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23:王都への道

「ふう、どうにか王都に行く行商人の馬車に乗せてもらえたな」

 エレンさんは言った。


 モック村に行商人さんはなかなか来ない。だから隣の街のボウカーの街で行商人さんの馬車に乗せてもらう。

 というプランを立てた。



 モック村からボウカーの街への道のりは、私の荷物が多いせいでエレンさんに迷惑をかけてしまった。

「可愛い妹分が旅立ちの決意をしてくれたんだ。この荷物位私が持ってやるさ」

 とエレンさんに重い荷物を持たせてしまった。


 彼女は軽々と持っていたけど・・・。



 初めての野宿、森以外での魔物との戦闘。

 新鮮で楽しかった。



 そしてボウカーの街についた私たち。



「ごめんな。私はこの街にあまりいたくないんだ・・・」

 エレンさんの過去を知っている私は当然の感情だと思った。シオンさんも話を聞いて過去を知っているんだろう。


「OK。私が行商人さんを釣って・・・お願いしてくるからジュリアはエレンと一緒に待ってて」

 とシオンさんは街に向かっていった。




 そして10分くらいで戻ってきた。




「は、早いですねシオンさん」

「まあ、ちょっとね」

 とウィンクしながら彼女は言った。


 こうやってお願いされたら男の人は良い気分なのだろうか?

 スザクもこういうのに弱いのかな?



 とにかく今は馬車に乗れたから私の荷物の重さ問題も解決だ。



「さてジュリア。少し落ち着いたしそろそろ話そうか」


 それは私が南の森の入り口聞こうとしたこと。


 ポイズンバタフライの件もあったので村では落ち着いて聞けなかったけど・・・。




「私たちがなぜ冒険者をやっているか。」

「はい。聞かせてください」







 エレンさんは話し始めた。








「私は幸運なことに、家族、そしてディーンの家族にも受け入れてもらえた。洗脳のことがちゃんと伝わっていたからか拒絶されず、むしろ気づいてやれなくて悪かったとか、苦労したのねとか、優しい言葉をたくさんかけてもらった。」


 私もそうだが、本当に真実を話してくれた神官様には感謝してもしきれない。

 

 

「ただ、私はなぜ受け入れてくれるのか疑問だった。・・・私は夫を殺めている。」




 そうだ。エレンさんは洗脳されているときに・・・。




「・・・ディーンは失踪したことになっていた。私が勇者に心変わりしたことがショックということでな。だから私が殺めたことにはなっていなかった。」

 



 失踪したことになっているということは、エレンさんは殺したと言っているが、彼が死んだという確証もない。

 遺体が見つかってない、ということは・・・。



 もしかしたら生きているかもしれない・・・。




 能力をつければスザクの隣に立つことができると思い込んでしまう。

 彼と「実質」恋人同士だと心の中で甘いことを思ってしまう。

 現実ではなく、目の前に見えるものを都合よく解釈してしまう私だったらきっとそんなことを考える。





「ディーンの親は私を本当の娘のように扱ってくれた。本当に感謝しかない。」



 ―『息子はいなくなったけど、娘は帰ってきた。』

 ―『娘が帰ってきたんだから、息子も帰ってくるはずだ・・・』



「だが私はあの勇者の名を傷つけずに王都に行ってしまった・・・。」



 私は勇者とともに村の人に暴言を吐いて、故郷を捨てて王都に行った。



 でもエレンさんは、夫を捨てて勇者に縋る「演技」をした。



 勇者は「ディーンさんを大切にしなさい」と演じてこの街を去った。



 この街の人は勇者の本性を見ていない・・・。



「洗脳や魅了状態のことを信じない人も出てきた。英雄がそんなことをするはずないだろうって。下衆な男たちが私に迫ってきたよ。夫がいるのに他の男に身体を許す尻軽女って思われたんだろうな」


 

 ―『旦那がいるのに他の男に身体を許した尻軽な女だったんだな。』

 ―『エレンはいい身体をしてるよな。一回抱いてみたかったんだ。』

 ―『勇者様に捨てられたんだろう?なら俺が癒してやるよ。』



 エレンさんはディーンさん一筋だ。


 けど洗脳や魅了状態のことを信じない人にしてみればそう思われてしまう・・・。



「3人の男が私に関係を迫ろうと襲ってきた。私は必死に抵抗した。」


 3人の男性に襲われる。そんなの女性1人では立ち向かえるはずがないが・・・。



「必死に拳を振り回した。足も必死に動かした。そうしたら周りの男たちは倒れていた。私は正直何をしたのかわからないけど、今が逃げるチャンスと思って逃げたよ・・・・。」


