21:VSポイズンバタフタイ
「エレンさん。一度だけ私の風の外に出ること許可します。」
「ジュリア。何バカなこと言っているの?」
シオンさんが声を上げる。
毒の鱗粉の中に突っ込めと言っている。当然の反応だろう。
「でもこのままでは、私たちはやられてしまいます。」
「そう、だけど・・・」
シオンさんが一番理解しているだろう。もう矢が底をつきかけているのだから。
「シオンさんが矢で射続けてくれたところの傷が深いです。そこにエレンさんの拳を叩き込むんです。そして・・・」
スザク。力を貸して・・・。
「エレンさんの拳に私が炎を宿します。」
「なっ、どういうことだ」
「私の火属性の魔法をエレンさんの拳に纏わせます。」
「そんなことが・・・」
「いや、できるかもしれないわ。あの魔法剣士のように」
もしかしてその魔法剣士って。
「そういうことか。だがあの剣士のようにできるか?」
「それは・・・ジュリア次第ね。」
「ジュリアできるのか・・・」
「・・・・・」
私は目を瞑り、スザクが剣に火の魔力をまとわしたことを思い出す。
『僕も君のための強くなった』と言いながら魅せてくれた綺麗な剣。
「ジュリア。やって見せろ。」
エレンさんが力強く言う。
「風魔法を維持しながら、火魔法を出すのは大変かもしれないが・・・。」
彼女はニコっと笑って言った。
「私の拳が火傷するくらい、どうも思わないぞ。だからやろう。」
・・・また背中を押してもらった。
私は決意したように頷いた。
イメージする。
スザクが剣に火の魔力をまとわしたのを思い出しながら。
あの綺麗な剣のようじゃなくていい。
宿れ、拳に。
「凄いわ。エレンの拳から炎が・・・。」
「・・・よくやったぞ。ジュリア」
一気に脱力感が襲うが、風魔法は維持する。
あとはお願いします。
言葉にはできなかったけど、目で伝える。
エレンさんは走り出す。
「レディに毒を振り撒く輩にはお仕置きしねえとな」
シオンさんが切り拓いた道、私が宿した力。
「ビックバンファイアーブロー」
ポイズンバタフライは身体の中から焦げように消えていった
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私たちは、今村長さんの家にいる。
ポイズンバタフライが出たのでその報告だ。
「ポイズンバタフライか。そんな魔物に出会ってよく無事で還ってこれたな。
お二人には感謝しないといけないな。ジュリアを守ってくれてありがとう」
「いえ村長さん。ジュリアの協力もあって切り抜けたのですよ」
「そうだなシオン。みんなで協力したおかげだ。それよりも、素材がな・・・」
「ううう、採取した素材は全て毒に侵されてしまったんですね・・・」
私は落ち込んだ声で言う。
ポイズンバタフライを倒して、今度こそ依頼達成かと思ったら、こんなことでまた失敗だなんて。
私、助っ人として呪われているのかな。
「気にするな。まさかポイズンバタフライがでてくるなんて、想定もしてなかっただろう」
村長さんは優しく言う。
「ギルドにも報告だな」
といってエレンさんは私の肩を叩く。
ポイズンバタフライが出た証拠は、シオンさんの射貫いた矢にこびりついていた羽を見せることで証明するらしい。
「とにかく無事で何よりじゃった。お二人も今日はここで一休みしてから王都に戻っておくれ。」
「村長さん、感謝する。」
「じゃ、じゃあ私の家に泊まってください。」
エレンさんたちがこの村にとどまることを聞いて、私は声を上げる。
「じゃあ言葉に甘えようかな。ジュリア」
シオンさんがうれしそうに私に抱き着く。
「ああそうすることにするか。それと村長さん」
エレンさんは村長さんに尋ねる。
「今回のことをギルドに報告するために、ジュリアを王都にも連れて行ってよいか」
私は身を震わせる。
スザクがいる、もしかしたら会えるかもしれない。
そして、エレンさんとシオンさんとまだ一緒にいることができる。
・・・でもあまり行きたくない。
思い出したくもない、洗脳の記憶がつまっている場所なんて・・・。
「行くかどうかは・・・ジュリアが決めることじゃのう」