お前がいなければ、俺は妻と、楽しく過ごせてた!」

 レオンハルトは勇者を殴りながら叫ぶ。



「お前に洗脳された妻を見るのがつらかった。だから俺は逃げるようにモック村の南の森の調査に行った。」


 モック村ってジュリアの故郷だったな。


「そこで私は妻を忘れるように任務を遂行した。・・・だが、妻から逃げて任務を遂行したことを後悔した」



 左手で勇者の首を掴みながら、右手の拳を握りしめた。



「・・・お前は妻を妊娠させた。」



 もしかしてあのとき勇者に妊娠を告げた女性はレオンハルトの妻だった・・・のか?


 その女性は以後見なかったってことは・・・。



「お前は子供を堕ろさせて捨てた。」


 彼の声が悲痛なものとなっている。


 洗脳されている間は望んで子供を欲しがったのかもしれない。

 実際に私もそうだった。

 けれど、正気に戻ってしまったら・・・・。



 好きでもない男で妊娠して、レオンハルトを裏切った事実。

 そして中絶したという事実。


 もし私がそうなっていたら耐えきれただろうか?




「南の森から帰ってきて俺が見たものは・・・」




 レオンハルトは続ける。




「妻の自殺した姿だった・・・」


 声は悲痛なものだが、殴る力は緩めない。



 考えただけでも恐ろしいのに、

 実際にそうなってしまうと死を考えるのもおかしくはない。


 彼の妻は、勇者の洗脳がきっかけで命までも奪われてしまったのだ。






「レオンハルト、そろそろ良いでしょ?」


 剣聖のエリーが止める。


 レオンハルトの殴る光景はあまりにも壮絶だっただからだろうか。



「私たちが・・・満足に復讐できないじゃないですか」

 狂気、憎しみに染まった目で勇者を見る。



「行くわよ。シュリ」

「ええ。好き勝手してくれた鬱憤を晴らすわ」

 二人の歪んだ顔。



 それはとても「剣聖」「賢者」とは思えない。



 むしろ魔物に見える。




「あんた女を洗脳しないとまともに話せないのね」

「今まで勝てる試合しかしてこなかったあなたが惨めに地べたを這いつくばっている。どんなきもちですか?」

 エリーは剣の柄で、シュリは杖の先で叩きながら罵倒する。



「洗脳されていたとはいえ、あんたなんかに媚び売っていたのは最悪の思い出よ」

「でもあなたのおかげで、素敵な魔王様と出会うことができました。

 あなたによって開発された能力スキルと身体はこれからは、魔王様のために使いますわ。」

「シュリ、身体は開発されてないわよ。・・・今思えば洗脳がなければ、この男なんてお粗末よ」

「そうでしたね。洗脳されていたとはいえ、あんな粗末なものを求めていたなんて・・・気持ち悪い・・・」

「あはは、でもこれからは魔王様によって開発してもらうから、安心してね」

「魔王様はあなたと違って、立派なはずですわ。」





 エリーとシュリは自分の中にある心の闇を吐き出すように、言葉による暴力を続ける。





「うわ・・・キツイな・・・」

 ディーンが言うように、男性の尊厳を傷つけることを言っている。



「はあすっきりしたわ。本当はもっとしたいけど・・・」

「あんまりやりすぎてしまうと・・・あなた方も楽しめないでしょう?」

 エリーとシュリは私とディーンの方を見て言う。



 なんか雰囲気が変わったか?



 肌の色とか変わったような・・・



「じゃあ僕たちも行こうかエレン」

 彼女達を見て考え込む私の手をディーンが引く。




 私の下には哀れに地べたに倒れている勇者がいる。




 復讐すると誓った勇者。

 それが目の前に転がっている。



 あの時、馬車の中でした妄想が実現できる状況だった。




「僕は君のせいで死んだ。」



 いや違う。

 愛する夫を殺したのは洗脳された私だ。



「エレン、君は僕を殺していない。」


 ディーンが思わぬことを言うので驚いた。

 私が指輪を投げて、それを取ろうとして、ディーンは崖下に落ちたのだ。


「何を言ってるんだ。私は指輪を投げて・・・」

「思い出してごらん・・・。」


 私の言葉を遮ってディーンは言った。


「あの時『強風』が吹いたよね。」


 そうだ。その風のせいでディーンはバランスを崩して・・・。


「その『強風』って自然なものだったのかな?」

「えっ!?」

 


 ディーンの言葉を聞いて、私はモック村の依頼のことを思い出していた。




 ポイズンバタフライと戦ったときも時、ジュリアが風の魔法を使っていた。

 そして私たち冒険者としてたくさんの魔物討伐依頼をこなしているときも・・・。



『ストロングウィンド』

 そうジュリアは言って、風の魔法を使っていた。




 魔法で風を起こすことができる。


 ・・・あの時の『強風』が人工的なものだった?

