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34:利用

前半はスザク視点、後半からジュリア視点に戻ります。

『なるほどな。クレアを助けたいという気持ちが本当のようだが・・・・』


 ティアさんは疑っていること匂わせて、ルギウスを試すように言った。


 すると彼は目をつぶって言葉を出す。


『・・・俺も魔王の慎重なやり方にイライラがたまって、俺の独断でこっちの世界を支配しようと思った。そこである小さな村に行って見せしめに滅ぼそうと思った。』


 物騒なことを言っているがその口調はとても穏やかだった。


『その村で子連れの家族、そして一組の仲良い小さな男女を見かけた。』


 穏やかな口調のまま彼は続ける。


『子連れの家族が未来の俺とクレアの姿、仲の良い男女は過去の俺とクレアの姿に見えた。』


『結局俺は何もできずにここに戻った。そのことをクレアに水晶玉を使って滅ぼせなかったと言って愚痴みたいな内容を送ったら彼女から返信が来た。』



 ―『別に魔王様からそんな命令されてないし、私は人間を無理に殺そうとは思わないわ。』

 ―『私は魔王様に挑むという人間と戦って勝つだけよ。』

 ―『勇者は「ファントム」を簡単に倒したからかなり強いけど、私は負けないわ。』

 ―『魔王様は慎重だからなかなか動かない。そのおかげで平和ボケしそうよ。まあ私はこの感じ嫌いじゃないんだけどね。』

 ―『それにしてもルギウスは人間の子連れ夫婦みて、私との未来だと思っちゃったのね。』

 ―『・・・いつかそうなれるといいわね。じゃあまたね。』







『・・・俺はクレアと一緒に穏やかに生きたい。』



 愛する人と共に生きたいのは、魔族も人も一緒。それを洗脳というスキルで壊した勇者は許せない。



『俺は四天王として戦って死ぬことは魔族としての本望だと思っていた。』


 魔族は戦うことが好きな種族。

 人族はそれに比べておとなしい種族だと思う。


『でも違う。俺はクレアを失うことが心の底から怖い。』


 大切な存在を失いたくない。


 僕は魔族は目的のためなら大切な存在でも簡単に切り捨てる、という印象、いや、偏見を持っていた。

 

 それは違った。どんな種族でも大切な存在は大切なんだ。


『だからクレアを取り戻して穏やかに生きたい。』



 魔王の脅威を除いて平和を実現する、勇者の最期を見る、クレアさんを洗脳から救う。



 この作戦はたくさん達成すべきことがあるけど、彼と僕の目指す最終的なゴールは同じなんだ。



『わかった。』


 彼の偽りのない本音を聞けた。だからこれ以上言葉不要だった。 


『お前は信じるのか?』


 信じた僕に対してティアさんが問いかけてきた。


『・・・僕だってジュリアと穏やかに過ごしたかった。大切な人と穏やかに過ごしたい。そう思うのは誰だって一緒だから。』


 人間も魔族もどんな種族も大切な存在と過ごしたいと思うのは一緒だ。


 そんな思い込めて僕はティアさんに言った。


『今回の件は僕たちで魔物の活性化を抑えたことにして、四天王はいなかったって報告しましょう。』


 勇者はここに四天王がいると思い込んでいる。



 でも調査に行った僕たちがいないと報告して、魔物の活性化を抑え込んだとしたら勇者は混乱するだろう。



 いや、あの男のことだ。そんなこと気にせず、洗脳した女性たちと盛り合うのかもしれない。



『ああ、そうだな。』


 とティアさんは言うと、また小声でゴニョゴニョと呟いた。


『一途なんだな・・・』

『ティアさん?』



 僕は彼女の呟いたことが聞き取れなかった。



『・・・勇者って勇気ある者のことじゃないのかなって言っただけだ。』


 勇者は自分より強いとクレアに言われて、ルギウスを恐れている。


 きっと勇者という存在は死んではいけないとか勝手なことを思っているのだろう。

 だからここに行きたがらなかった。





 ・・・僕と同じ「卑怯」な野郎だ。





 きっと勝てない敵に対して、僕のようにたくさん言い訳をして逃げているんだ。






 そう思うと勇者は意外と「最強勇者」では無いのかなと思った。

 ・・・まあこれは僕がそう思いたいという私情からの推察だから、現実は恐らく「最強勇者」なんだろうけども。


 



