41:洗脳解除
勇者、そして3人の女性たちが部屋に入ってきた。
一人は剣を持つ戦士の女性。噂の剣聖なんだろう。
一人は杖を持つ女性。こちらはきっと賢者だ。
そしてもう一人はフードを被っている女性。
恐らくこの人が・・・。
勇者は私たちを目にすると言った。
「ティアさんもいましたか。この勇者が来たからもう問題ありません。さあ俺たちと一緒に戦おう。」
本当に反吐が出る。
紳士のふりをしやがって。
洗脳して、自分を好きになるように魅了状態にして、おもちゃみたいに捨てた女が目の前にいるのにそんなことを言う勇者。
・・・捨てたおもちゃの顔なんて覚えてないのね。
「クレア・・・」
ルギウスさんが弱々しく声を出す。
あのオーラを発するものが出すような声じゃないじゃないから一瞬誰の声であるかわからなかった。
それくらい、弱々しい声だった。
「・・・チッ、あれがルギウスか。」
勇者はそうつぶやく。
「・・・クレア、ルギウスの相手を頼むよ。」
「はい。勇者様。」
フードを被った女性・・・クレアさんが返事をする。
「ルギウス。勇者様のためにおとなしくしててね」
クレアさんはルギウスさんに向かって攻撃をしかける。
大切な人から攻撃される。
ルギウスさんはその攻撃を受け止めようと構える。
その姿に殺気はない。受け止めるだけの構えだ。
大切な人を殺意を持って攻撃する。
もし今後魔王によって洗脳が解除されたとき・・・。
クレアさんにそんな記憶が残る。
私は洗脳を解除されたときのことを思い出していた。
あの時は悪夢のような記憶が身体中に流れ込む感覚だった。その感覚に耐えきれず私は気絶した。
だけどクレアさんは四天王で私より遥かに強い。もしかしたらその強さ故に、その感覚に耐えてしまうかもしれない。
私のように気絶しないかもしれない。
気絶しなかったら彼女は・・・。
クレアさんがルギウスさんに攻撃を仕掛けるのを見た後、勇者は魔王に言う。
「これで俺たちは魔王に集中できる。覚悟しろ魔王。」
勇者は魔王に剣を向けた。
「いい働きをしたな勇者よ。感謝するぞ」
「は・・・?」
魔王の言葉に勇者が思わず言葉を漏らした。
その瞬間・・・
「いやああああああああ」
ルギウスさんに攻撃を仕掛けていたクレアさんが突然悲鳴を上げて地面に膝をつける。
「ど、どうした」
悲鳴をあげたクレアさんにルギウスさんは声をかけて彼女を抱きかかえる。
もしかして、今洗脳が解かれた・・・の?
「クレア、どうした?それにエリーもシュリもなぜ膝をついている。」
勇者が声を出す。
その声を無視して、クレアさんは震えている。
「わたしはわたしはわたしは・・・」
私は確信した。勇者の洗脳が魔王によって解かれたんだと。
クレアさんは私たちと同じように洗脳されていたときの記憶が身体の中に流れ込んでいる。
剣聖や賢者もきっと・・・。
「魔王、一体何をした。ぐっ!」
勇者の右足から剣が貫かれる。
「なぜだ・・・エリー」
勇者を剣で貫いたのは剣を持つエリーと呼ばれた女性・・・剣聖だった。
勇者の声を無視して、左足も剣で貫く。
「ぐっ!」
勇者は足に力が入らなくなったのか立てなくなり、地面に這う。
「パワーダウン」
「う、シュリ・・・・も・・・」
冷たい声で勇者に魔法をかけたのは杖を持つシュリと呼ばれた女性・・・賢者だった。
「まだ死んではダメですよ。ゴミ勇者」
シュリは、さらに冷たい声で勇者に言葉を吐き捨てた。
「よくやったぞ。」
魔王が言った。
「はい。魔王様。」
まさかエリーとシュリは・・・。
「何が起こっているんだ」
ティアさんが思わず声をあげた。
「ティアさん、ジュリア達も武器を構えて」
異変を感じたスザクが声をかける。
「魔王、どういうつもりだ。」
圧倒的な殺気を放ちながらルギウスさんがクレアさんから手を離して、魔王の方を向いた。
「わたしは、ルギウスを、魔王様を、裏切って・・・」
