当たり前の・・・
クレア視点です。
「・・・」
いつもの朝。
隣でルギウスが眠っている。
・・・なぜ夢で女神の塔の時のことを見たのだろう。
あの時から色々なことがあった。
魔王と勇者を倒した私たちは同族たちを保護している。
すべての種族が共存できるようにしている。そしてそれが徐々に受け入れられてきている。
また私もかつての仲間と再会して和解した。
・・・カレン、ジェシカ、アリサと。
―『クレア様・・・』
―『ごめんなさいね。』
何かを言おうとした彼女達を私は抱きしめて言った。
―『貴女達と向き合えなくて、ごめんなさい。』
―『クレア様!』
―『これからもよろしくね。』
―『は、はい!』
一度は突き放した大切な仲間。
彼女達が洗脳されているとも知らずに、一方的に私は突き放した。
でも取り戻すことができた。
そして・・・。
スザクさんとジュリアの間に新たな命が誕生した。
-----------------------------------
―『頑張ったね。ジュリア。』
スザクさんが涙を浮かべながらジュリアに言った。
―『ルーカス。パパだよ。』
スザクさんは自分の子供に声をかける。
それをジュリアが母の顔をしてみていた。
色々な感情があふれ出てきた。
見守ってきた仲間が母になる。
可愛い仲間の可愛い子供。
私を救ってくれたジュリアの子供。
きっと自分の子だったらさらに可愛いのだろうか。
・・・でも私は子を宿すことができない。
ジュリアが羨ましい。
私はきっとこういう思いができない。
そんな負の感情も抱いていた。
―『ルーカス、クレアお姉さんだよ。』
―『えっ!?』
ジュリアは子供を抱きかかえながら私を見て言った。
―『わ、私?』
私はおろおろして言った。
この子はスザクさんとジュリアの子供。
私は言ってしまえば赤の他人だ。
そんな家族でもなんでもない私が声をかけても良いのかしら。
おろおろする私を二人は不思議そうな顔をして見ていた。
そんな私を見て笑顔でジュリアは言った。
―『家族なんだから声をかけてあげて。』
―『家族・・・。』
私の家族・・・。
それはルギウスだけだと思っていた。
けれどこの子達は私のことを家族だと言ってくれている。
血も何も繋がってない、そして異種族の私を・・・。
―『そうですよ。』
スザクさんが穏やかな声で言った。
―『僕がジュリアから離れている時に支えてくれたのはクレアさんですから。』
―『姉がいたらこんな感じなのかなって思っていたわ。』
―『僕たちにとってクレアさんとルギウスは兄姉なんです。一緒にも住んでますし。』
―『ねっ、だからクレア。』
そうだ。
この子達は・・・。
種族の違いを超えてくる子達だ。
今までの種族の在り方を変えようとしている。
血の繋がりさえも超えてしまうこともできてしまうのかもしれない。
私はジュリアの姉。
ならルーカスくんに言うことは一つね。
―『クレア「おばさん」よ。』
スザクさんとジュリアは驚いた顔で私を見る。
ルーカスくんはジュリアの腕の中でスヤスヤ眠っている。
―『ク、クレア!』
―『あらジュリア。何かおかしなこと言ったかしら。』
―『お、お、おばさんって・・・。』
―『ルーカスくんから見たら何も間違ってないわ。』
そう。何も間違ってない。
もしかしたら「おばさん」って言うのは、ネガティブなイメージがあるかもしれない。
でも私にとっては「肩書き」だ。
ジュリアの姉ということを、家族だということを示す「肩書き」なのだ。
―『ルーカスくん。』
もう一度、私は言った。
―『クレアおばさんよ。よろしくね!』
-----------------------------------
一度は洗脳によって何もかもを失いかけた。
ルギウスも仲間も四天王の誇りも・・・。
けれど自分とは違う種族であるジュリア達と出会って変わった。
ルギウスも大切な仲間も取り戻した。
信じる心も取り戻した。
私を変えた彼らは常識をも変えようとしている。
すべての種族が共存できるようにしている。
魔族と人族は争う。そんな常識を変えている。
そして私にも家族ができた。
彼らの家族に『なれた』というのが正しいのかな・・・。
隣で眠っているルギウスを見る。
当たり前でいつもの光景。
けれどそれが突然当たり前じゃなくなることだってある。
・・・私は『洗脳』によって当たり前が崩れ去っていった。
そのことを思い出させるために、女神の塔でのことを夢で見たのだろうか。
『当たり前』というのは、儚いものであると・・・。
だから大切にするの。
家族と仲間と一緒に過ごせる、当たり前の光景を。
この光景がずっと続いてほしい、と心の底から願いながら・・・。
女神の塔で見せられた幻の話ではないので、この話を入れるか迷いました。
ただクレアの後日談として、この話をここで入れるのがベストだと思いました。
改めて振り替えるとクレアさんもなかなかに不幸な立ち位置ですね・・・。
次の話はティア視点となります。




