22:言い訳
エレンさんたちを私の家に招いた。
お父さんとお母さんはなんだか張り切ってくれて、夕飯はとても豪華だったな。
お父さんは「可愛い娘が増えた」とデレデレしていた。
その瞬間、身を震わすほどの殺気があふれ出たと思ったら、お父さんはテーブルに伏せていた。
後ろにはお母さんの姿が・・・。
「エレンさん、ごめんなさいね。私の主人が変なこと言って」
「い、いや、気にしてない・・・・。」
ポイズンバタフライを拳で倒したエレンさんがおろおろしながら声を出す。
・・・震えるほどの殺気はお母さんから出ていた。
「それじゃあ私たちは部屋に戻るわね。お父さんも今日は疲れてしまったようね・・・」
「・・・・」
それはお母さんのせいでは。
って突っ込みたかったけど、娘としてここで声をあげてはいけないと思った。
「ほらお父さん。疲れているならお休みしてください。」
疲れている?
なんて誰も言えるわけなかった。
「それじゃあエレンさん、シオンさん。ごゆっくり・・・」
というと二人はお部屋に消えていった。
「・・・・私たちもそろそろ休むか」
「ええ、そうね。」
そんな楽しいときを過ごして、明日に備えて皆が寝静まった・・・。
**************
私は布団の中で考えていた。
王都に行くかどうか・・・。
エレンさんたちと一緒にいることができる。
そして、彼に・・・スザクに会えるかもしれない。
それはずっと考えていたこと。離れ離れになってから一度たりとも彼のことを考えない日はなかった。
自分も村長さんから教えることがないと言われたときに彼のことの追いかけて王都へ行こうと思った。
けれど私は『言い訳』をした。
―彼は「強くなったら迎えに行くから」と言ったから待つべきだ
―彼はモック村の森の依頼に来てくれる。その時に一緒に行きたい。
―彼の邪魔になるかもしれない。
―勇者がいる場所には行きたくない。
私も待つだけじゃダメ。彼と同じ土俵に立つ。
あの時の自分の『意志』はなんだったの?
勇者がいる場所にはいきたくないのは事実だ。
でもそのことを、彼と会う勇気のない自分の『言い訳』にしている。そしてそのことをわかっているのに『言い訳』と心のどこかで認めてない自分が嫌だった。
―また勇者が私の邪魔をする。
都合の良い私は会う勇気が無いことをあの男のせいにする。
「ゆうしゃ、じゃましないで」
私は小声で『言い訳』を呟く。
すると横から抱きしめられる。
「・・・迷っているのかジュリア」
「・・・・」
私は黙ってしまう。
自分の『言い訳』を聞かれてしまっていたから・・・。
「・・・城には絶対入らない。あの男との記憶は城内だけだ。でも城下町には私たちの思い出がないか。」
城内の部屋で勇者に抱かれるのを待つ日々。
・・・それはまるで娼婦のように。
城下町にエレンさんたちと出かけた思い出。
動機はあの男を喜ばせる下着のためだ。
でもそれ以外の思い出もある
4人で食べた美味しいごはん。
4人で回った数々のお店。
4人で座ってお話しした噴水のある広場。
それは間違いなく楽しい思い出。
「わたしはいきたい。」
私は弱々しい声で呟く。
「じゃあ勇気を出すんだジュリア。それに・・・」
エレンさんは小声で私の耳元でささやく。
「私たちは勇者に復讐しようと思っているんだ」
その声は小さいはずなのに力強く、私の中に響いた。
「どういうこと?」と問いたかったけど・・・。
「今はゆっくりお休み、可愛いジュリア」
エレンさんの優しいぬくもりに私は眠りに落ちた。
**************
翌朝
私は王都に向かう準備をする。
「お世話になりました。」
「エレンさん、シオンさんまたいらしてくださいね」
エレンさんとシオンさんはお母さんたちにお礼を言う。
「じゃあ、私も行ってくるね。」
「あっ、ちょっと待ってジュリア」
お母さんが呼び止める。
「どうしたの?お母さん」
「ちょっと、お話ししたいことがあってね・・・」
お母さんは目を伏せながら言った。
「エレンさんとシオンさんは先に行っていてもらえるかな」
「・・・わかりました。ジュリア先に行っているぞ」
「すまないね。」
とお父さんは言うと家の中に戻っていった。
「・・・お母さん、話って何かな?」
なかなか話した出さないので私から口を開く。
どうしたんだろ、お母さん。
「ジュリアは王都に行ったらまた、ここに戻ってくるのかい?」
「えっ、うん。そのつもりだよ」
「お前はそれでいいのかい?」
「えっ!?」
私の中に一つの不安が押し寄せる。
あの時は勇者に洗脳された私を許してくれたけど、
やっぱり本当は許したくなくて、王都に行くタイミングで追い出そうとしているの?
