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27:私は勇者に復讐する

ちょっと長めです。

 神父様から私たちのスキルの仮説を聞いて、住んでいるお屋敷にもどってきた。



 私たちは現実を受け入れられないでいた。


「私の魔法は、勇者と・・・」


 あの男と交わったから・・・なの・・・・?


 これが『勇者の奇跡』っていうやつ?


 私にとっては勇者の『呪い』だ。




「・・・なあお前たち勇者が憎いか」


 震える私たちにエレンさんが言う。


「私は憎いさ。・・・夫を殺めたのは自分自身だ。でもあれは私の身体を操った、勇者がやったことって思うこともあるさ。現実を受け入れずにそんなことを考えたりもする。」



 私も現実を受け入れられなくて、色々妄想をする。

 今だって実はスザクと交わったから・・・きっと覚醒したという絶対にありえない妄想をしている。



 そもそも彼と交わったことないのに・・・。



「これからもお前たちと楽しく冒険者できたらなと思っている。これは本音だ。

 でも裏では勇者に復讐したいと思っている。これも本音なんだ・・・」



 復讐・・・。

 

 私もあの男に復讐したい。


 全てを壊したあの男に・・・。





「お前たちは『本音』を吐き出さないか。私がすべて受け止めるぞ」


 ダメ。

 そんな優しい声で言わないで。


 じゃないとまた私はエレンさんに甘えてしまう。

 でも、でも・・・









「私だって!」


 声をあげてエレンさんに抱き着いたのは、シオンさんだった。


「私だって、ラフェールと楽しく暮らしたかった。みんなにラフェールを紹介したかった。

 冒険者やってて、街の人たちが、勇者様すごいとか言っているのを聞いて。

 なんであいつが賞賛されるのって思った。

 憎い憎い憎い。

 あいつが色々な壊してそれを乗り越えて冒険者になったのに・・・。

 その冒険者で使っているスキルがあいつのおかげだなんてふざけないで!」


 シオンさんは取り乱しながら言った。



 ・・・ラフェールさんと楽しく過ごす未来と、私たちは出会う未来は重ならない。


 洗脳されてなかったらは私たちはきっと出会ってない。




 その時はきっと彼と楽しく故郷で過ごしていたんだろう。




 でもシオンさんはそれに気付かず、私たちに「ラフェールを紹介したい」と言った。



 それができるのは理想だ。


 私たちと出会って、ラフェールさんとも楽しく暮らしている。今の自分にとって、最高に都合の良い未来を描いていないと今のシオンさんは持たないのだろう・・・。



「わ、私だってそうです。」

 マリアさんはエレンさんに抱きつきながら言った。


「私もカムイくんと結ばれたかった。でも私はあの男に二年も囚われていた。彼を捨てさせられた。そのせいで彼は別の人と結婚してた。

 二年も離れていてたら、彼は素敵だから結婚するに決まっている。なのにあの男は私をおもちゃみたいに使って捨てた。ゆるせないゆるせないゆるせないゆるせないゆるせないゆるせない」


 いつも穏やかなマリアさん。

 今はエレンさんに抱き着きながら暴力的に言葉を吐き出す。


「スザクさんの呪い解いたスキルが、あの男のおかげだなんて、呪われたスキルだなんて・・・」


 暴力的に言葉を吐き出した後は、涙ながらに声を漏らす。




「そうかそうか、二人共、頑張ったんだな。なのに私が神父に余計なことを聞いて・・・本当にごめんな」

 

 エレンさんは二人の頭を撫でる。

 

 私はその光景を物欲しそうに見つめていた。




 

「ほらジュリアも、おいで」


 ・・・我慢できなかった。


 エレンさんに勢いよく抱きつく。



「私も勇者に復讐したい。」


 もう止められない。


「あいつがいなければ、スザクと私は穏やかにすごした。スザクは傷つかず強くなる必要もなかった。

 なんで魅了状態の女じゃないとまともに触れることができない男に壊されないといけないの?

 なんで過去を乗り越えるって決めたのに乗り越えるための魔法があの男のおかげなの?

