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17:壁

「私と一緒に来れば、君は冒険者として成長できてさらに強くなれるぞ」

「僕は・・・」


 スザクは迷っていた。



「なんだ?この可愛い恋人ちゃんと離れ離れになるのがいやか?」


『私たちは恋人ではありません。』

 って私は言葉にできない。



 ティアさんに私たちが恋人同士でない事実を伝えないと。



 そして、心のどこかでスザクと「実質」恋人同士だと思っている自分自身に伝えないと。




「いえ、僕たちはまだ、その、恋人関係ではありません・・・。」


 その残酷な事実は彼の口によって伝えられた。



「まだ・・・?じゃあお互いの能力を見せ合っていたのは喧嘩でもするためか?」

「いえ違います。」

「じゃあなんで彼女は火魔法を出して、君は火属性の魔力を剣にまとわせていたんだ?」

「それは・・・」


 スザクが答えに困る。



 私はスザクが言った残酷な事実に対して放心していた。




「まあ何か事情があるのだな。私が足を踏み入れることはないか。

 それよりもスザクよ。ぜひ前に向きに考えてほしい。」



 ティアさんはそう言うと一枚の紙を取り出してスザクに渡す。



「これは私の紹介状だ。これを王都のギルドに持っていけばお前も立派な冒険者だ。

 それとこれは余計なお世話かもしれないが・・・」


 彼女は私の方を見る。


「もし関係がこじれそうなら、一旦離れるのも手だと思うぞ。」




 *********



 ティアさんは「村長さんやスザクの家族にも挨拶しておくか」と言って、彼と共に村長さんの家に向かっていった。




 私は今日あったことを振り返る。



 スザクは私が努力したことを喜んでくれた。


 けれど強くなって彼の隣にいるということが、彼の気持ちや受けた心の傷を無視した、自己満足な行動であることを思い知らされた。

 それに過去を乗り越えられないのは「自分が弱いから」と彼に言わせてしまった。



 スザクが王都のギルトからスカウトされた。

 スザクから「恋人関係」ではないことを言葉にされた。

 ティアさんから離れることも手だと言われた。




 離れるなんて絶対いや。



 ・・・でもそれも私の自己満足なんじゃないのか。



 ・・・私は彼にとって邪魔な存在なのではないか?




 













 それからの私はスザクとなるべく接触しないように過ごした。

 村長さんとの魔法の修行をしているときは気が紛れて良かった。

 でも修行を終えて、夜、家に帰って布団にもぐると彼のことを考えてしまう。







 彼と恋人同士に戻れた時の妄想。

 私の魔法の能力が認められ、ティアさんに冒険者としてスカウトされる妄想。

 勇者がこの村に来なかった未来の妄想。




 そんなことを妄想したって意味無いのに。





 気分によっては過激な妄想もした。



 勇者に復讐するの妄想。

 そしてそれが成功してスザクと結ばれる未来の妄想。



 できないことを妄想することほど、無駄なことはないのに。






 こうして無駄な妄想をして自己嫌悪に陥りながら眠る。










 そんな日々をしばらく送っていたある日。



「明日は遂にスザクが王都に旅立つ日じゃな」

「えっ!?」

 そんなこと聞いてない。


 村長さんが間違いなく「スザクが旅立つ」といった。

 そんなの知らない・・・。


「・・・もしかして知らないのか?」


 その反応に気づいた村長さんが問う。


「そんなの聞いてないです」

「スザクがスカウトされたのは知っているな?」

「はい。ティアさんから紙をもらっていたと思います。でも本当に行くなんて知らなかった・・・」



 どうしてスザクは教えてくれなかったの?

 でもそもそも彼を避けていたのは誰?

 彼が王都に行くことを恋人でもない私にわざわざ伝える必要がある?



「・・・ワシはお前らがお互いを避けているのは何となく勘づいていたが・・・。

 それは王都に行くと言い出して、お前が反対して喧嘩したからだと思っていたが・・・」



 喧嘩ができているなら、どれだけ幸せか。


 今の私たちは喧嘩すらできない関係だ。




「ジュリアよ。」

 村長さんがいつになく真剣に問う。


「お前はそれでいいのか?」

「わ、わたしはその」

「・・・ジュリアよ。今のお前では修行をしても無意味じゃな。今日は終いじゃ。」

「そ、村長さん」

「お前も自分で壁を乗り越えられるようにならんとな。」



 私は・・・。



「ジュリアよ。お前は今のままスザクと別れていいのか?」





 ***********




 村長さんとの修行を終えて、私は家に向かってトボトボと歩く。


『自分で壁を乗り越える』


 村長さんに言われたことだ。


 洗脳から解かれて、村に帰るって決意した。


 スザクのために強くなることを決意した。








 自分だって目の前の「壁」を乗り越えてきたと思っている。









 でもよく考えたら・・・



 村に帰る決意ができたのは・・・エレンさんのおかげだ。

 エレンさんに背中を押させて、不安な気持ちを抑えて帰ってこれた。

 背中を押してもらったのに自分で「壁」を乗り越えたって言える?



 スザクのために強くなることだって、結局はスザクの背中を追っていただけ。

 人の背中を追うことは、自分で「壁」を乗り越えたって言える?






 私は・・・私は・・・自分の意志で行動していない。

 これじゃ洗脳されているときと何も変わらない。




 彼とまた離れ離れになろうとしている。

 本当にここままでいいの?




「そんなのいや・・・」

 そうつぶやくと私は彼の家の方に走る。




 何を話すの?何を言うの?そんなのわからない。

 けどただ会いたい。



 そういう思いで彼の家に向かうと



「ジュリア」



 彼がいた。

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