5:重荷
私たちは王都を出て、それぞれの故郷へ旅立った。
「・・・まさかジュリアと同じ方面だったなんてな。」
エレンさんは恥ずかしそうに顔を埋める。
「王都でみんなと別れると思って、かっこつけたことを言ってしまった・・・」
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王都を出るとき、エレンさんは私たち3人を抱き寄せて言った。
『ここで同じタイミングで故郷に帰るというのは運命かもしれないな。
私は本来出会うことはなかったかもしれない。洗脳・魅了という、まるで魔王のような能力で大切なものを壊され、失った。
でもこれから取り戻す旅に出るんだ。そして取り戻せたら・・・また会おうな。』
『だから、さよならは言わない・・・またな。』
と言って、私も乗る馬車に乗り込んでいった。
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「うう、はずかしい・・・」
エレンさんが顔を真っ赤にしてうずまっている。
「うふふ、かっこいいセリフでしたよ。」
「ジュ、ジュリアお前。」
エレンさんに勇気づけてもらったとはいえ、正直故郷に帰るのは不安だ。
スザクは優しい。
洗脳のことを知ればきっと許してもらえると思う。
でもスザクからしたら、私は勇者に乗り換えて、勇者と共に彼を踏みにじった外道だ。
洗脳されていたとはいえ、こんなことをする外道な人間を許してくれるだろうか?
いくら優しい彼とは言えども・・・。
「また不安な顔をしているぞジュリア」
「・・・私が洗脳されている間にスザクに何をしたか思い出したんです。そのことを思い出したら、事情を知ったとしても優しいスザクは許してくれるのでしょうか」
ダメだ。
またエレンさんに甘えてしまう。
私の故郷の村についたらもう彼女には甘えられないのだから。
「・・・・そうだよな、みんなあの男のせいで本当に愛する人をたくさん傷つけた。
それが自分の意志じゃなくてもな。」
エレンさんは顔を歪めて言う。
私が不安を漏らしてしまったばかりにそんな顔をさせてしまった。
「なあ、ジュリアはどんなことをしてしまったか話してみてくれないか?」
「えっ!?」
「・・・話して楽になることってあるだろ?」
これ以上は甘えるわけにはいかない。
・・・でも話したい。
それがただただ私の背負う『重荷』をエレンさんに無理やり共有させる行為であることを理解していても。
「おいおい。遠慮しているのか?ほら話してごらん。」
彼女の優しい声に私は・・・
「エ、エレンさん」
私は止まらなかった。
スザクがくれたプレゼントを売って勇者に貢いだこと。
スザクの前で勇者とキスしたこと。
スザクの尊厳を踏みにじることを勇者とともに浴びせたこと。
スザクを捨てて勇者と共に王都にいったこと。
話しているに何度も途中も謝った。
それはスザクに対してなのか。
こんな外道の話を聞かせて『重荷』を背負わせたエレンさんに対してなのか。
それとも両方になのか。
私もわからないまま、思うがままに、口が開くままに話した。
「ジュリア、もういいぞ・・・」
不意にエレンさんが私の頬をさすった。
「わたしは、わたしは、外道なんです。スザクにも、エレンさんにも自分がやったことの重荷を背負わせて・・・」
自分でも何が言いたいかわからなかった。涙も溢れていた。
「外道、か・・・」
エレンさんはそうつぶやくと私の涙を拭く。
「・・・なあジュリア。今度は私がお前に話していいか?」
・・・今の彼女は触れただけで壊れそうな雰囲気をしている。
「エレンさん、話してください。」
私は壊れないようにやさしくギュッと抱きしめた。
「・・・・私の夫、ディーンが死んだっていうのは教会で話したよな」
「はい。」
私は思った。
いや思ってしまった。
もしかしてと・・・。
「ディーンが死んだのは・・・・私が殺したからだ」