「・・・そんな不安そうな顔をするんじゃないよ。私はジュリアを追い出そうとはしてないさ」
お母さんには私の考えていることはお見通しだったようだ。
「じゃあなんでそんなことを聞くの?」
「スザクくんにもしばらく会えてなくて寂しいだろう?」
「それはそうだけど・・・。でも、あ、あのスザクが王都にいるからって一緒に住みたいわけじゃ・・・」
スザクに会えなくて寂しい。それにもし叶うのではあれば・・・一緒に住みたい、一緒にいたい。
でもそれは叶わない。
勇者が邪魔をするから。
そうやって『言い訳』している私がいるから。
「・・・勇者というやつのせいなんだろ?一緒にいれないのは・・・」
「えっ」
「私はお前の母だよ。そのくらいお前の様子を見ていればなんとなくわかるわ」
私とスザクが元に戻れないのは、勇者に洗脳されたことが原因であること。
スザクがその過去を乗り越えるために、王都に行って成長すること。
それはお母さんには私は言ってない。
「スザクくんが王都に行ったのも、勇者との過去にケリつけるため、よね?」
「・・・・」
「ジュリアは、ケリをつけなくていいの?」
私が勇者とケリをつける?
―『エレンさんは、勇者が憎いですか?』
―『私もです、エレンさん。できるなら復讐したいです。』
私はエレンさんに聞いた言葉を思い出した。
でもそれは村娘には無理だって、意味のない妄想だと結論づけた。
それでも私は、あの男さえいなければということを何度思っただろう。
「私もケリをつけたい」
と私は自分に言い聞かせるように言う。
「お母さん、待たせたね」
家の中に戻っていたお父さんが少し大きい鞄を持ってきた。
「ジュリア、その今持っている鞄を俺に」
「うん、お父さん」
「じゃあお母さん、お願い」
と鞄をお母さんに渡すと、お母さんは私が元々持っていた鞄の荷物を、少し大きな鞄に詰め替え始めた。
「ジュリア。お前がこのまま王都に住むことなったとき、これくらいの衣類とお金があれば困らないだろう。」
お父さんもお見通しだったんだね。
「それとこのお守りも受け取ってほしい」
というとお父さんは首飾りを私に渡した。
緑の石がきれいに輝いている。
「それはな、お父さんとお母さんが冒険者をやっていたころに見つけたものだ」
「えっ、冒険者だったの?」
「とはいってもギリギリシルバー級の程度の冒険者だけどな。何に役立つかわからないが持って行ってほしい。」
私は首飾りを身に着ける。
とても心強かった。
「よし、これで完了っと」
お母さんが荷物の詰め替えを終わったようだ。
「お前は俺たちの娘だ、強い娘だ。だからきっと大丈夫。それに今は頼れる仲間もいるんだろう?」
お父さんは私の頭を撫でながら言った。
「だから勇者との過去にケリをつけてきなさい。」
「うん、ありがとう」
私はお父さんたちが準備した鞄を受け取る。
感謝の言葉の後は・・・
「私、行ってくるね!」
「「いってらっしゃい」」
決意の言葉で一歩を踏み出した。