肩書き
クレアとティアが女神の塔で見た幻想についての話です。
※4章の71話辺りです。
まずはクレア視点の話です。
私は最強魔族ルギウスの妻。
そして四天王の一人。
私が持つ『肩書き』はきっと誰もが羨むものだろう。
けれど私は・・・。
大切な仲間に裏切られた。
信じていた仲間。
そして彼の大切な日に。
私の存在がルギウスの足を引っ張っている。
王の座を捨てたのも、魔王の間で彼が魔王に負けたのも。
私は彼の妻として彼の支えにならないといけないのに・・・。
・・・そしてそのルギウスを洗脳によって裏切ったこともある。
勇者という人類の希望が、私の唯一の心の支えを壊した。
―『俺の女になれ』
卑劣な笑みを浮かべてあの男は言った。
やめて!
助けて、ルギウス。
助けて、みんな。
・・・みんな?
仲間に裏切られた私にとっての「みんな」って何?
仲間に裏切られた私にとっての「みんな」って誰?
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―『カレン、ジェシカ、アリサ。どういうこと・・・。』
―『クレア様、いやクレア。新たな魔王様のために大人しくしてね。』
―『あなたを痛みつければ、ルギウスはここにくるでしょ。』
―『戦いの場に訪れなかったら、王はあの方よ。』
なんで?なんで?なんで?
この状況を理解できなかった。
私は大切な仲間たちに裏切られた。
そして冷静じゃなかった。
私を慕ってくれていた仲間。
困難を一緒に乗り越えた仲間。
たくさんの思い出がある仲間が私のことを裏切るなんて・・・。
・・・冷静じゃない私は感情を制御できず『暴走』してしまった。
気づいたら目の前にルギウスがいた。
―『ごめんなさい・・・私のせいで・・・』
―『俺はクレアがいればそれでいい。お前に比べれば王の座なんてゴミみたいなものだ。』
彼にとって王の座よりも私の方が大切だと言われて凄く嬉しかった。
凄く幸せだと思った。
だがそんなことを彼に言わせてしまう状況を作ってしまったことに情けなさも覚えた。
仲間に裏切られても私にはルギウスがいる。
愛する人がいる。
家族や仲間がいなくても彼がいる。
彼がいるなら、何もいらない。
例え彼の子を身籠ることができなくたって・・・。
・・・けれどそれも勇者によって壊された。
勇者に洗脳された私はルギウスを裏切った。
洗脳から解かれた後も・・・。
―『いやああああ私はああああああ』
―『なっ、クレア!?』
私の唯一の心の支えのルギウスを裏切ったこと。
ルギウス以外の男に身体を許したこと。
私はカレン、ジェシカ、アリサに裏切られた。
そしてルギウスを裏切った。
魔族も人間も何も信じられなかった。
それなのに私が信じられるルギウスを裏切った。
自分の心の支えを裏切った。
・・・もう生きている意味は無いと思った。
私の叫び声に気を取られたルギウスは魔王のふいうちを受けた。
その影響で彼はまた魔王に敗北した。『一度目』と同じく私という存在のせいで・・・。
『ふふふ。よく自覚しているのう。』
・・・あの『声』が聞こえる。
私を煽っているようだ。
そうだ。ここは女神の塔。
変わった雰囲気の部屋に入ったと思ったら、いつの間に・・・。
・・・思い出したくもない幻想を見せられていたのね。
卑怯な手段を取るじゃない。
「・・・せっかく幻想を見せて戦わず心を折ろうとしたのだろうけど。」
『声』を聞いたことで、今の状況を思い出させてくれた。
仮にも私は元四天王。
現実の情報が入ってくれば、幻想を振り払って現実に戻ることができる。
私を煽ろうとして声を出したことで、今の状況を思い出させてくれた。
「『声』を出したのが敗因よ。さあ正々堂々と私の前に姿を現しなさい。」
・・・正直あのまま幻想を見せられたら、心が折れていたかもしれない。
煽って私の心を折ろうとしたのだろう。
本当に悪趣味な性格をしている。
けれど『声』の主の性格がそれで良かった。
しかし『声』は私を無視して言った。
『四天王で華麗で美しくそして強い。けれど恐れている。』
・・・は?
私が何に恐れているですって?
『仲間を信じることが。』
『愛する人に迷惑をかけることが。』
畳みかけるように『声』は言葉を投げつけてくる。
・・・うるさい。
『あやつらも魔族であるお前に本当に心を開いているのかのう?』