嫉妬と贖罪
ティア視点です。
「73:笑顔」のティア視点の話となります。
「ん・・・?」
なんだか嫌な夢を見させられた気がする。
「ティア、ティア」
クレアが必死の声で私の名前を呼んでいた。
「目覚めたのね!」
目覚めた・・・?
私は一体どうしたのだろうか?
「・・・女神の塔の声の主、ホントに質悪いわ。」
女神の塔・・・。
そうだ、私たちは女神の塔を登って女神のペンダントを探した。
しかしこの雰囲気の変わった部屋に入ったら・・・。
「・・・私たちに嫌な『幻』を見せてくるのよ。」
幻・・・。
もしかして私が見た幻というのは・・・。
その幻の中で私はジュリアになんてことを・・・。
「・・・ジュリアとシオンは?」
クレアは既に幻から目覚めているようだが・・・。
私の言葉を聞いてクレアは苦しい顔をした。
「・・・まだ目覚めてないわ。」
「なっ!?」
「ただ死んでいるわけじゃないわ。」
クレアが言うには声をかけても反応しない。ただ呼吸はしている。
あの『声』が言うには幻を見せられていて、それから解放されるには自分自身でどうにかするしかないそうだ・・・。
「この幻から目覚めるかは彼女達次第なの・・・。」
「くそ、私たちは何もできないってことか。」
私は拳を握りしめる。
彼女達のために何もできない自分が悔しい。
「・・・信じるのよ。」
「えっ?」
「信じるの。彼女達が乗り越えてくれることを。」
クレアは私に言った。
いや、自分に言い聞かせている気がする。
クレアでもどうにもならなかったのだろう。
きっと私が目覚めるまでに色々と試したが効果が無かったのだろう。
「・・・わかった。信じよう。」
クレアの言葉に私は答えた。
いや、きっと二人とも思っていることは同じだ。
幻から目覚めさせる方法を思いつかなくて申し訳ない。
そしてお願いだから早く目覚めてくれと・・・。
しばらくしてジュリアが幻想から解放されるのだが、それまでの時間は今までの何よりも長く感じる時間だった。
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「・・っ!ここは・・・」
その声に私はいち早く反応した。
ジュリアが目覚めたのだ。
「目覚めたか!ジュリア!」
思わず私はジュリアに抱き着く。
一生幻から解放されないかと思った。
もしかしたら私が見た幻の出来事が、ジュリアの幻に影響してしまったのではないかと思った。
そう思うとただただ怖かった。
「私は、私は、幻想にまどわされて、幻想の中でおまえを・・・おまえを・・・。」
「ティア?」
私は許しを請うようにジュリアに言った。
幻想の中で私はお前を倒そうとした。
自分の醜い嫉妬で、大切な仲間であるお前を。
そして私の嫉妬よりも醜い思いでお前たちの仲間を・・・。
だから私は魔王だろうが勇者だろうがなんだろうが、彼女達の幸せの障壁になるものはこの剣で砕くと誓った。
それを誰も知らない私の醜い想いの贖罪だとしても・・・。
ジュリアの顔を見た。
「大丈夫か、涙が出ているぞ。」
「えっ!?」
私はジュリアの頬に伝う涙を拭き取った。
きっとジュリアも私と同じように嫌な幻想を見たのだろう。
凄く辛いものを・・・。
「でももう大丈夫だぞ。」
私はジュリアを包むように優しく抱きしめて言った。
『ふふふふ』
あの『声』がどこからか聞こえる。
「・・・本当に質が悪いわね!」
その『声』に向かってクレアは叫んだ。
でも彼女の叫び声は心なしか震えている。
「勇者の『幻影』、そしてこんな『幻想』を見せるくらいなら、正々堂々と立ち向かってきたらどうなの!」
怒りの感情に加えてクレアも『幻』を見せられてかなり動揺している。
それが声の震えに現れているのだろうと思った。
『正々堂々?』
そうだ、正面から正々堂々とかかってこい!
『わらわは正々堂々と女神の試練を与えているのじゃがな』
何を言っているんだ。
塔の1階層で見た石板に「女神の試練」とは書いてあったが・・・。
「試練?こんな心を揺さぶる幻を見せることがか?」
私は言った。
こんな嫌な幻を見せて心を揺さぶる試練なぞ、ただの嫌がらせだ。
『おぬしらは読まなかったのかの?』
―『心の強さ、意志の強さで試練に打ち勝て』
『石板に書いてある通り、心の強さと意志の強さで「幻影」や「幻想」の幻に惑わされないか試しておったぞよ。』
私は魔王に洗脳されたジュリアの幻想をみせられた。
そして私は倒すべき相手を見失いかけた。
あの時に間違った選択をしていたら、私は一生幻想から解放されなかったのだろうか?
『まあまだ弓の女子おなごはまだ目覚めないようじゃがの。』
その声を聞いてジュリアがいち早く反応した。
「シオン、シオン」
ジュリアがシオンの身体を揺らす。
『無駄じゃ無駄じゃ』
『声』は煽ってくる。
「姿を見せて正々堂々と私と戦いなさい!」
クレアが『声』に向かって叫んだ。
『さっきも言ったはずじゃ。正々堂々と女神の試練を与えていると・・・。』
「くっ!」
悔しいが私たちは何もできない。
シオンを信じるしかない。
『その女子おなごは「幻」を乗り越えて目覚めることができるかの』
シオン・・・頼む・・・この試練を乗り越えろ・・・。
女神の塔の幻の話はこれで終わりです。
書きたい番外編の物語やその他の物語はありますが、あまり更新頻度がよろしくなくて申し訳ないです。
更新頻度を維持しながら、また別の作品と並行しながら執筆できる人って本当に凄いと思います。