47:哀れな勇者
魔王視点となります。
突如緑の光が当たりを包みこんだ。
その光が収まったと思ったら・・・。
我の敵が消えていた。
今後、我の野望の脅威となるであろう者たちを倒す機会を逃した。
四天王最強で魔王を脅かす存在であったルギウス。
その妻クレア。
強き心を持つ魔法剣士スザク。
卓越した剣術をもつ女戦士ティア。
必中の矢を放つシオン。
そして緑の光を発光源となった魔術師のジュリア。
スザクをこちら側に引き込めなかったのは痛手だ。
やつを引き込めば、魔術師のジュリアも引き込めた。なぜなら彼女はスザクの背中を追うことしかできないからだ。
勇者への恨みを引き出し、スザクを揺さぶった。
洗脳を使い、エリーたちを魅了状態として我の駒とする光景を見せて
勇者に洗脳されてジュリアを奪われた過去の痛ましい記憶を引き出そうとした。
レオンハルトと戦わせ、心を揺さぶった。
だが、その程度では強き心を持つは揺るがない。
それどころか真向から我達に挑んできた。
・・・少々甘くみていたのかもしれない。
スザクを我の駒として引き込もうと考えるべきではなかった。
ルギウスと一緒に殺す対象とすべきだった。
しかし、得たものもある。
まず、勇者に強い恨みを持つ人間を駒とすることができた。
ディーン、レオンハルト
さらに剣聖のエリーと賢者のシュリを洗脳した。
そして、勇者。
この男は我の糧となる。
人類の希望が我の討伐に失敗する。
我を討伐することを盾に、好き放題やっていた勇者。
しかしその盾が崩壊したとき、人々はその不満を表に出さずにいれるか?
人類の希望の勇者が、人類の絶望の魔王の糧となったとき
「勇者」の名のもとに人は「団結」することはできない。
我は弱い。
だから、力を得る必要があった。
そして、敵の団結を崩す必要があった。
我は勇者の力を得る。
そして、敵は「勇者」の名のもとに「団結」することはできなくなった。
むしろ、勇者が好き放題やっていたことで、人族の「団結」が崩壊する可能性もある。
嬉しい誤算だったのは、マリアを洗脳できたことだ。
魔王の我の傷を完璧に癒す優秀な癒し手だ。
優秀な人間は、魔族として我の元においておきたい。
確かに我の野望の脅威となる者たちを倒す機会を逃した。
だが得るものは得た。
物事が思い通りに進み過ぎるのもつまらない。
むしろ「逃した」ことで、さらなる楽しみも増えたかもしれない。
高ぶる。
「魔王様、やつらを逃してしまい申し訳ない。」
「気にするなディーンよ。それに完全に逃したわけじゃない・・・」
哀れにも倒れている男を見る。
「惨めにも倒れて立ち上がれず、魔術師の脱出魔法とやらにも加えてもらえず、見捨てられた勇者がいるではないか」
我の言葉で駒たちが勇者を見る。
勇者を我が糧とする前に、エリー、シュリ、そしてエレンを「魔族」とするために、利用させてもらうとするか。
特にエレンは我に洗脳されていない。
ディーンのそばにいると決めただけだ。
彼女は優秀な格闘戦士だ。
ディーンと同じ魔族として、そばに置いておきたい。
・・・ならば、心の闇を引き出すまで。
「ディーン、エレン、レオンハルト、エリー、シュリよ。」
我は彼に呼びかける。
「勇者に復讐したくはないか」
5人は、はっとした顔で我を見た後に、勇者を見る。
「・・・今がお前たちの復讐のチャンスだと思わないか?」
レオンハルトとエリーは剣を抜く。
「自分の恋人を奪われた。洗脳して弄んだ。なにかしら恨みがあるはずだ。復讐したいだろう。」
シュリが杖を構える。
「殺すな。やつの命は我の糧となる。・・・・ただ殺さなければあの男に何をしても良い。」
ディーンがエレンの肩を抱く。
そして「一緒に復讐しよう」と声をかける。
「拷問、罵倒、何をしても良い。・・・・何度も言うが殺さなければ、な」
エレンも拳を握りしめる。
ディーンにささやかれたことで勇者への復讐心が駆り立てられたか
そのまま、心の闇に身を委ねれば、魔族となるだろう。
高ぶる。
「我は何も干渉しない。思う存分、勇者に復讐するが良い。」
5人は一気に勇者に向かっていった。
「魔王様、私も勇者に好き勝手にされてましたわ。復讐したいですわ。」
「マリアよ。お前の癒しの魔法がなければ我はルギウスに負けていた。」
実際にふいうちをくらわしたはずのルギウスに追い詰められた。マリアの癒し魔法で傷を回復しなければ負けていただろう。
・・・我は強くない。
だが勇者を糧にすることで我は生まれ変わる。
今度こそ『正面』からお前に勝って見せるぞルギウス。
「そんなことは・・・」
マリアは謙遜するが、我を助けたという功績は称えなければならない。
「マリアよ。我と一緒にこい。」
我を助けた褒美を与えなければならない。
「たくさん愛してやろう。それよりも下らない男に復讐したいか?」
「いえ、魔王様に愛して貰えるならあの男なんてどうでもいいです。」