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35:隣で

「心配したぞ。」

 ギルドに戻ったらエレンさんに言われた。


「ごめんなさい。」

「気にしないでジュリア。その私たちもそう思っていたから。」

「シオンの言う通りです。スザクさんも探しに行ってくれてありがとうございます」

 シオンさんとマリアさんも優しい言葉をかけてくれる。


「さて奥の部屋で続きの話をしましょう。」


 スザクが言った。





**********



「戻ってきたね」


 部屋に戻るとティアさんと優しそうな一人の男性がいた。


「ティアさん。ギルドマスターもいるのか。」


 エレンさんは言った。


「初めまして……かな?ギルドマスターのドレークです」


 そういえばギルドマスターと初めて会ったかも。


「エレンくんのパーティだね。活躍は聞いているよ」

「あ、ありがとうございます」

「君たちのようなパーティには挨拶にいきたいんだけど、なかなか忙しくてね。」


 ギルドマスターってやっぱり忙しいんだ。


「本当はティアくんになってもらいたいんだけどねぇ」

「嫌です。私はマスターって柄じゃないし、それにしぶしぶなった副マスターという立場でも自由に動けないのに、さらに自由を縛られるのは嫌」

「変わらないね君は。」


 優しい笑顔を維持したままドレークさんは言う。




「さて君たちはノーランド山の調査に行くんだってね。」


 優しい顔とは打って変わり、彼は真剣な顔で問いかけてきた。



「はい。そうです・・・」


 思わず身構える。この人はどこまで知っているだろう・・・。



「そんな身構えなくても大丈夫です。知っていますから」

 

 優しい声に思わず脱力する。


「大変でしたね。これ以上は貴女方も思い出すのもつらいでしょうから本題へ行きましょう」


 ドレークさんはティアさんから説明を受けていたようだ。

 スザクとティアさんがノーランド山の調査を行く意味も、四天王ルギウスを使って魔王と交渉していることも。

 そして私たちがあの男の被害者であることも。




「ティアくんから話を聞いて、これが成功してほしいと思っています。魔王の脅威からも逃れられますしね。・・・正直勇者はやりたい放題やってますし、ギルドの依頼を受ける割には、私たちや冒険者のことを見下してますからねー」


 ですが、と強い口調で続ける。


「罠の可能性もあります。そして失敗する可能性だってあります。

 そうした場合、こちらで備えが無ければ一気に壊滅してしまう。

 そこでもしもに備えて私はこちらで待機します。ティアくんに任せてしまうのは大変心苦しいですが・・・。」


 ドレークさんは言った。


「そもそもギルドマスターなんですから、ここを離れるわけにはいきませんよね?」


 ティアさんはドレークさんにツッコんだ。


「まあそんなんだけどね。それでいつノーランド山に行くんだい」

「今すぐにでも行きたいくらいだな。」


 ティアさんが答える。


「そうですか、では3日後にしましょう。私も準備がありますし。彼女たちはどうですか?」

 とドレークさんは私たちに聞いてきた。


「大丈夫か。3人共?」

 とエレンさんは私たちに問う。


「ええ、今すぐ行きたいくらいよ。」

「私もです。」

 シオンさんとマリアさんが力強く答えた。


 そして私も・・・

「はい。大丈夫です。」

 と力強く答える。


「というわけだ。私たちは3日後で問題ないぞ。」


 エレンさんはドレークさんに言う。



「なるほど気持ちに怯みがないですね。実力もキングタイガーとダークエレファントを同時に倒せる。エイシェントドラゴンも倒したこともある。」


 問題なさそうですね。と笑顔でドレークさんは言った。


「まあスザクくんは問題ないよね」

「はい。大丈夫です。」

 スザクも決意をしたように答える。



「エレンくん、ジュリアくん、マリアくん、シオンくん、そしてスザクくん。どうかティアくんを頼むね」

「3日後に備えて、しっかり準備を整えておくんだぞ」


 ティアさんの一言で解散となった。



**********



 私たちとスザクはギルドを出る。



「じゃあ、3日後ね」


 ちょっと名残惜しいけど、私は別れの言葉を言った。


 ティアさんに認められてノーランド山の調査へ同行できるようになった。

 待ち望んだ『偶然』がやっと起こってスザクとも再会できた。


 でももうちょっと一緒にいたい。そんな欲張りな想いも少し持ちながら・・・。

 



「・・・ジュリア、ちょっとお話いい?」

「えっ!?」


 彼からそういわれて私は驚いた。


「ジュリア。私たちは先に帰るから気のすむまで話してきな。」


 そんな様子を見てエレンさんがすぐに声をかけた。


「そうよ。あとでどんなこと話したか教えてね。」

「それも気になりますが、二人で一夜過ごすのもロマンチックですわ。」


 シオンさんとマリアさんは二人で盛り上がる。


「そうね、っていててて、エレン。」

「こら、私たちはおとなしく帰るぞ。」


 とエレンさんはシオンさんとマリアさんを引きずって帰っていった。






「ははは。楽しい仲間だね。」

 スザクは笑う。


「で、話って何かな?」

 私は彼に言った。


「・・・ジュリアが南の森の調査を一緒に僕と行きたいって言ったよね。」


 私は頷く。

 彼との距離を縮めるためにお願いしたけど足手纏いって言われちゃった出来事だ。



 あの時は少しつらかったかな。強くなろうと思ったきっかけになったけど。



「あの時僕はジュリアを避けていたし、それに一緒に行ったとしても大切な君を守れる強さもなかった。だから『足手纏い』なんて言ってしまった。本当にごめん。」

「大丈夫・・・気にしてないよ。」


 もしかしてスザクはまだ私のことを足手纏いだと思っているのかな。

 だからこの作戦も本当は連れていきたくないのかな。





 不安が心を支配する。






「けど今は違う。」


 私の目をまっすぐ見て彼は力強く言った。


 心臓の鼓動が早くなる。



「今回は南の森の調査より遥かに危ない。けど今の僕は君を守れる。守りたいと思う。だから、だから」



 ドッ、ドッ、と心臓の鼓動が耳に響く。



「僕の隣で、一緒に戦ってほしい!」



 足手纏いって言われて、村長さんに泣きついて隣に立つために一生懸命努力した。



 そして、今他でもないスザクに隣で戦ってほしいといわれた。



「もちろんよ!」


 拒否する理由がない。私は力強く答えた。





「それでさ、その、成功した後は、さ・・・。」


 急にスザクが歯切れ悪く言葉を出した。

 どうしたのかな。



「一緒に住めたらなって・・・」


 はい?



「あっ、今のは忘れて。じゃ、じゃあジュリアも早く帰るんだよ」と彼は走り去っていった。




 私はそんな彼の姿をぽーっと見ているだけだった




「わ、私も帰らないと」


 一人でつぶやき、お屋敷に帰る。








『一緒に住めたらなって・・・』


 この作戦を成功させる。


 


 

 



 この夢の言葉を現実にするんだ。








 ・・・魔界で悪夢のような出来事が待っていることをこの時の私は知る由もなかった。

ジュリア視点での第2章はこれで終わりです。

魔王視点、勇者視点の話をそれぞれ1話ずつ投稿します。


9月から第3章開始予定です。

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