44:自殺
この話はスザク視点となります。
VS漆黒の騎士です。
魔王が呼び出した黒い騎士と僕は戦っている。
魔王たちと戦っているのは、手負いのルギウスとティアさん。
そしてジュリア、シオンさんはクレアさんを守りながら戦っている。
状況的に不利だ。早くこいつを倒さないと。
「・・・あっちの戦況が気になるか。俺も舐められたものだな、スザク!」
重い一撃が僕を襲う。
「うぐっ!」
この騎士、かなり強い。
パワーが圧倒的だ。
正直あちらの戦いには参加できないかもしれない。
魔王とジュリアが戦っているのに・・・、
勇者からも魔王からもジュリアを守れないのか僕は。
「集中力が全くないな。勇者から奪われかけた大切な人がそんなに心配か?」
「・・・!」
なぜそれを!
と言いたい所だが、漆黒の騎士も猛攻にその疑問を問う余裕もない。
あちらを気にしてやられる位ならまずはこいつから倒す。
「やっと俺の方を向いたか。」
まずはこの兜からはぎ取る。僕は風の魔力を纏わす。
「エアカッター」
風の斬撃を飛ばす。空気を切り裂く斬撃で相手を怯ませる。
「やるな・・・」
「ファイアーソード」
エアカッターを飛ばした後、火の魔力を剣に纏わしながら、騎士との距離を一気に詰める。
エアカッターで相手を怯ませつつ、僕はスピードのある攻撃で攻める。
相手がパワーで圧倒してくるなら、その差を頭を使って埋める。
僕の剣が兜に命中する。
「・・魔力を剣に纏わして、俺に一撃を入れたか」
騎士の兜が外れる・・・。
「剣術だけでなく、戦闘における思考力も高くなったようだな」
「いちいちわかったようなことを・・・」
兜の外れた騎士の顔見て・・・。
僕は目を疑った。
「なんで・・・・レオンハルトさん」
「甘いぞ。スザク。」
驚いた隙を突かれて、蹴りをもろに喰らい飛ばされる。
「・・・っ!」
痛がる隙も与えず、レオンハルトさんの攻撃がくる。
なんとか反応し剣で防ぐが、重い一撃の衝撃が剣から伝わる。
「ほう・・・今のでトドメをさせると思ったが・・・」
剣越しにレオンハルトさんは言う。
「なんで、なんで」
「俺も勇者が憎いからだ」
「!?」
思わずどういうことかと聞きそうになった。
でも今度隙を与えたらやられる。
「俺もやつに妻を奪われた。」
剣と剣が交わる。強烈な一撃だ。
「そして妻はやつとの子供を身籠った。」
ジュリアももしかしたら・・・。
いや惑わされるな。集中だ。
レオンハルトさん一撃がさらに強くなる。
僕の集中力を妨害しようと言葉をかけてくる。
「そして洗脳から解かれた。」
言葉に惑わされずに集中だ。次の手を考えるんだ。
「・・・お前も勇者に沢山のものを奪われたはずだ。」
レオンハルトさんの攻撃の手が止まる。
「俺と一緒にあそこに倒れている勇者に復讐しないか?」
「お断りします」
復讐したい気持ちは正直あった。
ジュリアは帰ってきた。
けれどもあれだけ再会したかったはずの彼女から僕は逃げた。そして村からも出た。
それでも彼女は追ってきてくれた。
これで十分だ。
・・・今、やつは戦いに参加することなく倒れてる。
それを見て洗脳しないと女性に好かれない。
そんな程度の男だと思えた。
その程度の男に復讐してもジュリアと元に戻るなんてことは当たり前だけど無いんだ。
自分が変わらないといけないんだ。
「・・・やはりか。俺とお前では決定的に違う。」
レオンハルトさんの剣に黒い力が集約する。
「お前は大切な人が戻ってきたな・・・」
強力な攻撃がくる。僕はそう予想した。
防いでしまえば隙が出る。その隙をついて、一気に勝負を決める。
僕は剣に魔力を込める。
「俺の妻は『自殺』した。」
自殺・・・。
もしもジュリアがあの時『帰ってくる』という選択ではなく、洗脳された事実に絶望して自らの命を絶つことを選択していたら・・・。
勇者を憎んで悪魔にでも魔王にでも魂を売って復讐したのかもしれない・・・
・・・集中力が一瞬途切れた。
「甘いなスザク。」
「し、しまっ」
「怨念の剣、ダーククラッシュ」
レオンハルトさんの剣から巨大な闇の力が出て、僕に迫ってくる。
「ぐっ!」
僕は剣で抑えようとするが・・・。
あの一瞬集中力を切らしてしまったから防御するには力が足りない。
僕は耐えきれず、闇の力に吹き飛ばされ、壁に激突する。
そして力なく地面へ倒れこむ。
これ以上・・・体が動かない。
強力な回復魔法が発動している。
・・・けれど僕の傷は癒えない。
「いやあああああスザク」
ジュリアの悲鳴が響いた。
勇者からも魔王からもジュリアを守れないのか・・・
僕は意識を手放した。
レオンハルトさんは第1章のスザクの回想話で登場した人です。