30:覚悟
「スザク、とりあえずこの娘たちにギルドの奥の部屋を使って詳しく説明しておいてくれ。」
とティアさんは親指でくいくいと奥を指す。
「わ、わかりました。」
「エレンよ。討伐依頼をを達成してゆっくり休んでほしいところ恐縮だが、もう少し付き合ってもらっていいか。」
「ああ」
私たちは席を立ちあがって、ギルドの奥の部屋に向かった。
ギルドの奥の部屋の中に入る。
ティアさんは「じゃあ後は任せたぞ」とスザクに言うと部屋から出ていった。部屋を出る直前に彼に対して、「すまないね」と言っていたのは少し気になった。
「・・・皆さん、勇者の秘密を知っているのですか?」
スザクが口を開いた。
沈黙が流れる。
「ああ、洗脳のことだろ?」
エレンさんが言った。
「・・・そのことはジュリアから聞いたのですか?」
「ううん、違うの。」
スザクからしたらエレンさんたちが勇者に洗脳されて魅了状態だったということを知らない。
きちんと私から言わないと・・・。
私は気持ちを振り絞って声を出す。
「私たちはみんな勇者に洗脳されていたの。」
「!」
スザクが目を見開く。
「そう、なのですか。だからティアさんはあの時・・・」
彼はぶつぶつと何かを呟いた。
「ふぅ」と彼は深呼吸をすると「ここにいる皆さんは被害者です。」と言った。
「これからする話も、その『被害者』の話をしますが、『覚悟』はいいですか?」
「・・・何か関係あるの?ノーランド山の調査の話は?」
私は不安になって尋ねる。とても調査の件に関係あるとは思えない・・・。
「それがね、関係あるんだ。」
彼は穏やかな口調で私に言った。
「ジュリア、そしてエレンさん、シオンさん、マリアさん。もう一度聞きます。話を聞く『覚悟』はいいですか?」
私たちは顔を見合わせた。お互いの顔を見て頷く。
「お願い。話を聞かせて」
「わかった。」というとスザクは話し始めた。
「勇者が三人目の四天王を倒して、王都に戻ってきた後に、王都北にあるノーランド山の魔物が活発化したのは知っているかい?」
「うん、ティアさんとスザクで魔物を不活化させたんだよね」
私は答える。
「そうなんだけど、もっと複雑な話なんだ。」
「どういうこと?」
スザクはゆっくりと目を閉じる。
「・・・僕はこのことが正しい行動だったのか今もわからない。ティアさんもそう思っていると思う。」
スザクは唇をかみしめながら言う。
「じゃあ、ノーランド山で何があったか、話すね・・・。」
こんなに何か葛藤をしているスザクははじめて見た。そんな彼の姿を見て私は不安を感じた。
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~スザク視点~
僕とティアさんはノーランド山についてから、
活性化した魔物を倒したり、躱しながら、奥へ進んでいった。
『奥から凄い魔力の反応があるな。もしかして四天王か』
『本当ですか。ティアさん』
『冗談だよ。って言いたいが、そうとも言い切れない力だ。覚悟して奥に進むぞ』
奥に進むにつれて魔物も多くなったが、ティアさんと力を合わせて乗り切った。
そして最奥に着いた。
『ここが奥地か。覚悟していくぞ。』
意を決して僕たちはそこに入った。
そこには・・・・
虚ろな目をした竜の亜人がいた。
『・・・あの魔物の大群を潜り抜けてくるなんて相当の実力者だな。』
死んだような感情のない声でそいつは語り掛けてきた。
『俺はルギウス。魔族四天王の一人だ。』
そいつは死んだような声で自己紹介をする。
『じゃあ死ぬか。勇者様よ』
死んだような声からいきなり殺意のある声になった。
僕を勇者と勘違いしたルギウスと名乗った四天王は攻撃をしかけてきた。
『ぐっ』
早く重すぎる一撃。
僕は奇跡的にその一撃を剣で受け止めるが簡単に吹き飛ばされてしまった。
『や、やめろ』
ティアさんが悲鳴のような声をあげる。
『死ね。勇者』
吹き飛ばされ、倒れる僕にルギウスはトドメを刺してきた。
死を覚悟した。
『なんだ。お前勇者じゃないのか。』
死んだような声で言う。
『俺の本気の一撃を受け止めて吹き飛ばされる程度で済むなんて。勇者以外の人間はそれで死ぬと思っていたが・・・。』
僕は混乱していた。
・・・死んだかと思っていたが、生きている。
そして目の前のルギウスは死んだような目をしている。
攻撃時のギャップとの差に僕は混乱をしていた。
『そっちの女も凄いな。俺の攻撃を見たものはだいたいそれに恐怖して気絶したり逃げたりするのに、お前は攻撃してこようとしてくるんだな。』
『当然だ。私は冒険者だ。』
『そうか』
こいつは何を考えているのが全くわからない。
僕とティアさんは戦闘体勢を取る。
『俺のことを倒そうとしているのか。でも辞めといた方が良いぞ。』
彼が放つ強烈な殺気・・・。
『魔王より強いから』
もう一度、死を覚悟した。
次話もスザク視点です。