 なんでスザクが勇者じゃないの?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」




 私の吐き出した言葉を受け止めてエレンさんは優しく言葉を出した。



「・・・こうやってやっていると正気に戻って、みんなで故郷に戻ろうって言ったときのことを思い出すな。」


 あの時もエレンさんに励まされて故郷に帰った。わたしはさらに故郷へ向かう馬車の中でも甘えてしまったけど。



「あの時も可愛い妹分たちを姉として励ましたつもりだ。お前たち不安な気持ちを持ちながら、しっかり故郷に帰ることができた。

 そしてそれぞれ理由があって、ここでまた集まっている・・・。」



 エレンさんは、故郷と家族を取り戻した。けれどディーンさんとの過去から逃げるように・・・。


 シオンさんは、唯一恋人を取り戻せず拒絶された。


 マリアさんは、恋人は既に届かないところ行った。


 私はスザクと一緒に過去を超えるためにきた。





 この4人の中でも、私が一番お盆に水を戻せた。恵まれているのに甘えてしまった。




「同じタイミングで故郷に旅立ってここで再会できた。これは運命だよ。」


 だからさ、とエレンさんは言うと。


「勇者に復讐しよう」


 彼女は静かに言った。



「『したい』じゃない、『しよう』」


 力強くその言葉は響いた。



「で、でもそんなの無理ですわ。勇者を殺そうとしたらただじゃすまないです。」


 マリアさんが言う。


 彼女の言う通り勇者殺しなんてすごい大罪だ。

 そもそも人殺しも大罪だ。


 やろうとしても成功するとも思えないし、返り討ちあって、さらなる地獄が待っているかもしれない。

 勇者殺し未遂の容疑者として、私たちの故郷にまで迷惑をかけるかもしれない。





「マリア。誰が勇者を殺すなんて言ったんだ?」


 優しい声色なのに、迫力があった。



「私たちが殺すのは勇者じゃない。魔王だ」


 魔王を殺す?


「勇者の使命は魔王を討伐することだ。

 ・・・勇者より先に魔王と討伐して、『勇者の使命』殺すんだ」


 それなら確かに合法的ではあるけども・・・。


「勇者の使命を殺したところで・・・あの男にダメージはないと思うわ。」


 シオンさんが私が思っていたことを言葉に出してくれた。


「・・・勇者は四天王3人目を倒して、なぜか4人目の四天王がいると思われるノーランド山に行く姿勢を見せてない。」


 ノーランド山の魔物が活発したことで、そこに4人目の四天王がいるんじゃないかと発言した勇者。


 スザクとティアさんがノーランド山に赴き、不活化させた。

 しかし勇者が「お前たち二人が四天王を倒し損ねたんだろう。お前たちが責任もって倒せよ」と言って行きたがらない。

 今後は人を集めて調査するということになっているが、勇者が行く姿勢も見せてないので人は集まらない。



「未だに人が集まらないその調査に、私たちも参加するんだ。そうしてそこにいる4人目を倒す。そして魔王の居場所を聞く。そして先にスザクたちと共に魔王を倒す。」

「でも、本当にそこに4人目がいるとは限りませんわ。」



 マリアさんが言う通り、勇者が「いる」と騒いでいるだけで、ティアさんとスザクの調査通りだった。という可能性もある。




「実はな。勇者がノーランド山に本当に4人目がいなかったのかってティアさんに迫っているのを見たことがある。その時の顔がな、『本気で焦っている顔』だった。

 だから勇者はなんらかの方法でノーランド山に四天王がいることを知っていて、ティアさんに焦った顔で聞いたんだと思う。」

「なんで、そんなことがわかるの?」


 シオンさんがエレンさんに問う。

 すると彼女は突然悲しい顔になって言った。


「それはな・・・・洗脳されているときのある記憶の勇者の顔と、ティアさんに迫っている時の勇者の顔が一致したからだ。」

「ど、どういうことですか」


 私はエレンさんに尋ねた。

 


 彼女は、少しの間、沈黙した。



 そして静かに話し始めた。



「・・・ある女性から「自分が妊娠した」と告げられた時の顔と一致したんだ。」


 洗脳されている間、あの男とそういう行為をした。妊娠していたとしてもおかしい話ではない。

 私たちは「運よく」妊娠しなかったのかもしれない。


 

「その後、その女性と会うことはなかった。きっと妊娠したことで勇者に捨てられたんだろうな。

 私は洗脳されていたから・・・・・いや、これ以上はもういいか?」


 

 洗脳して、自分を好きになるように魅了状態にするけど、「責任」は取らない。

 胸糞悪い話だ。



「ごめんなさい。」


 私はそんな話をさせてしまったことを謝る。


「いいんだよ、ジュリア」

 エレンさんは私の頭を優しく撫でて言った。





「・・・話を元に戻そうか?」


 エレンさんがそういうとシオンさんがそっと手を上げる。


「さっきスザクさんたちと共に魔王を倒すって言ったけど、その場合、私たちじゃなくてスザクさんが魔王を倒す可能性があるんじゃない。」


「それは問題ない。私たちの目的は勇者の使命を殺すこと。魔王を倒すことで「魔王の脅威」がなくなる。それはスザクや私たちが倒しても一緒だ。「魔王の脅威」がなくなるということは「勇者の使命」がなくなるということだ。」


