40:魔王との対面
私たちは魔王城の中に入った。
「・・・意外とシンプルな作りですね」
マリアさんの言う通りだ。
魔王がいるという城なのだから、禍々しくて複雑な構造なものだと思った。
けれどまっすぐ歩くだけで奥に進めそうな構造をしている。
「確かにそうだが気を抜くな。どこから攻められるかわからないぞ」
エレンさんの言う通り、確かにこのシンプルな作りが相手に油断させるもの、という可能性もある。
気を引き締めないと・・・。
「待っていたぞ」
その声と共に前から人影が現れる。
私たちは思わず戦闘体勢を取る。
このオーラは圧倒的だ。
私はこれに勝てるのかと思った。
「ルギウスだね」
スザクは穏やかに言った。
魔王よりも強いと豪語する最強の四天王。
私でもわかる。圧倒的なオーラだ。
「よく来てくれた、スザク、ティア。感謝する。
・・・俺を前にしても、逃げださずに戦闘体勢を取るか。相当勇気のある人間ってことだ。」
「私が人選したんだ。当たり前だろう。それで『交渉』はうまくいったのか?」
ティアさんがルギウスさんに言った。
もし『交渉』がうまくいってない場合は、魔王と戦う覚悟をしないといけない。
「ああ、承諾させた。お前らが証人となって伝えてくれ。」
これで魔王を倒すって形じゃないけど、勇者の使命を殺すことができたんだ。これで好き放題やっていた勇者も『強さ』を盾に好き放題できなくなる。
「・・・後は勇者からクレアを救いだすだけだ。それまで協力してくれ。」
そう言うとルギウスさんは私たちの方を見た。
そして「俺はルギウスだ。」と自己紹介した。
「私はエレン、そしてこちらがジュリア、シオン、マリアだ。」
「なるほど。格闘戦士、スナイパー、魔法使いに癒し手か。それでスザクたちから聞いているかもしれないが・・・。」
私は驚いた。戦う姿を見せてないのに、なぜ私が魔法使いだってわかったんだろうか。
「信じられないと思うが、俺の妻がクレアが勇者に洗脳されてしまったんだ。」
「わかってます。」
私は言った。
「ジュリア・・・と言ったか、なぜ魔族である俺の話を簡単に信じる?」
「私たちは・・・勇者に洗脳されて魅了状態になっていたことがあるからです。」
ルギウスさんは目を見開く。
「・・・そうかお前もクレアと同じ被害者か。」
「なので救いたいと思いました。もちろん、魔王の脅威をなくすというのもそうですけど、クレアさんを救いたいと思ったから私はここにきています。そこに人も魔族も関係ありません。」
この人に勇者を殺してほしいと願ったこともある。
でもクレアさんを救いたいと思ったのも本当だ。
「そうかありがたい。どうかよろしく頼む。」
ルギウスさんは頭を下げて言った。
「・・・そろそろ魔王のところに案内してほしいのだが」
ティアさんがルギウスさんに言った。
「ああそうだな。・・・クレアや勇者、他に二人の女も一緒に魔界にきたようだ。」
「二人の女?」
魔界にもハーレム要員を連れてきているのだろうか?
「一人は剣の使い手、一人はかなりの魔法使いか。」
ああ、ちゃんと戦闘要員だったのね。
「噂の『剣聖』と『賢者』だろうな。なかなかの腕だと聞く。」
ティアさんが言った。
「まあこの作戦への影響はあまり無いだろう。さあ魔王の間にいこう。」
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「ほう。この人間たちが協力者か・・・」
私たちはルギウスさんに連れられて魔王がいる部屋、魔王の間と呼ばれる場所にいる。
奥の玉座に座っているのが魔王だそうだ。確かに凄いオーラだけど、ルギウスさんに比べたら圧倒的ではない。
凄いオーラに変わりはないんだけど。
「我が同胞のクレアを勇者の洗脳から救うことに協力してくれて感謝する。」
なんというか魔王に感謝されるのは複雑な気分だ。
「魔王よ。わかっていると思うが・・・」
ルギウスさんは魔王に近づきながら言う。
「わかっている。クレアを救うのに協力する人間たちに免じて、今後人間に干渉するのをやめろってことだな。」
「・・・嘘はないな。」
その場を支配する圧倒的な空気。
私は思わず身震いした。
「もちろんだ。」
と魔王は答える。
「さて、役者が揃うようだぞ」
魔王がそういうと、部屋の扉が開かれる。
「覚悟しな魔王。この勇者が貴様を倒す。」
とてつもなく不快な声が響いた。
魔王様の言葉を借りると、役者が揃いました。
嵐の前の静けさ回は恐らくここまでとなります。