16:スカウト
私は今スザクと一緒にいる。
彼に私の想いを伝えるためだ。
私を隣においてください。
それを伝えるために・・・
「私ね、魔法を使えるようになったの」
「知っているよ。村長さんと頑張って修行していたよね」
彼は私の努力を見ていてくれた。
ならきっと大丈夫。
「あのね。私も一緒に連れていって」
「でも僕はやっぱりジュリアと一緒に南の森にはいけないよ。危ないよ」
彼は優しい。私を少しでも危ないところに連れていきたくない心遣いをしてくれているのかな。
「大丈夫だよ。たくさん魔法を使えるようになったよ。」
「知っているよ。頑張って努力していたからね。
・・・でもジュリアは女性だ。体力が心配だよ。どれだけ凄い魔法が使えても体力がないとね。」
私の事を女性扱いしてくれる。
けれどその優しさを私は素直に受け取れない。
・・・優しさを盾に、私のことを拒絶しているのではと不安になった。
「だから大丈夫だって言ってるでしょ。」
不安から思わず叫ぶようにしてスザクに言い放ってしまった。
私たちの間に緊張した空気が流れる。
私が叫んでしまったせいだ。
「・・・いきなり叫んでしまってごめんなさい」
「・・・僕の気持ちを考えてほしい」
「えっ!?」
思わぬ言葉に私は言葉に詰まる。
スザクは私のために強くなった。だから私もあなたのために強くなった。
「私はあなたの隣に立つために頑張ったよ?ほら私の魔法見て・・・」
私は弱々しい声で言葉を絞りだしながら、ファイアボールを指から出す。
「村長さんや母さんから僕と一緒に森にいくためにジュリアは修行しているってきいたとき、僕は凄くうれしかった・・・」
スザクはとてもうれしいという感情があるとは思えない、暗い声で言う。
「僕も君を取り戻すために強くなった。」
そういうとスザクは火の魔力を自分の剣にまとわせる。
それはとても綺麗な剣だった。この剣に切られてもいいと思うくらい・・・。
「でもまだ僕は弱いんだ。」
彼は自分の左胸に手を添えて言った。
「・・・君の顔を見ると、どうしても思い出してしまうんだ。勇者に君が媚びる顔を。」
・・・またあいつがじゃまをする。
「洗脳されていたのは知っている。けど僕はまだ過去を乗り越えられない。だから、ごめんよ、ジュリア」
私は愚かだ。
スザクは許してくれた。けど心の傷は癒えていないかった。
そんな彼のことを考えずに、心の傷をつけた張本人である私は踏み込んでいった。
「・・・過去の乗り越えられないトラウマを、僕の気持ちを考えてよって君に責任転換する。
そんな頼りない僕だから君は勇者に洗脳されて僕を捨てたのかな・・・」
違う。そんなの違う。
でも私は声に出せない。
洗脳されて勇者に魅了されてスザクを捨てて心の傷をつけたのは事実だから。
「その、スザクの気持ちも考えず、ごめ・・・」
「お前だな。騎士団の依頼で南の森を調査しているという村人は」
私の謝罪の言葉をかき消すように、女性が声をかけてきた。
「そうですが。貴女は一体・・・」
「私は王都のギルドで副マスターをしているティアというものだ。お前の名は何というのだ?」
「スザクです。」
・・・なんというか凄い色気の金髪の女性だ。
エレンさんに少し雰囲気は似ているけど、なんというか「大きい」
私は不安になり胸の前で左手を小さく握る。
「それで何か・・・?」
良かった。
スザクは淡々としている。
「単刀直入にいうぞ。」
私はすごくいやな予感がする。
「スザクよ。私と一緒に王都にこい。」
はあああああ?
スザクもあたふたしている。
「ちょ、ちょっとどういうことですか?」
突然、スザクに意味不明なことを言った女に私は思わず声をあげる。
「この娘は?」
「私はジュリアっていいます。で、ど、どういうことなんですか?」
「どういうことって?」
とぼけるつもりなの?
「ス、ス、スザクに私と一緒に来いだなんて・・・」
自分で言葉にしていて思う。
昔はスザクと恋人同士だったから、彼が他の女性にアプローチされたら止めるように行動してもいいと思う。
・・・でも今は別に恋人同士じゃない。
スザクが他の女性にアプローチされているのを止めるなんておこがましいことだ。
きっと私の心の中で「実質」恋人同士だとか、恋人関係予定とか甘いことを考えているからだろう。
「じゃあ少し詳しく説明するぞ」
ティアさんの話をまとめるとこうだった。
約半年ほど前から、王都の騎士団が南の森の調査結果と素材を持ち帰ることが増えた。
ちょうど半年前となると、スザクがレオンハルトさんと村長さんとの修行を終えて、一人で南の森を調査できるようになったころと時期が重なる。
ギルドとしても騎士団からの調査結果が共有されるのはありがたかった。ギルドの依頼として「南の森の素材採取」が冒険者へ正式に発注されるのもそろそろだとのことだ。
だがこの森の調査に行った騎士団が、王都を出てから王都に帰ってくるまでに期間が短いことが気になった。
モック村へ向かう、調査する、王都に戻るって手順を考えると、とてもじゃないけど期間が短いと思ったそうだ。
もしかしたらこのモック村に優秀な人間がいて、そいつが調査しているのでは?
もしそうなら騎士団が短い期間で帰ってきても説明がつく。
それでティアさんはこの村に調査にきたそうだ。
「魔力に剣を宿す彼を見つけてな。こいつだって思ったわけよ。こいつは優秀な冒険者になれる。この森の調査だけに収めておくのはもったいない。だから一緒に王都に来て、私たちのギルドに冒険者として来ないかとスカウトしたわけだ。」
「そ、そういうことだったんですね」
ティアさんがスザクにアプローチをしていたわけではないとは知って私は安堵する。
「で、スザクよ。私と一緒に王都に来るか?」