 もしスザクが魔王を倒したとしたら、彼が英雄となる。



「魔王に対抗するための『強さ』を盾にして好き放題してきた勇者。

 魔王の脅威がなくなればそんな盾はなくなる。それ私たちが魔王を倒せれば魔王討伐の名誉が与えれられる。スザクが倒した場合も、彼に同行したものとして同等の名誉が与えられるはずだ。」



 私は妄想したことがある。

 

 実はスザクが真の勇者で、その真の勇者とともに魔王を倒すこと。

 そして、偽の勇者の暴挙を彼と暴露すること。


 

「もし名誉が与えられた時に、私たちが勇者に洗脳されたことや魅了状態で好き放題されていたことを言えば・・・」


 私の妄想と同じだ。

 

 勇者より先に魔王を倒して、神父様たち教会を味方につけて、好き放題やっている勇者に罰を与える。


「魔王討伐に関わった私たちの言葉と、魔王討伐が使命のはずが、別の者に魔王を倒された勇者の言葉・・・。どちらの言葉が信じるか。」

 

 それはもちろん・・・。


「もちろん私たちだ。そうやって勇者の使命を殺すことで、やつに地獄を見てもらう。」



 私たちも苦しんだ。



 あの男にも同じくらい、いえそれ以上に苦しんでもらわないと。



 でもそれを実現するには・・・強くならないといけない。



「でもまずは4人目の四天王がいると思われるノーランド山の調査に参加することを認められるくらい強くならないといけない。私たちはきっとできる。このスキルが必要だがな・・・。」



 私たちは苦い顔をする。強くなるのはこのスキルが必要なことはわかっているけど、勇者と交わったから覚醒したスキルなんて使いたくない・・・。



「私はこの目的を達成するために、このスキルを存分に使うつもりだ。これが勇者がくれたものなら、そのくれたもので勇者に復讐してやると私は思っている。お前たちはどうだ。やっぱり使いたくないか?」

「・・・」


 私たちは沈黙する。

 勇者が関わっているスキルなんていや・・・。


「・・・ごめんな。私が神父に詰め寄ったから知らなくて真実を知ったんだよな。それを無理やり使えって詰め寄るダメな姉御だな。」

「違う。違います。」



 エレンさんはダメな姉じゃない。

 私だって自分のスキルについて少し疑問に思っていた。それを彼女が代わりに聞いてくれただけだ。

 

 故郷へ旅立つときも、今も私たちを励まして、勇気づけてくれている。


「わ、私は!」


 そんな思いで私は声を出した。


「私は使い続けます。私は村長さんといっぱい魔法の修行したんです。だからこのスキルは『自分のもの』なんです!」



 そうだ。この魔法は私のものなんだ。村長さんとたくさん修行して彼の隣に立つために頑張った証なんだ。


 私の言葉に続くように・・・


「私も使います。スザクさんの呪いを直した時も、優しい魔法ですねって彼は微笑んでくれた。あの男がきっかけのスキルだったら優しい魔法のはずはない。これは私の能力なんです。」


 マリアさんも決意したように言う。


「私だって最初は矢を外したりもしたわ。でもポイズンバタフライ戦では百発百中だった。それは私がこの技を磨いたからよ。だからこのスキルも私のものなんだ。」


 シオンさんも私たちの言葉に続けて言った。



 エレンさんは私たちの言葉を聞くと笑顔になった。



 その笑顔に救われてきたんだ。彼女の顔はずっとその笑顔であってほしい。

 


「流石私の可愛い仲間だ。また苦しいことを乗り越えてくれたな。」


 安心する、優しい声で彼女は言う。

 

「それに神父が言ったのはあくまで仮説だ。勇者がきっかけかなんて気にせず存分に使ってやろう。」


 また一歩を進むために彼女に励ましてもらった。

 


 




 ・・・たくさん言葉を吐き出して感情をぶつけまくったからか、急に眠気が襲ってきた。





「今日は疲れたよな。知りたくないことを知って、苦しいことを乗り越えた。だから今日は、ゆっくりお休み。

 明日から頑張ろう、私の可愛い妹達」





 その優しい声に包まれながら、私たちは眠りについた。





 冒険者として強くなり、魔王を倒して、勇者の使命を殺すことを心に決めて。

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― 新着の感想 ―
[一言] 告発しようにも再度、洗脳されて勇者の都合の 良いように話すリスクがあるのに その対策は? というかスザクはまな板としていないんだね 関係を続けるのに寝取られた側が 我慢を強いられるのなら …
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