 勇者が風を魔法で発生させていた?




「僕たちを引き裂いた『風』。それを起こしたのは勇者、君だろう。」


 ディーンは指輪を手で取ろうとしてバランスを崩して転落した。


 バランスを崩した要因は『風』だ。


 その風を起こしたのがこの勇者・・・?




 今まで私はディーンが死んだのは私のせいだと思っていた。だから私が殺したのだと思っていた。



 けれど、ディーンが死んだ直接的な原因はこの男。

 私たちを切り裂く『風』を起こしたこの男。


 

 私は今までこいつがやった罪を自分がやったと思い込んで背負っていたというのか?






 

 憎い。


 その感情が滲み出てくる。




「僕は命を失った。・・・でも彼女はもっとたくさんのものを失った。僕との未来、故郷、女性として尊厳。」



 ディーンと楽しく暮らせば、それでよかった。




 故郷の人にも尻軽女として見られることもなかった。




 憎しみが溢れ出てくる。




「ただ、僕らは魔王様のおかげで再会できた。

 ・・・人を救うはずの勇者様が僕たちを壊して、人の脅威である魔王様が僕たちを救ってくれるなんて・・・。君は本当に『勇者』なのかい?」



 本当だ。

 この勇者は壊してばかりだ。



 私たちの関係だけでじゃなくて

 可愛い仲間のジュリア、シオン、マリア。



 オアシスのように私を癒してくれる可愛い仲間。

 夫を失った私に生きる意味を与えてくれた可愛い仲間。




 ジュリア、シオン・・・。




 私は彼女たちを・・・。





「彼女は僕の側にいるために仲間を裏切る形になった。それは君のせいだ。僕が死ななきゃそんなことにはならなかった。」



 彼女たちを裏切った。

 パーティの(リーダー)として失格だ。



 彼女達は私に生きる意味をくれた。

 私にとって彼女達はオアシスであり、希望であり、天使である。



 そんなジュリアとシオンの怯えた顔を見たくなかった。

 いや、そんな顔をさせてしまったのは私だ・・・。





 でもそれもこれも全てこいつのせい。





 こいつさえいなければ、ディーンは死なず、ジュリア達のことも裏切ることはなかった。

 可愛い私の仲間に恐怖を味わわせることもなかった。





 こいつのせい、こいつのせい、こいつのせい。





 考えれば考えるほど、憎悪の感情があふれ出てくる。

 止めることができない。






 心が憎悪の感情に染まりきった私は気づかない。

 勇者に出会わなければ、ジュリア達と出会ってないこと。

 勇者に出会わなければ、ディーンの邪魔だと思うことはなかったこと。

 勇者に出会わなければ、ディーンと末永く、故郷で過ごしていただろうこと。

 指輪を投げる行為をしなければ、ディーンは転落することもなかったこと。

 そして彼女たちを裏切る形でディーンのそばに行ったのは自分の意志であることを。






「さあ、エレン」

 ディーンが私の名前を呼ぶ。


「僕たちの怒りをぶつけるんだ」



 愛しい人の優しい声。そして・・・




 ―『エレンさんは、勇者が憎いですか?』

 あの時ジュリアが馬車の中で発した言葉を思い出し・・・。




「ああ憎いよ。」




 私の憎しみが解放された。

次の話もエレン視点です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 恋愛脳で脳みそお花畑のウザクとまな板一味が 見え見えの罠に引っかかって敗北したところ まな板たちが協力した魔族の将軍って散々、 人間を殺してきた敵側なのに 敵国の将軍の嫁(こいつも将軍)…
[良い点] いつも楽しく見せてもらっています。ハッピーエンドが気になります、今のところ創造できませんので楽しみです。これからも頑張ってください♪ [気になる点] 敵サイドの戦力等が充実しすぎて、味方側…
[良い点] こわい・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