25:決意
エレンさんたちが住んでいる家に着いた。
小さなお屋敷だ。どうやって入手したのだろう。
「あの・・・このお屋敷、どうやって手に入れたんですか?」
「あーちょっととある依頼をこなしてな。その依頼の成功報酬として安くしてもらって、買ったんだ」
「でも当初はこんなきれいじゃなかったのよ。そこは3人で頑張って掃除したわ」
ん、3人ってまさか・・・。
「ただいま。マリアー」
「おかえりなさい。エレンさん、シオン」
この声は・・・
「あら、ジュリア。久しぶりですね。」
「マリアさん。」
久々の再会をお互いに喜ぶ。
それにしてもマリアさんエプロン姿が似合うなぁ。
「さて私はご飯の準備でもしますわ。エレンさんたちはお疲れでしょうからゆっくりしてください。」
「ありがとう、マリア」
「ご飯の準備ができたらお呼びしますわ。」
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「さてジュリアの部屋だが、このあいている一室使ってくれ。」
「ありがとうございます。エレンさん」
部屋まであるなんて・・・。
本当に感謝しかない。
荷物整理をして、部屋の掃除をしていたらあっという間に時間は過ぎた。
「皆さーん。ご飯ですよー」
とマリアさんの声が響いた。
*********
「ジュリアってあのスザクさんの恋人なのですか?」
4人でご飯を食べているときの話題として私とスザクの関係性の話になった。
私と彼の関係を話したら、マリアさんは驚き、声を上げた。
「い、今は違いますけど・・・。」
「けどお互いが成長して、また会おうだなんて素敵、ロマンチックですね」
マリアさんがうっとりした顔で言う。
「私、スザクさんと最近お話して、すっかりファンになってしましましたわ。」
「ファ、ファン!?」
思わず私はバンッと立ち上がる。
「・・・大丈夫ですよジュリア。『ファン』ですから」
「・・・・」
私は顔を真っ赤にしてゆっくりと座る。
「へえ。でもどうやってスザクと会ったんだ?」
エレンさんが聞く。
「それはですね」とマリアさんは話し始める。
「エレンさんとシオンがモック村に向かった後に、スザクさんがアンデッドドラゴンの討伐を成功させて帰ってきました。」
「アンデッドドラゴンの討伐か・・・本当にすごいな。」
「けれど、彼はアンデッドドラゴンの呪いに侵されていた。その呪いを解くために神父様のところに足を運んだのですが・・・。神父様でもなかなか解くことができない呪いでした。」
そんな強力そうなドラゴンの呪いにかかったスザクは無事だろうか・・・。
「その時、私も呪いを解くのに協力しましたの。」
マリアさんには癒し手としてのスキルがあるらしく、神父様と二人で力を合わせてスザクを侵していた呪いを解いたらしい。
「良かった。ありがとうございます。」
彼の危機を救ってくれたことに私はお礼を言う。
「いえいえ、それで解呪後に少しお話させていただいて、ファンになってしまいました」
スザクは優しいからファンになってしまう気持ちもわかるなぁ。
「そういえば・・・マリアさんは冒険者登録はされてないのですか?」
強力な呪いを解くレベルの癒しのスキルがあるのにモック村には来なかった。
私はエレンさんたちと一緒に冒険者をしていないのか疑問に思ったので聞いた。
皆が沈黙した。
「ご、ごめんなさい。その、変なことを聞いてしまって」
私はその空気を察知して謝罪する。
「いいえ。大丈夫です。」
マリアさんが私の頭を撫でながら言った。
「ジュリア、少し私の話を聞いてもらってもいいですか。」
マリアさんは言った。私は首を縦にふる。
「私が故郷に戻ったとき、恋人・・・いえ元恋人のカムイくんは既に別の人と結婚していたのです。」
エレンさんから王都へ向かう行商人さんの馬車の中で聞いた。私はそんな現実に直面したときに受け入れられるのだろうか。
「最初は本当にショックでした。洗脳してきたあの男を恨んだこともあった。でもね、どんなことをしてももう彼は戻らない。私は前を向くために、王都に来ました。」
既にその水は別のお盆に注がれていた。どうしようもなくて、きっと無理やり前を向くために、彼女はここに来るしかなかったんだと私は思った。
「私は神父様のところを訪れました。そこで私に癒しのスキルがあることがわかって、そのままシスターとして歩き出すことにしましたの。しばらくして、エレンさんとシオンと再会しましたわ。」
「冒険者になり立てのころ、どこを拠点にしようかって迷っていた時にマリアが助けてくれたよな」
エレンさんが懐かしむように言う。
この屋敷を手に入れる前は、教会の一室を借りていたらしい。
「神父とマリアに助けられてな。狭い部屋で3人で寝たのは今となってはいい思い出だ。」
しばらくしてこのお屋敷を手に入れて、エレンさんとシオンさんはマリアさんを連れて教会を出てそこに住みだしたらしい。
「神父様にはここにいてもいいよと言われたのですが、教会に全てをお世話になるのも申し訳なかったし、何より冒険者として頑張っているエレンさんとシオンの助けになればと思い、私もこの屋敷住むことにしましたわ。」
「私は一緒に冒険者やろうと誘ったんだが、フラれてしまってな・・・」
「エレンさんに誘っていただいて嬉しかった。でも私はあなた方の支えになりたいとか、冒険者には向いている性格じゃないとか『言い訳』を作って冒険者になるということから逃げてましたの・・・。」
「別に逃げたとか思ってないぞ・・・」
エレンさんはマリアさんの肩に手をおいて言う。
「いいえ。私は前を向くために王都にきたと思っていました。でもカムイくんから目を背けて王都に逃げてきただけなのです。前を向くためと『言い訳』をして王都に逃げてきたんです。
・・・そして冒険者のこともそうです。」
マリアさんは遠い目をして言う。
「ですがスザクさんとお話して、そしてジュリアとスザクさんの関係を知って・・・。私は変わろうと決意しました。」
―『僕の心が弱いから、大切な人を傷つけてしまっている。』
―『大切な人は共に成長する存在でありたいと言ってくれた』
―『なので僕は自分の心を強くするためにここにいます』
「スザクさんの仰られていた『大切な人』はジュリアなのですね。」
マリアさんは目を瞑りながら続ける。
「あの悪魔のような勇者によって未来が壊されても、スザクさん、そしてジュリアはそれを取り戻すために前を向いていた。私は前を向いたのではなく、逃げていたことに気づかされたんです。」
私は逃げることが決して前を向かない行動だとは思わない。私が取り戻す決意ができたのは、まだ水がお盆に戻るかもしれない状態だったから。
もし既にスザクが別の人と結婚していたら・・・きっと逃げていたと思う。
「でも・・・変わるのです。」
マリアさんは決意を言葉に込めるように力強く言った。
「エレンさん、私も『冒険者として』あなた方の助けになります。パーティに加えてください。」