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4:同志

 神父様の話を聞き終えた私たち4人は、教会の一室で待っていた。


 「帰るための馬車と護衛の兵士を用意するので、少し待っていてほしい。」

 と彼に言われたからだ。


 


 待っている時間、私たち4人の会話はない。



 ただただ、重い空気が流れる。





 洗脳されている間は


「勇者がどれほど素晴らしい存在か」

「どのようにして愛してもらったか」

「どのようにしたら愛してもらえるか」

 


 といった内容の会話を交わしたことがある。


 女性同士でギスギスすることはなく、むしろ「同志」のような感じで私たちは会話していた。






 ・・・今は正気に戻っている。



 これまでたくさん会話をしてるはずなのに、気まずい空気が流れる。


 それよりも故郷、そして恋人に許してもらえるのかという不安もあり、私は会話する余裕もなかった。








「なあジュリア、マリア、シオン・・・」

 そんな空気の中、エレンさんが口を開いた。



「そんな暗い顔するなよ。誠心誠意謝れば、許してもらえるさ。」

 エレンさんはニコっと笑って言った。






「・・・怖くないの?」

 シオンさんが静かに言った。


「エレンは故郷や大切な恋人に受け入れてもらえなかったら・・・とは思わないの?」

 彼女の声はだんだん強くなっていっている。


 まるで八つ当たりするように・・・。



 誰が悪いわけではない。

 不安な気持ちが爆発して声に出ているだけなんだと思う。




「わたしはラフェールに受け入れてもらえないってなったら、そんなの耐えられない!」


 自身の不安な気持ちを爆発させてしまったシオンさんは最後は叫ぶように言葉を吐いた。






「・・・ごめんなさい。いきなり大きな声を出して」

「いや私が悪かった。無神経だったな。」

 さっきまで笑顔で話していたエレンさん。


「でもな、後悔をしてほしくないんだ。」

 今はとても真剣な眼をして私たちを見る。







「・・・私の夫、ディーンはもうこの世にいないんだ。」

「えっ!?」


 思わず私は声を漏らした。




 エレンさん告げたこと。


 それは大切な人が既にこの世にいないということ。


 もし洗脳されている間に、スザクが死んでいたとしたら・・・。

 想像するだけで心が壊れそうになる。


 最愛の人の最期に立ち会えない。

 そして彼にとっての最後の私の姿は・・・。





 勇者に媚びる醜悪な姿。





 もし彼が生き返るのであれば


 悪魔や魔王に魂を売ってでも、彼を生き返らせたいと思うだろう。

 そして謝罪して一緒に命を育みたいと思う。

 

 


 







「だからさ、お前たちには後悔してほしくないんだよ。」

 彼女は私たちを励ますために、笑顔を無理やり作っている。


 どうして私たちのためにそこまで・・・。



「最初はギクシャクするかもしれないけど、きっと元に戻る。」


 私はスザクに許してもらえるかしか考えてなかったのに。


 自分のことしか考えてなかったのに。



「だからそんな暗い顔するな!可愛い顔が台無しだよ!」

「なんで・・・なんで・・・エレンさん。私たちを励ましてくれるの?」


 私は声を漏らした。


 エレンさんが一番つらい状況のはず。

 なのになんで、私たちを励ましてくれるの?



「なんで、か。」


 エレンさんは目を瞑る。


「お前たちは私を姉のように慕ってくれた、からだな。」






 ・・・私は思い出していた。



 自分が「勇者様に飽きられたかもしれない」とエレンさんたちに相談したことがある。

 シオンさんやマリアさんも「私もジュリアと同じなの」という反応をしていると

 エレンさんは「自信をもて。可愛いんだから」と言ってくれたこと。



「城下町に『魅惑のガーターベルト』があるらしい。一緒に見にいくか」と4人で城下町に出かけたこと。


 ・・・出かけた目的はあの男に飽きられないという反吐が出るような動機だ。


 洗脳されている間の記憶は思い出したくもない。





 でも悩んでいる私たちを言葉で励ましてくれたこと。

 城下町で楽しく過ごしたこと。

 エレンさん頼れる姉のような存在だったこと。







「・・・正直目覚めたとき狂いそうだった。」


 勇者にされたこと。

 エレンさんの場合は夫であるディーンさんが死んでいるということ。

 

 正気を保つのは難しいことだと思う。


「でも隣で眠るお前たちを見て、もしかしたら私と一緒だって思ったんだ。」

 


 偶然にも私たちはほぼ同じタイミングで洗脳が解かれた。



「最後まで姉として見届けるまで死ねないと思った。生きている意味がないと思っていた私の心に水を与えてくれたのはお前たちなんだよ・・・。」

 エレンさんはそういうと私たちを抱き寄せる。


「故郷に帰る、という過酷な旅に出るお前たちに、少しでも前を向いてほしかったんだ。」

 優しい声で、私たちに言う。


「お前たちには、最愛の人に謝れる、話せる機会がある。

 だから逃げないで向き合ってほしい。私は向き合うどころか、逃げることすらできないんだからな・・・。」


「エレンさん、わたしは、いつも勇気ばかり貰って・・・」


 マリアさんが、涙で顔をくしゃくしゃにしながらエレンさんに言う。



「私は一人っ子でな。・・・妹が欲しかったんだ。

 マリアたちはよく私のところに相談しにきてくれたよな。妹がいたらこんな感じなのかなって思ったよ。

・・・まあ相談の内容は、あの男にどう喜んでもらえるかってことばかりだったけどな・・・」


 エレンさんは少し暗い顔したが、すぐ明るさを取り戻して続けた。



「洗脳されていて正気ではない状態で知り合った関係だけどさ・・・。」


 恐らく勇者に洗脳されなければ、出会ってなかったと思う。

 


「勇者に洗脳されて大切なものを失ったんだ。洗脳にかかったことで可愛い妹を3人くらい得たっていいだろ?」

 彼女はウィンクして言った。


 洗脳にかかったという過去は変えられない。

 

 そんな暗い過去を乗り越える私たちは「同志」だ。

 一緒に乗り越えていく仲間だ。


 


 


 コンコンコン・・・。


 扉がノックされた。

 きっと準備が整ったのだろう。



「準備ができたのかな?」





 私たちは意を決して立ち上がる。





「さあ、いこうか。」

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