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32:気まぐれ

スザク視点続きます。

『なんてひどいんだ』

 ティアさんは声を絞り出す。


『・・・お前ら人族の希望の勇者ってこんなやつなのか?』


 ルギウスの言葉に僕は何もいえない。


『強ければなんでも手に入るものなのかね。』


 僕も強くなれば、ジュリアを取り戻せると思った。


『強さで得たものなんて、脆いけどね』


 その言葉に僕は怯む。


 僕が強くなってジュリアを取り戻しても・・・。

 いや僕がモタモタ強くなっている間に、本当に届かない場所に行ってしまうかもしれない。




『俺が下手に行動すれば、クレアの命が危ないからできない。』

『・・・なら、クレアが殺されてから、勇者を殺れば』

『ティアさん』

 僕は思わず、声をあげた。


『無条件に人質の子供が殺されてから盗賊団を捕まえる。そんなことできますか?』


 ティアさんの言っていることは、彼にとってそれくらい残酷なことだ。例え話でも伝わればいいが・・・。


『子供は救いたいですよね?』

『・・・・相手が魔族とはいえ、軽率な発言だった。』


 すまないとティアさんは謝る。彼女も動揺しているのだろう。



『ん?気にするな。』とルギウスは言った。


『・・・このまま魔界の封印を解かなければ、クレアは死ぬ可能性はない。勇者は俺に勝てない。それにもしクレアが殺されたら、遠慮なく勇者を殺るよ。』


 圧倒的な憎悪。思わず僕は身が震える。



『勇者もそれは理解しているだろうな。だから勇者はクレアを殺さない。

 俺がおとなしくしている限り、クレアは無事だ。ならおとなしくするしかないだろう。』

 

 それに、とルギウスは続ける。

『勇者は魔王を倒すのはついでで、女とヤれればそれでいいって感じだしな』と諦めたような声で言った。


『・・・洗脳されたクレアは、もうお前の愛するクレアじゃない。ならお前も前に進むべきじゃないか?』

『違うんです。ティアさん』


 彼女の言葉に思わず僕は反応する。


『そんなに簡単に割り切れないんです。前に進むなんて綺麗事なんです』


 時間が経てば、諦めたり、割り切ったりして次に進める人もいるかもしれない。

 実際にジュリアが連れられた1年間に、別の人と新たな一歩を踏み出せたのかもしれない。



 ・・・・でも僕はできなかった。


 あの時も優しいジュリアが一瞬で豹変した。僕はきっと何か事情があるんだと思った。



 勇者と比べて僕が弱い。だから強くなれば戻ってくる。

 なんてもっともらしい理由をつけて、前を向いている振りをした。


 今思うと勇者と共に王都に行ったジュリアに対して、理由をつけて縋っていただけだ。



『もし洗脳とか関係なくクレアが勇者の女になっていても、俺はクレアに縋るんだろうね。』


 僕もそうだ。


 僕との思い出をお金にして勇者に貢いだって

 目の前でキスされたって



 洗脳されているとは知らない僕は、ジュリアに縋った。



『本当は俺どころか魔王も裏切っているから殺さないといけないんだけどな。でも俺には愛する者を殺すなんて無理だ・・・。』


 例えば、ジュリアが勇者ではなく、魔王に洗脳されたら・・・。

 それを知ってしまったとして、人類の危機になるような情報をジュリアは魔王に与える裏切り行為をしたとき。



 口では裏切っているから倒すんだ。人類のためだ。

 って言えるかもしれない。



 でも僕は魔王側についたジュリアを「実際に」殺せるのか?




『・・・俺はお前らを初めてみたとき、歓喜したんだよな。』


 唐突にルギウスは言った。



『この魔物が活性化したノーランド山の奥地にこれるのは人族だと勇者だけ。だと思っていたから。男と女の二人組が来て女の方の顔を確認してクレアじゃないことを確認して歓喜した。男の方を瞬殺して、城に囚われているクレアを助けに行けるってな。』