『スザクよ。』

 僕たちが帰ろうとしたとき、ルギウスが声をかけてきた。





『お前は俺を信用し、俺の「心」を取り戻してくれた。この恩は必ず返す。』




 ***********


 ~ジュリア視点~



「というのがノーランド山での出来事だ。そしてこれが魔界への扉の封印を解く珠だね」とスザクは黒い珠を見せながら言う。


 普通ならこんなことを聞かされたら、魔族と取引をしたのか」だの「勇者の洗脳されたという戯言を信じたのか」とかいろいろ言うだろう。


 でも私たちは違う。クレアさんも私たちと同じ勇者の洗脳スキルや魅了状態の被害者だ。できるなら助けたい。

 そしてルギウスさんもスザクと同じ被害者だ。


 種族なんて関係ない。苦しんでいるなら助けてあげたい。



「スザクさんのような種族を超えてわかり合える優しい方が、なぜ勇者じゃなかったのでしょうか?」


 マリアさんが言った。


 私が妄想したことの一つだ。彼が勇者だったら私たちやクレアさんのような被害者も出なかった。



「違いますマリアさん。決してわかり合えたわけじゃありません。」


 スザクはマリアさんの言葉を否定した。


「ルギウスという四天王の強さに屈して、洗脳されたクレアさんを利用しようとしているだけなんです。」

「違う、そんなのは違う。」

 

 彼の言ったことを否定するために、私は声を上げる。


「ジュリア、何が違うの?」

「それは・・・。」


 彼の言葉に私は口が開かなくなる。

 具体的に「何が違う」のか全く思いつかないから・・・。


「でも・・・違うから・・・」


 私は結局最初に言った言葉を繰り返すしかなかった。



「・・・僕たちはクレアさんを交渉材料に利用して、ルギウスを味方につけて、ルギウスに魔王と交渉させようとしているんです。そして貴女たちをその作戦の一員に加えようとしている・・・。」


 スザクの声は震えていた。


「僕は魔王の脅威を取り除くために、勇者より先に平和を実現するために・・・

 この作戦で『勇者に洗脳された女性たち』を利用しているんです・・・。」

「あっ、あっ、それは・・・」


 決して彼は私たちを利用するとかそんなことを考える人じゃない。

 でもそれと否定しようとして考えれば考えるほど、彼の言うことを覆す言葉が思いつかなかった。


 私の言葉が発せないでいると、エレンさんが口を開いた。


「・・・確かにこの作戦は、勇者に洗脳されていた私たちが適任だな。人が集まらないわけだ。」

 

 ギルドマスターとティアさんの参加審査があるというのはこのことだったのだろう。

 私たちのように勇者の事情を知らないと決してこの作戦の一員になれない。


「・・・私たちだって『覚悟』を持ってこの話を聞いた。スザクが私たちのことを『洗脳された女性』と一括りにして利用するとか思い込むのは勝手だが・・・。」

 

 エレンさんはスザクに近づく。


「あまり私たちの『覚悟』を舐めるなよ。」


 部屋の空気が変わるほどの威圧感を彼女は発した。


 あまりの迫力に部屋に沈黙が流れる。








「・・・詰め寄ってすまなかった。」

 

 沈黙を破るようにエレンさんは言った。

 