ルギウスさんの手から離れたクレアさんが激しく震えだす。
「いやああああ私はああああああ」
悲鳴をあげながら、右手にもっている剣を自分に向けた。
「なっ、クレア!?」
クレアさんの悲鳴を聞いたルギウスさんは振り返って、クレアさんに方へ走り出す。
「アイスエッジ」
私はクレアさんに氷の刃の魔法を放つ。
クレアさんは自分のやってしまったことに対して、耐えられなくなって自殺しようとしている。
ルギウスさんを裏切って、敵である勇者に身体を許した。
クレアさんは武器を持っている。衝動的に自殺をしようとしてもおかしくない。
・・・私だって、死にたいと思った。
あの時は気絶したから良かったのかもしれない。あの感覚に耐えて気絶しなかったら、私は衝動的に自殺をしていたかもしれない。
・・・クレアさんの動きを注意して見ていて良かった。
私の氷魔法で右手を傷つけて、剣を落とす。
ちょっとでも動きを止めることができれば、ルギウスさんが・・・。
倒れていた。
「愚かだな。ルギウスよ。そんな無防備に我に背を向けるなど」
「ぐ、ま、魔王・・・。」
「いくらお前が最強とはいえ、愛するクレアに気を取られて背を向ければ我だって攻撃を通せるぞ。ここでお前にトドメを刺したいところだが・・・そこの魔法剣士が許してくれなかったか。」
ルギウスさんは後ろを振り返ってクレアさんに気を取られてしまった。
その隙を魔王に突かれてふいうちという形で攻撃されてしまった。
ただスザクが素早くルギウスさんを助ける体制に入っていた。
「ごめん。悲鳴に気を取られて一歩遅れてしまった。」
「・・・いや、助かったぞ。」
私の放ったアイスエッジはクレアさんの右手に命中し、右手から剣を落とすことに成功した。
けどまた拾われたら・・・
「ティアさん。剣を取り上げて!」
私は叫ぶ。
「わかった」とティアさん言って、素早く動いてくれたけど・・・。
「いやああああ、わたしは、わたしは」
クレアさんは狂ったように叫ぶ。このままじゃまた剣を拾われてしまう。
間に合わないと思ったとき、一本の矢がクレアさんの右手を刺す。
「シオンさん!」
「危なかったわ。ジュリアが魔法で時間を稼いでくれたおかげね。」
「ティアさん、そのままクレアさんを気絶させてください。彼女は今洗脳を解かれて精神が不安定です。自殺しようとしていました。」
クレアさんはまだ不安定だ。一旦気絶させた方がいい。
ティアさんは「すまない」というと、剣の柄をクレアさんの首の後ろを思いっきり叩いた。
「ティアさん!クレアさんを私に」
彼女は剣を使う。気絶したクレアさんを抱えながら戦うのは不利だ。
私なら魔法で遠距離攻撃で攻撃できる。
つまり敵から離れて攻撃できる、私かシオンさんのそばに置くべきだ。
「ジュリア、シオン、ティア、感謝する・・・。」
ルギウスさんが言った。
「何がおこったんだ?」
スザクが困惑しながら言う。
「我はクレアの洗脳を解除した後に・・・」
ニヤリと卑劣な笑みを浮かべて・・・
「我の洗脳を発動させたのだよ。それにかかったエリーとシュリは我に忠実な手駒となったのだよ。」
と魔王は言った。
私は思わず「洗脳」という言葉に身震いする。
洗脳され、魅了状態にかかるという恐怖。
魔王の手駒にされてスザクを攻撃する恐怖。
「でもジュリアたちはかかってないみたいだが。」
スザクの言葉で冷静になった。
彼の言う通り私たちは自分の意志で動けている。
洗脳を解かれて混乱しているクレアさんが自殺しようとしたのをなんとか防いだ。
それにスザクを攻撃しようなんて微塵にも思わない。
そして、魔王が素敵だなんて微塵にも思わない。
「はたして『全員が』本当にそうかな」
私は周りを見る。
矢を放ったシオンさんは大丈夫だ。
でも、エレンさんは跪いて呻いている。
マリアさんは・・・
「魔王様。素敵ですわ。」




