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31:妻からの報告

スザク視点です。

 魔王より強いと豪語するルギウス。

 ・・・正直勝てないと思うけど、逃げるわけにはいかない。



『ティアさん、いきますよ!』

『ああ。』



 僕たちは覚悟決めて、剣を構える。



 ・・・すると彼から殺気は消えた。



『お前たち、本当に強いんだな。』


 と死んだ顔で笑うルギウスが目の前にいた。

 そして『お前たちは「勇者」を倒せるか?』と聞いてきた。



『そんなことできるわけないだろう』


 ティアさんが冷静に答える。




 そんなことをしたら歴史に残る大犯罪者だ。


 ・・・それにそもそも僕は勇者に勝てる実力はない。



 「あの時」だって、彼女の肩を抱く勇者に殴りにいくことすらできなかった。

 地面の土を握りしめることしかできなかった。





『俺は勇者が憎いんだ。』


 僕もだ。

 あいつのせいで僕とジュリアは引き裂かれた。


『それは魔族の天敵だからだろう。』


 ティアさんが言った。


『違う。一人の男としてだ。』


 もしかしてこのルギウスは・・・。

 僕と一緒・・・なのか?



『はぁ?意味が分からないぞ。ってスザク!?』


 ティアさんが僕を見て声を上げた。


『なんで・・・泣いている?』


 泣いている?

 

 僕は彼女の言葉を聞いて頬を触る。


 濡れている感触があった。


 その感触を確かめると僕の口が自然と開いた。


『僕も・・・勇者が憎いんです。』


 何を言っているんだ僕は。


『ど、ど、どういうことだ!?』

『勇者に恋人を洗脳で奪われ、ジュリアは僕を捨てました。』


 僕の口から言葉が止まらない。


『僕と彼女の関係が壊れました。』


 違う。それは僕が弱いからだ。


 彼女は勇気を出して戻ってきてくれた。けれど勇者に媚びる彼女の顔を思い出してしまう自分が弱いから壊れたままじゃないのか。


 彼女は僕との関係を戻すために努力をしてくれた。でも僕はそれを見て見ぬふりをしたじゃないか。


 弱い自分を変えるために、僕は強くなるために冒険者になったんだ。



『ジュリア・・・あの時の娘か・・・。』


 ティアさんは僕をスカウトしに来た時にジュリアと会っている。僕が誰のことを言っているのかわかったのだろう。




『お前もか・・・。』


 ルギウスは言った。


『お前「も」?』



 ティアさんはルギウスの言葉を繰り返した。



『スザクって言ったか。俺もな・・・』



 やはり彼も僕と同じ被害者・・・。



『俺の妻が勇者に洗脳されて、奪われた』


 夫婦。それは将来を誓い合った男女の関係。

 そんな深い関係でも関係なく壊してしまうのか・・・。


 

 僕は洗脳の能力の恐ろしさを知ると同時に、安心もしていた。


 



 ジュリアが洗脳されていたと神官様に聞かされたとき、僕は彼女との関係が薄いから、彼女と洗脳されてしまったものだと心のどこかで思っていた。



 ―もしも幼馴染の恋人というだけでなく夫婦という関係だったら。

 ―もしも手を繋ぐだけでなく、身体の関係もあったなら。



 僕がもっと勇気を出して『幼馴染の恋人』から関係を進めていれば、そもそも洗脳されなかったのではと思っていた。


 

 だけど妻という深い関係ですらも洗脳できてしまうということをルギウスの話を聞いて知った。

 洗脳されてしまうことの条件に「その男女の関係の深さ」は影響ないことを知った。

 だから僕は安心してしまった。






 ・・・安心する理由が自分でも醜いと思う。






『しょ、証拠はあるのか。そんな証拠が』


 ティアさんの言葉で僕はハッとする。


『見るか?』というとルギウスは水晶玉を取り出した。

 それは映像を記録するアイテムだ。



『俺と妻は離れていてもこのアイテムを使ってやり取りしていた。』


 彼は水晶玉を哀しい目で見つめながら言った。



『本当に見るのか?女よ。』

『私はティアだ。見る覚悟はできている。』

『そうか。じゃあ一つ重要なことを伝えておこう。』


 彼は声のトーンを変えずに言った。


『俺の妻は、魔族四天王の一人だ。』



 最近勇者が倒したという「3人目」の四天王だと聞いて驚いた。


 いや、勇者は倒したのではなくて、いつものように洗脳したというのか?