「・・・いえ僕も『覚悟』はいいですか?と聞いてから説明したのに、貴方たちと一緒に戦う『覚悟』がなかったのは僕でした。申し訳ない。」

「気にしてない。それよりスザクよ、ぜひ協力されてくれ。」


 落ち込むスザクの肩に手をポンと乗せてエレンさんは言った。


「ジュリア、シオン、マリアも『覚悟』はできているよな?」


 エレンさんは私たちに向かって問いかける。

 私たちは「もちろんです」と答えた。



「ありがとうございます、皆さん。・・・ですが、ルギウスが協力してくれるとはいえ魔王と戦う可能性もあります。」

「さっきも言っただろう。『覚悟』はできている。」


 ルギウスさんは魔王よりも強いとのことだが、それでもどうなるかわからない。もしかしたら魔界で激しい戦闘になるかもしれない。



 それでも私は行く。その『覚悟』はできている。

 この作成が成功したら、魔王は倒さなくても魔王の脅威はなくなる。



 エレンさんはあの男よりも先に魔王を倒すことで、勇者の使命を殺すといった。

 ただこの「魔王を倒す」というのは、魔王の脅威をなくすための一つの手段にすぎない。

 この作戦で魔王の脅威がなくなっても同じこと。これで勇者の使命を殺せる。


 スザクはそれを成し遂げようとしている。私は彼に協力して彼と成し遂げたい。






 それに





 それに






 ソレニ







「ルギウスさんが勇者を殺してくれるし。」



 魔王の脅威がなくなったらあの男は不要。ルギウスさんがクレアさんを取り戻してついでに始末してほしいな。


 私たちの大切なものを壊した男の最期を見れる。スザクに英雄の座を譲って死んでしまえばいいんだ。











「ジュ、ジュリア?」

「どうしたの?」

「いや、えっと」


 スザクが困惑している。なんでだろう・・・。


 私が首を傾げているとシオンさんが顔を近づけてきた。

「・・・ジュリア。確かにわかるけどそんな物騒なことをそんな顔で言葉に出しちゃダメよ。」

 と耳元で静かに言った。



 ―え、もしかして私、声に・・・



 私は思わず口を抑える。

 でも気づいた時にはもう遅い。



 人の死を願う。

 そしてそれを声に出してしまう。自分の心の中の闇の衝動を抑えきれず、声に漏らしてしまう。





 私は愚かな行いによって作り出された空気に耐えきれず、思わず外へ駆け出した。


「ジュリア!」


 愛しい人の声を振り切って・・・・。




 ***********



 私は城下町の中央広場をトボトボと歩いている。



 自らの愚かな行為。 



 もしかしたら、エレンさんたちも心の中では思っていたかもしれない。

 けれど私は声に出してしまった。






「ジュリア」

 この声は・・・。


「探したよ。」

 スザクが目の前にいる。





「わたし、あの、その」


 何を話したらいいのかわからない。心の闇を漏らしてしまうこの口が何を話してしまうのかわからないから。


「大丈夫だよ。」


 とスザクは私の抱きしめた。


「えっ、スザク・・・あれ」


 この前抱きしめてくれた時は、腕が震えていた。

 けど今は・・・・力強く抱きしめてくれる。




「僕も同じだから」


 彼は私を力強く抱きしめながら言う。


「僕だって、ルギウスが、そうしてくれないかなって、思った」

「違う、違う」


 私は心にとどめておくべきことを声に出してしまった。その時点で決定的に違う。


「私は言葉に出してしまって・・・」

「僕もジュリアも、そしてエレンさんたちもそう思っているって言ってたよ。」


 私の言葉を遮って優しい声で彼は言った。


「さっきのは、みんなの思いがジュリアの口から出ただけなんだよ。」

 

 きっとこれは彼の優しさ。

 みんなの思いが私の口からでただけ。こんなの全く根拠のないことだ。 




 でも私は目に見えることを都合の良く解釈する。




 ―今彼に抱きしめられているということ。

 ―エレンさんたちも私と同じことを思っていること。


 

 別に何も解決してないのに気持ちが楽になっていた。



 

「うん、ありがと。スザク。」

「エレンさんたちも心配していたよ。早く戻ろ。」


 彼がの言葉で私たちはギルドに向かって歩き出した。






 

 彼に力強く抱きしめてもらえた。


 きっとこのまま行けば、彼と元に戻れそうだ。

 この作戦で一緒に大きな目的をに果たす。そして勇者との過去に蹴りをつけられたら元に戻れる。







 そんな根拠が無いことを私は心の中で思っていた。

本日は色々な気になるニュースがありました。


藤井二冠、内田篤人の現役引退、西武の選手がやらかして謹慎、来シーズンのポケモンの対戦ルールは使用率上位のポケモンが使用不可


内容の濃い1日でした。

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