26:スキル
マリアさんの冒険者登録を終えて、私たちは教会に来ていた。神父様に彼女が冒険者としても活動することを伝えるためだ。
「やっと決意されたのですね。マリア」
神父様は優しい声で言う。
「え、神父様?」
「スザクさんとお話しされて貴女は何か変わろうとしていました。そして自分の意志で一歩を踏み出すことができました。」
それに、と彼は続ける。
「アンデッドドラゴンの呪いを解ける癒し手をシスターとしてだけではもったいないですから。もう少し遅かったら、私があなたに冒険者登録をさせるところでしたよ」
穏やかな笑顔で彼は言った。
「ありがとうございます。」
「私はあなたたちに約束しましたから、『新たな人生を歩めるように最大限協力すること』をね。」
本当に感謝しかない。私たちに真実を話して、故郷に戻る準備もしてくれた。そして、神官様たちを派遣して私たちの大切な人にも事情を説明してくれた。
「・・・なあ神父。一つ聞きたいことがある」
穏やかな雰囲気の中でエレンさんが真剣な声色で尋ねた。
「なんでしょうか。エレンさん」
「私たちの・・・スキルについてだ」
「!」
神父様の雰囲気が変わった・・・気がした。
「エレン。何を聞こうとしているの?」
シオンさんが不安そうに聞く。
「いや、ちょっと疑問に思ってな」
一呼吸エレンさんは置いて言った。
確かに私も自分の魔法のスキルがここまで高いと思ってなかった。正直ちょっと疑問に思っていた。
きっとエレンさんも私と同じことを疑問に思っているのだろう。
「私は故郷で3人の男に襲われて返り討ちにした。そして今も格闘戦士として冒険者でやっていけている。ただな、私は小さいころから腕っぷしが強かったわけじゃない」
そういえば私も初めて魔法を村長さんの前で出した時は驚かれた。
「シオンは小さいころから弓や射撃が得意だったのか?」
「え、し、知らないわ。小さいころは弓なんて触ったことなかったし・・・。」
「マリアは?」
「私も癒し手のスキルを持っていることは神父様に聞いて知りました。」
「ジュリアは?」
「わ、私は、初めて魔法出したら、村が大炎上しかけました。」
思わず頓珍漢なことを言ってしまう。
いや事実なんだけど・・・・。
「・・・これを自分の知らない才能があった。それに今気づいた、で片づけるのは簡単だ。」
けどな、とエレンさんは続ける。
「私たちは冒険者になって半年もかからず、難敵ポイズンバタフライを倒した。
私は格闘戦士として、シオンはスナイパーとしてわずか半年で少しは有名になった。そしてジュリアも私たちと一緒にポイズンバタフライを倒して、氷の魔術師として噂になっていた。マリアもスザクにかかった強力な呪いを解いた。」
「何が言いたいのエレン」
シオンさんが尋ねる。私も不安な表情でエレンさんを見る。
「・・・シオン、私たちは共通点が多いんだ。自分の知らない才能に気づいた。そして結果も出した。そしてな・・・・」
悪寒が走る。
それは「あの時」と同じ感覚かもしれない。
「私たちは『魅了状態』だったってことだ。」
それは目を背けていたこと。
言われてみれば、洗脳から解かれて、村に戻ってきてから、魔法が使えることに気づいた。
村長さんも魔法の適正は少しはあったけど、ここまでとは思わなかったって言っていた。
私の魔法は・・・。
あの男が関係しているというの・・・。
「そんなの関係あるはずないじゃない!」
シオンさんが叫ぶようにエレンさんに詰め寄る。
「それを確かめるために今神父に聞いているんだ。私たちのスキルって洗脳とか勇者とか何か関係あるんじゃないか?」
エレンさんは強い口調で神父様に言った。
神父様はしばらく沈黙していたが、ゆっくりと口を開いた。
「・・・結論から申し上げますと、関係ある可能性があります。」
「ハッキリ言ってくれないか?」
曖昧な回答をした神父様に、再び強い口調でエレンさんは言った。
神父様は目を瞑る。
そして覚悟を決めたように話し出した。
「勇者の洗脳から解かれた女性たちが再度、私のところに訪れた際に、新たな人生を歩めるように最大限協力するためにスキル鑑定を行っています。」
彼はここに戻ってきた女性たちを支援するためにスキル鑑定を行い、スキルを活かせる仕事等を紹介しているそうだ。
「その女性たちは『全員』一つ優秀なスキルを持っていました。あなた達のように冒険者としてスキルはもちろん、日常で使える料理スキル、建築スキル等、ジャンルは人それぞれです。」
「『全員』、ですか?」
私は神父様が言ったことを確認するように尋ねた。
いや、現実として受け入れるために、その時間を作るためにわざと尋ねた。
「はい。『全員』です。」
まさか・・・と私は身を震わす。
「私は一つの可能性を仮定しました。私たちのところに訪れる女性たちの共通点・・・」
その震えが徐々に大きくなっていく。
しばらく沈黙が続く。
「・・・続けていいのですか?」
神父様は静かに問う。
「私が、言ったことだ。続けてくれ・・・」
エレンさんは言った。
・・・私はこれから言われることがもうわかっている。
「洗脳されて魅了状態であった女性であること。つまり勇者と交わったことがある女性です。『勇者』という存在と交わったことで、スキルの覚醒に関係した可能性があるかもしれないと・・・」
「いやああああああ」
神父様が言い終わる前に、シオンさんが悲鳴をあげる。
私も自分の体を抱きしめ、身を震わせてへたり込む。
「うそ、うそです。スザクさんの呪いを解いた私のスキルが『呪われている』なんて」
マリアさんは目を大きくあけて呟いている。
勇者と交わったから覚醒したスキル。人々は「勇者の奇跡」と呼ぶかもしれない。
けど私たちにとってはそんなの呪われているとしか思えない。
「・・・ただ、偶然と言われてしまえば反論できません。確証がないですから。」
確かにそれを証明するものなんて何もない。
自分たちのスキルが勇者という奇跡と交わったから覚醒したということを証明するものはここになにもない。
「たまたま突出したスキルを持つ人間が、たまたま勇者に洗脳された女性であった。で片づけることもできます。」
神父様は言うとおり、たまたまで片づけられることかもしれない。
だがそんなことで片づけられるほど、私は強くない。
「そんな。そんな。そんな。」
私はうわごとのように呟く。証明できないことに対して私は心を翻弄される。
「悪かったな神父。あの時のようにまた嫌な説明をさせてしまったようだな・・・。」
エレンさんは穏やかな声で言う。
「・・・今日は帰ろうか。」
彼女は震える私たちを抱きしめて言った。
エレンさんやらかす。
物語の登場人物的にはスキルに関して本当に勇者が関係しているか。
という確証がないのが救い・・・でしょうか?