『最愛の妻からの連絡かと思ったら、勇者の女になってました、という胸糞悪い映像だ。』


 そういうと、水晶玉の映像を再生した。



 **********



 ―『あっ、ルギウス。映っている?』


 美しい竜亜人の女性が映った。


 ―『クレアよ。元気にしているー』


 クレアと名乗る女性は声からすると明るい性格なのだろう。


 ―『今日はあなたに報告があるの。私ね・・・』

 ―『今後はね、勇者様の妻として生きていくことにしたの』



 すると男が映像に現れる。勇者だ。


 ―『というわけで「4人目」、見てるか?』


 下衆な笑顔をしている。


 ―『これから俺たちは愛し合うからよく見とけよ。とはいっても人間以外の女の愛し方は知らねーがな』

 ―『勇者様。』


 そこからの映像は見ていられなかった。


 クレアは勇者と交わっている。

 そして魔王軍の秘密についてしゃべらされている。



 ―『んで、四天王が封印を解除したら、魔界の扉が開かれるわけだ。』

 ―『ん、あ、はい、そうです。』

 ―『魔界の扉はどこにあるの?』

 ―『そ、それはいえません。魔王様を裏切ることになってしまいます。』

 ―『・・・じゃあこれ以上は愛するのやめようかな』

 ―『う、嘘、嘘です、言います。王都南にある遺跡の奥です。』

 ―『へえ。教えてくれてありがとう。結構近いんだね』



 ・・・もしかしてジュリアもこのように媚びていたのだろうか?

 と僕は想像してしまい、映像を直視できなくなっていた。



 ―『ルギウスって強いの?』

 ―『はい。あなたでも、ギリギリ、いえ勝てないと思います。』

 ―『・・・俺の事を信じてないの?』

 ―『私を倒して命を奪わず、私を迎え入れてくださった勇者様の素敵な強さがあっても、厳しいと思います。』

 ―『そうか。じゃあルギウスを倒さずに魔界の扉の封印を解く方法はあるの?』

 ―『ルギウスが、封印を解除さえすれば倒さなくてもいけます。』

 ―『へえ。倒さなくてもいけるんだね。』

 ―『はい。私がその証拠をお見せいたします。』


 そしてクレアは何かを呟き始める。


 ―『・・・勇者様。愛してくれるのはうれしいですが、封印の解除に集中できません・・・。』

 ―『お、わりいわりい。』


 クレアは呪文を唱えると・・・


 ―『はい。これで解除完了です。あとはルギウスの封印だけです。』

 ―『へえ。よくわからねえがよくやったねクレア。ご褒美だよ。』



 ・・・結果だけ見ると、四天王の1人を味方に引き込み、もう1人の行動を抑えて、魔王に関する情報を得た。

 これだけ知れば、人類にとっては喜ばしいことだ。



 ただ、こんな卑劣なやり方を知ってしまった。

 敵対する相手とはいえこんなことをしていいのか。



 そして勇者一人の映像に切り替わる。


 ―『というわけだ、4人目。クレアは俺の奴隷、人質になってもらったから』

 ―『実はクレアは俺が洗脳して、魅了状態なんだよね。』

 ―『お前俺や魔王よりも強いらしいけど、大人しくしてないとマジでクレアを殺すぜ。』

 ―『まあ大人しくしてくれたら、クレアを解放するのを考えてやるよ。』

 ―『まだまだクレアのことまだ可愛がり足りねえんだ。人間以外の女とするのも悪くないなって気づいてよ。』

 ―『だからしばらく半年位は封印の解除を待っていてくれるとありがてぇな。ははは。』



 **********


 胸糞悪い映像がやっと終わった。


 それほど長い時間の映像ではなかったと思う。


 でもジュリアがこんなふうに媚びを売っていたかもしれないと思うと・・・。とてもとても長い時間の映像に感じてしまった。



『・・・なんか感想あるか?』


 彼は問いかけてきた。

誤字脱字報告ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ルギウスの妻を洗脳で落としたのはともかく、わざわざそれを通信で見せつける勇者のアホぶりに驚愕。 そこは魔王軍に分からないように偽装して、暗躍させるところでしょうに。 [一言] 勇者のこ…
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