 この時に格闘戦士としての才能の片鱗が出ていたということなのだろうか。



「・・・私はこの街を出て王都に行って、神父のところに行くことを決めた。男たちに尻軽女と思われて、関係を迫られるのが嫌だったってのもあるが・・・。」


 彼女の気を使える性格が仇となった。勇者の名を傷つけずに街を出てしまったがためにそんなことを思われてしまう。



「一番目を背けたかったことがある。」



 エレンさんを目を瞑る。



「ディーンは失踪したのではないこと。私が殺めたこと。これを言うことができない自分だった。」



 それは勇者に洗脳されて魅了状態だったから。

 っていうのは簡単だ。



 確かにそんな記憶が自分の中にあるけども。




「ディーンの親は私のことを娘のように扱ってくれた。なのに私は。

 その関係を壊すのが怖くて・・・。結局逃げるように王都に行ったんだ・・・」



 沈黙が流れる。



 正直に言うべき、なんて正論を振りかざすのは簡単だ。

 でも取り戻したものを再び失うかもしれないという恐怖。

 だから安易にそんなことは言えない。



「それで王都に行って、神父を訪ねたらマリアと再会した。

 マリアは故郷に戻ったら、前の恋人が別の人と結婚していたそうで、な・・・。それでこっちに戻ってきてシスターをやっていたよ。」


 マリアさんは私たち4人の中では一番長い期間の2年間も魅了状態だったそうだ。

 その2年間に恋人が別の人と結ばれていてもおかしい話ではない。



 もしかしたら、スザクは異端なのかもしれない。

 ・・・彼が別の人と結婚していたってこともあったかもしれない。



 きっと私はその現実を直視できない。


 なぜなら私は目の前に見えるものを都合よく解釈してしまうから。

 彼がその別の人と結婚していたとき、その人を憔悴している彼に漬け込んだ悪い女だと解釈するのだろうか?

 それを彼に言って無理やり取り戻そうとするのだろうか?



「私は神父に今後どうしたらいいか相談した。すると神父はスキル鑑定をしてくれてな。鑑定の結果、私には格闘に関するスキルというか才能があるらしく、冒険者としていけるかもしれないと言われた。まあシスターって柄じゃないし、冒険者としてスタートするためにギルドに向かったよ。」


 そこで偶然にもシオンさんと再会して「なら一緒に冒険者をやるか」ってことで二人で冒険者登録をしたらしい。


「これが私が冒険者をやっている理由さ。じゃあ次はシオン話すか。」



 シオンさんは「わかったわ」というと話し始める。



「私もね、故郷にも家族にも受け入れてもらえたわ。ホント神官には感謝ね。

 でもね・・・」


 シオンさんは目を瞑る。


「でもね・・・ラフェールからは、拒絶されちゃったの・・・『もう近寄らないでくれ』って。洗脳されていたとしても自分自身が彼との関係を壊した自覚はある。それが修復不可能になってしまっていても受け入れるつもりでいた。」



 ・・・もし私が最初から拒絶されていたらどんな行動をとっていただろう。



「けど私はそんなことも忘れて、自分自身の感情をコントロールできずに言ってしまったの」


 ―『洗脳されていたの。魅了状態だったの。なんでわかってくれないの!』


「私は愚かにも相手の気持ちも考えずに、自分の気持ちだけをぶつけた。そんなんだから私とラフェールの関係は、本当に修復不可能な状態になってしまったの」


 スザクは拒絶はしなかった。

 もし拒絶されていたら、私はその言葉を発していたかもしれない。

 

 取り戻したい、でも彼は離れて行ってしまう。

 その焦りから自分が洗脳だったということを前面に押し出して、理解の強要をしていたかもしれない。



 本当に私は幸運だ。



「何度も謝ろうと思った。けれど彼から避けられていた。この好きな気持ちは本物なのに・・・・」


 本物の気持ちが、洗脳された「偽物」の私によって粉々になった。


 本当に許せない。



「それで結局、私はその状態から逃げ出すように王都にきたってわけ。

 私は神父様のところにはいかず直接ギルドにいったんだけどね。

 そこでエレンと偶然再会したの。」


「まさかそこでシオンと再会するとは思わなかったな・・・。」


「最初は魔術師にでもなれるかなーと思ったんだけど魔法の適正が全然なくてさ。そこでエレンの格闘攻撃を支援できそうな遠距離攻撃の武器を持ったら、それが上手くハマったってわけね。」


 神父様にスキル鑑定してもらったら弓に関するスキルを持っていたらしい。




「私はこんなところかしら。」

「次はジュリアだな。モック村での様子を見ると故郷の人達とは仲良くやっていたみたいだが・・・。」

「そうですね。ありがたいことです。そして恋人とも仲直りもできました。」


 都合の良い私は彼のことを恋人と表現してしまう・・・。気を付けなければ・・・。

 

 


 私はこれまでのことを2人に話した。



 私の恋人・・・元恋人は私を勇者から取り戻すために強くなろうとしていたこと。


 私も彼の隣に立つために、村長さんに協力してもらって、修行したこと。

 そこで魔法の適正が私にはあったこと。


 彼は南の森を騎士団からの依頼で調査して成果を上げて、それがなんらかの形でギルドに伝わり、ティアという女性が村に来てスカウトされたこと。


 過去のことを乗り越える強さを得るために、彼は王都に旅立ったこと。



 話し終えると二人が驚いたような目で私を見る。


「ティアさんにスカウトされたのって・・・」

「ジュリア。その人の名前は?」

「スザクって言います。」

「「ホント!?」」

 二人は同時に言う。



「あの魔法剣士の名前もスザクっていうんだが・・・」

 ポイズンバタフライ戦でエレンさんたちが言った「あの魔法剣士」ってやっぱりスザクのことなんだ。


「お二人はスザクのことを知っているんですか?」

「知っているもなにも・・・」




「「超有名よ!」」

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