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2:被害者でもあり、加害者でもある

ここからはプロローグで登場した女性のジュリア視点となります。

「ん・・・?」

 ここはどこだろう。

 長い悪夢を見ていたような気がする。

 

「ジュリアさんお目覚めになられたのですね。」

 女性の声がする。


 その声の方向に振り向くとシスターがいた。



「・・・お体は大丈夫ですか?」

「え、ええ」

 



 ・・・大丈夫じゃない。

 あの勇者に汚されてしまった。


 できれば悪夢であってほしい。

 けれどきっと現実だ。

 




 私は目覚める前のことを徐々に思い出していた。



 ・・・とんでもないことをしてしまった。


 なぜ私は勇者なんかに身体を許したのだろう。

 

 なぜ大切な人を捨てるような行動をしたのだろう。




 ―『お前は俺に洗脳されていたんだからな。』

 

 洗脳・・・?

 勇者は英雄であるはず。そんな魔王のような能力を持っているはずが・・・。

 


「目覚めたばかりで申し訳ないのですが、神父様がお話しがあるそうです。

 神父様の部屋まで足を運んでもらっても良いですか?」


 混乱する私にシスターは言った。


「・・・わかりました。部屋まで案内お願いします。」



 神父様は何かを知っている。

 私は直感的にそう思った。



 *********



 シスターの案内で神父様の部屋に来ると私とは別に既に3人の女性がいた。



 私はこの3人を知っている。


 エレンさん、シオンさん、マリアさんだ。


 知っているはずなのに、初対面のような感覚だ。



「ジュリア・・・か、目覚めたんだな。」

「エ、エレンさん」

 私に声をかけた気の強そうな女性は、エレンさんだ。


「まあとりあえず座れよ。神父が勇者の洗脳の能力について説明してくれるそうだ。」

「!!」


 あの男は洗脳する能力を持っている。




 神父様の説明を聞くために、私は静かに席に座った。




「さあ話してくれよ。」

 エレンさんがそういうと、神父様は話し出した。



「皆さん、もう薄々わかっているかもしれませんが、貴女たちは勇者に洗脳されていました。

 そして魅了状態から解かれました。」



 神父様の話をまとめるこうだった。



 勇者から洗脳されたものは、魅了状態となり、勇者を強制的に愛するようになる。

 たとえ何よりも大切な愛する人がいようとも、勇者のための行動するようになる。

 たとえ自分の意志でなかろうと、本当に愛するものを傷つける行為をするようになる。



 勇者は飽きると洗脳を解く。

 短い期間で、魅了状態から解放される人もいれば、そうでないひともいる。

 かかっていた時間が長い人ほど、気絶してから目覚めるのに時間がかかるそうだ。


 

 なぜ勇者が洗脳を解くのかは不明である。

 恐らく魅了状態する人数に制限があるのではないかと推察するが定かではない。単純に勇者が飽き性で飽きた女性を捨てているだけという可能性もある。



 国や教会の対応について。

 被害者の女性やその関係者に、真実を話して補償金等を支払うことで話を穏便に収めてきた。

 穏便に収める際に『洗脳』といった事情を説明する。

 このおかげで元に戻れたケースもあれば、一度零れてしまった水は元に戻らない。そういうケースもあるという。


 元に戻れなかった女性は、他にいくあてもないので、この教会に戻ってきて、一からやり直す女性もいる。私をここに案内したシスターもその一人だそうだ。




「・・・最後にこのことは、他言無用でお願いしたいのです。」

 神父様はこの言葉で説明を締めた。







「うう、ラフェール・・・」

 耐えられなくなり、誰かの名前を呼んで涙を流したのは3人の女性のうちの一人のシオンさんだった。


「あなたたちが真実を話してお金を払ったからって、故郷やラフェールの隣に戻れる保証はないじゃない・・・」


 消え入る声でシオンさんは呟く。



 自分の意志でなかったとはいえ、取り返しのつかないことをやったのは自分自身。


 自分たちは被害者でもある。

 でも勇者と一緒に愛する人を苦しめた共犯者、加害者であるのだ。


 事情を知ったとはいえ、加害者である自分を・・・スザクや故郷の人達が受け入れてくれる保証なんてどこにもない。


 シオンさんの言葉で、そんな残酷で当たり前のことに私たちは気づいた。




 重苦しい空気が流れる中・・・





「神父様、なぜあなたは勇者の洗脳や魅了状態のことをご存じなのですか?」

 と口を開いたのは3人の女性のうちの一人のマリアさんだった。



「スキル鑑定をしたからです。」

 神父様は彼女にすぐに答えて、さらに話をつづける。



「勇者は魔族との戦いで世界中を旅して、それぞれの地域で魔族の脅威から救って戻ってくるたびに女性が増えていたのです。」

 勇者は世界を救いつつ、女性を奪ってきたということなのだろうか?


「私は少しおかしいと感じました。

 そこでギルドと協力して、勇者が立ち寄った地域に人を派遣して、勇者について調査を行いました。多くは勇者に対して感謝の言葉だったのですが・・・・」


 一呼吸おいて神父様は続ける。


「恋人を、妻を、強引に勇者に奪われた・・・そんな声もあがってきたのです。

その声が勇者の立ち寄った地域の街の全てで出てきたのでおかしいと確信しました。」


 魔物と戦いながら、女性を洗脳していた・・・とでもいうの?


「私は勇者に何か秘密があると思い、スキル鑑定を行いました。そして洗脳のスキルがあることが判明しました。」


 魅了状態から解かれた女性に全てに対してこの説明をしているのだろうか。

 神父様は一切の無駄なく話した。





 全てを聞き終わったらエレンさんが口を開く。

「なあ・・・だったらあんたら、なんでそんな勇者を野放しにしてるんだよ・・・・」



 静かにそして怒りを込めて言った。





「真実とか、補償とか、そんなことをする前に、あの勇者をどうにかしろよ。」

「・・・それはできない」

 神父様は苦しそうに言葉を絞り出した。




「なぜだ・・・」

 エレンさんが静かに神父様に問う。








「あの勇者は・・・最強勇者だからです。」

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