信じる心
引き続きクレア視点です。
『あやつらも魔族に本当に心を開いているのかのう?』
ティア、シオン、ジュリア・・・。
『魔族の四天王だから怒らせないために愛想よくしているのかもな。』
「ち、ちがっ。」
『言葉に詰まっておるぞ。』
「うるさい!!!」
思わず大声を出した。
『おー、凄い迫力じゃの。そうやってあやつらも無理やり従わせたのか。』
「違う!」
違う。彼女達は・・・。
彼女達は私を『四天王』ではなく『クレア』として見てくれた。
私が目覚めたあの時も・・・。
―『私はルギウスと元に戻りたいの。どうしたらいいのかしら・・・。』
私は彼女達にそう言った。
心の支えであるルギウスとの関係を一刻も早く取り戻したい。
彼も傷ついているはずなのに、そんな身勝手な思いを私は抱いていた。
そんな身勝手の思いを改めさせてくれたのが、他でもない彼女達だ。
―『クレア。傷ついたのは洗脳にかけられた人だけじゃないの。家族、故郷の人たち、そして、大切な人・・・』
―『私たちが『許されたい』と思って距離を無理に縮めようとしてはダメです。だから絶対に焦っちゃいけないの。』
相手も傷ついている。
そんな当たり前のことに気づかなかった。
それなのに身勝手な思いをルギウスに押し付けようとした。
自分のことしか考えてないということを、私よりも生きている年数も短い人族の子に教えてもらった。
―『・・・焦ってしまった結果が私ね。』
―『そんな顔しないでジュリア。あなたは悪くないわ。悪いのは私』
―『・・・それでも過去を乗り越えられたのは、ジュリア達と出会ったからよ。彼女たちには支えてもらったわ。大切な仲間に・・・。』
―『そうです。クレアも乗り越えられるように私たちが支えます。エレンさんたちにそうしてもらったように・・・』
ジュリアもシオンも仲間を魔王に洗脳されたはずなのに・・・彼女たちも傷ついているはずなのに・・・。
私を励ましてくれた。
それに私が魔族でその四天王だったことをわかっているにも関わらず、自分の意見を言ってくれた。
―私たちと同じ過ちをしないで。
ジュリアとシオンの目はそんな目をしていた。
私の考えを改めさせてくれた。
そして魔王の間での記憶もある。
ルギウスが戦っているという状況で取り乱して、自分の命を自らの手で終わらせようと愚かなことをした私を止めてくれた。
―この子達なら信じてもいいかも。
仲間を信じるということを思い出させてくれた。心の取り戻してくれた。
「・・・魔族だろうと人間だろうと関係ない。」
『何じゃと。』
「同じ魔族が私を裏切る。けれど人間が私を救ってくれることもある。」
良い悪いに種族は関係ない。
同族の魔族が私を裏切ることだってある。
けれど異種族の人間が私を救ってくれることだってある。
「だから私は『今の』仲間を信じるの。」
自分が行動を起こすことでルギウスの足を引っ張ることがあるかもしれない。
けれど失敗を恐れていたら何も行動できない。
「その仲間のために・・・私は行動するわ!」
私を救ってくれた仲間が同じように幻想に苦しんでいるかもしれない。
私は現実世界の情報が入ってきたから幻想を見ていることに気づけた。
もしかしたら幻想を見せられているということにすら気づいてないかもしれない。
あの時は彼女達が私を救ってくれた。
今度は私が彼女達を救ってみせる。
「さっさとここから解放しなさい。」
殺気を高める。
「じゃないと本気で殺しにいくわよ。」
ルギウスのような精度の良い気配察知はできないけれど・・・。
幻想から解放しないのであれば、見つけ出してでも倒す。
・・・という意志を言葉と殺気で伝えた。
『・・・合格じゃ。』
「えっ?」
『声』が何かを言った瞬間に、私の目の前がまぶしく真っ白になった。
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「・・・ここは。」
変わった雰囲気の部屋に戻ってきていた。
この部屋に入って私は幻想を見せられた。そしてその幻想から解放されたのだ。
「ティア、シオン、ジュリア。」
私の仲間達は・・・。
ピクリとも動かず立っている。
「ティア、ティア。」
彼女を揺さぶっても何も反応がない。
「そ、そんな。」
ティアは私と同じ位・・・もしかしたら私よりも強い。
私が幻想を振り払うことができたように、彼女も振り払うことができると思っていた。
けれど私が揺さぶっても全く反応がない。
現実の世界からの情報や刺激を与えれば幻想から戻ってくるはず・・・。
私が女神の塔の『声』を聞いて・・・幻想だと気づいたように。
「シオン、ジュリア。」
・・・反応はない。
幻想から覚めることができてない。
一生幻想から解放されない。
信じようと思った仲間が、私の心を取り戻してくれた仲間が・・・。
一生目覚めない。
そんな不安が私の心を支配する。
「私の前に姿を現しなさい!!」
私は『声』に向かって叫ぶ。
けれど空しく響くだけ・・・。
あの『声』は反応すらもしない。
「し、信じるのよ・・・」
この幻想というのは、女神の塔から与えられたの試練なのだろう。
試練は自らが乗り越えるべきことだ。
私の仲間は必ず自分の力で乗り越えてくれる。
こんな幻想に負けるはずがない。
「信じるの。」
私は自分自身に言い聞かせる。
大丈夫。
私が信じた仲間ですもの。
「信じるの・・・。」
しばらくしてティアが幻想から解放されるのだが、それまでの時間は今までの何よりも長く感じる時間だった。