 ルギウスはあの時、僕を殺す気だった。


 あの攻撃を防いで吹き飛ばされただけ、というのはとても幸運なことだったのかもしれない。


『でも勇者だと思っていたその男は、映像で見た男と違っていた。だからなんでお前が勇者じゃないんだって思った。』


 この時、僕のことを殺していても良かっただろう。


 ただ「思っていた男じゃない。」を悟ったルギウスは、落胆のあまり僕の命を取ることなんて忘れていたんだろう。



『けどお前らは、勇者にクレアを取られた話を、敵であるはずの俺の話を涙して聞いてくれた。

 誰にも話せなくて思わず話してしまった醜い話をお前らは聞いた。そこで、また俺は思った。』


 ルギウスは静かに目を閉じて言った。




『なんでこの男が勇者じゃないんだってな。』


 悲愴感漂う声でつぶやいた。




『どういうことだ。』


 僕は思わず尋ねる。


『もしお前が勇者だったら、クレアは洗脳されずにお前に倒されたかもしれない。そしてお前は俺のところに来て、この俺とここで死闘を繰り広げただろう。』



 その場合、死闘ではなく僕はクレアの仇として彼に瞬殺されるだろう。




 あの時最初の一撃はなんとか受け止めたが・・・・。




 もしあの時僕が勇者ではないことに気づかれなかったら・・・。




 既に僕はこの世にいない。




『クレアは四天王としての誇りも、妻としての誇りも。

 そして俺は、クレアとの思い出と絆を・・・。全部、勇者に壊された。

 俺は壊されたものどうやって取り戻せばいいのかわからない。』



 魔王より強い男。

 だが、彼は勇者と戦わずして、心を勇者に壊された。




『・・・そういえば勇者に洗脳されたお前の恋人はどうなったんだ?』


 ルギウスは聞いてきた。


『戻って、きました』

『どうやってだ。どうやって取り戻した?』


 ルギウスは僕に縋るように聞く。そんな生きた声も出せるんだと驚いた。


『洗脳から解放されて戻ってきました。』

『だからお前は何をしたんだ。教えてくれ。』


 でも僕は・・・

『何も・・・していません。』と答えるしかない。



 僕は彼にジュリアとのことを話した。



 ジュリアは勇者の洗脳から解かれたこと。


 

 国の神官さんに説明してもらったこと。


 洗脳されている間の記憶は残ること。

 少なくない補償金も支払われたこと。



 そう。僕は何もしていない。

 勇者に彼女を解放してもらっただけ。



 きっと故郷に帰ってくるということは相当な勇気が必要だったんだと思う。

 自分のやってしまったことの記憶が残っているのだから。

 それでも彼女は勇気を出して戻ってきてくれた。




 でも僕はあの男の顔がチラつき、逃げた。

 それじゃいけないと思い、ティアさんの誘いもあり王都でさらに強くなること誓った。



 けれどこれも一種の逃げだ。

 強くなるという曖昧な目標を立てて、それに向かうということで彼女のことをまぎらわしていたんだと思う。



『・・・戻ってきたのは勇者の「気まぐれ」ってことか。』


 僕の話を聞いたティアさんは呟いた。



 もしかしたら今でも洗脳が解かれず、魅了状態のままだった可能性はある。

 ・・・一生戻ってこないこともあったのかもしれない。



『でもクレアは、「気まぐれ」では解放されない。俺や魔王がいるからだ。』


 勇者がクレアさんを人質にとったのは、クレアさんを自分の女にするためだけじゃない。

 最強の四天王ルギウスに「確実に」勝つために、そして行動を制限するため。



『クレアはなかなか強い。・・・戦力として勇者の駒としても使われるな。』


 魔王やルギウスを倒すための駒として使われる。勇者がそれを達成した後、彼女がどうなるかなんて保証はない・・・。



 洗脳が解かれて魅了状態ではなくなった場合

 洗脳を解かれた彼女は自分が、勇者と一緒に魔王と夫を裏切り倒した記憶が残る。

 とても正気ではいられないだろう。




 洗脳が解かれず、魅了状態のままの場合

 勇者の娼婦として一生を過ごす・・・。




 どっちに転んでも暗い結末だ。





『・・・作戦としては見事だ。四天王の一人を味方に引き込んで俺を無力化して、魔王の情報も引き出した。実に見事だよ、勇者。』


 憎しみ、悲しみ、怒り・・・。

 いろいろな感情が混ざった声でルギウスは言った。



『・・・魔物を活性化は止めよう。魔物を活性化させて、勇者を釣れたら、クレアを取り返しつつ、勇者を殺そうかと思ったが、やっぱりやつ来なかったか。』


 この魔物の活性化は彼としても苦し紛れの手だったんだろう。



 勇者がこの調査に来なかった理由もやっと腑に落ちた。

 自分より強い四天王がいるってことが、クレアさんを洗脳したことによってわかっていたから。



 でも、とルギウスは続ける。


『勇気ある人間が来てくれた。スザク、ティア、これを受け取ってくれ。』


 と言うと、彼は黒い珠をこちらに投げてきた。

次回もスザク視点です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者は四天王最強を打ち倒す訓練もせず、 グダグダと言い逃れをせずに城や宿で腰振って 最後の四天王の心が折れるの待ってるだけなんだろうなぁ…… 魔族と折り合いつけて共存に持ち込めないかな………
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