決意
2章の「25:決意」のマリア視点のお話です。
―『ふふふ。本当に応援できるの?』
私の中の私が笑った。
私はその声をかき消すように・・・。
「ジュリアってあのスザクさんの恋人なのですか?」
と驚いたように大きな声を出した。
少しはしたないですわね・・・。
「い、今は違いますけど・・・。」
ジュリアはもごもごと答えた。
「けどお互いが成長して、また会おうだなんて素敵、ロマンチックですね。」
羨ましい。
ジュリアがただ羨ましかった。
私もカムイくんとそうなる未来があったのかな・・・。
「私、スザクさんと最近お話して・・・。」
あっ、好意を持った・・・。
なんて言えないわね。
「・・・すっかりファンになってしましましたわ。」
「ファ、ファン!?」
ジュリアは、バンッと立ち上がる。
焦ったようにあわあわ動く口。
きっとちょっと嫉妬しているのだろう。
そんなジュリアが可愛らしくて・・・。
「・・・大丈夫ですよジュリア。『ファン』ですから」
ファン。
わたしは魔法剣士スザクさんのファン。
「・・・・」
ジュリアは顔を真っ赤にして、ゆっくりと座った。
「へえ。でもどうやってスザクと会ったんだ?」
エレンさんが私に聞いた。
「それはですね。エレンさんとシオンがモック村に向かった後に、スザクさんがアンデッドドラゴンの討伐を成功させて帰ってきました。」
「アンデッドドラゴンの討伐か・・・本当にすごいな。」
「けれど、彼はアンデッドドラゴンの呪いに侵されていた。その呪いを解くために神父様のところに足を運んだのですが・・・。神父様でもなかなか解くことができない呪いでした。」
ジュリアが呪いと聞いて、顔を一気に青くして、心配している。
「その時、私も呪いを解くのに協力しましたの。」
「良かった。ありがとうございます。」
パッと顔を輝かせて、ジュリアは私にお礼を言った。
「いえいえ、それで解呪後に少しお話させていただいて・・・」
―『好きになってしまいました。』
こんなことを言うわけにはいかない。
ジュリアはスザクさんを追うために故郷から勇気を出して、ここに来た。
スザクさんも彼女と向き合う強さを得るために、ここに来た。
離れてもお互いを信じて、お互いが成長して、別の場所に居ても、同じ方向に向かっている。
・・・そんな二人に私が入り込む隙間なんてない。
「ファンになってしまいました。」
ファン。
そう。私は彼のファン。
・・・別に想ってなんかいない。
あくまでファン。
彼の大ファン。
・・・そうやって想いを断ち切った。
可愛い仲間のジュリアの背中を押して応援するために・・・。
それが私の選択。
「そういえば・・・マリアさんは冒険者登録はされてないのですか?」
ジュリアが言った。
きっとスザクさんと同じような経緯で、疑問に思ったのだろう。
私はアンデッドドラゴンの呪いを解呪できるのだから。
そして仲間であるエレンさんとシオンが冒険者をやっているのに・・・。
ジュリアからしたら、私も『一緒に』冒険者をしていると思うが自然だ。
皆が沈黙した。
「ご、ごめんなさい。その、変なことを聞いてしまって」
ジュリアはその空気を察知して謝罪した。
「いいえ。大丈夫です。」
私はがジュリアの頭を撫でながら言った。
でも・・・。
「ジュリア、少し私の話を聞いてもらってもいいですか。」
私は言った。
ジュリアは首を縦に振った。
仲間である彼女達に私の思いを聞いてもらい、私は変わる。
「私が故郷に戻ったとき、恋人・・・いえ元恋人のカムイくんは既に別の人と結婚していたのです。」
私はあの男に二年の時を奪われていた。
彼が他の人と違う道を進んでいたっておかしくないけれど・・・。
「最初は本当にショックでした。洗脳してきたあの男を恨んだこともあった。でもね、どんなことをしてももう彼は戻らない。私は前を向くために、王都に来ました。」
既に水は別のお盆に注がれていた。
どうしようもなくて、私は無理やり前を向くためにここに来た。
いや、来るしかなかったんだなと私は思った。
「私は神父様のところを訪れました。そこで私に癒しのスキルがあることがわかって、そのままシスターとして歩き出すことにしましたの。しばらくして、エレンさんとシオンと再会しましたわ。」
「冒険者になり立てのころ、どこを拠点にしようかって迷っていた時にマリアが助けてくれたよな」
エレンさんが懐かしむように言った。
この屋敷を手に入れる前は、神父様のご厚意で教会の一室を借りていた。
「神父とマリアに助けられてな。狭い部屋で3人で寝たのは今となってはいい思い出だ。」
「神父様にはここにいてもいいよと言われたのですが、教会に全てをお世話になるのも申し訳なかったし、何より冒険者として頑張っているエレンさんとシオンの助けになればと思い、私もこの屋敷住むことにしましたわ。」
「私は一緒に冒険者やろうと誘ったんだが、フラれてしまってな・・・」
「エレンさんに誘っていただいて嬉しかった。でも私はあなた方の支えになりたいとか、冒険者には向いている性格じゃないとか『言い訳』を作って冒険者になるということから逃げてましたの・・・。」
「別に逃げたとか思ってないぞ・・・」
エレンさんは私の肩に手を置いて言った。
その手の暖かさに、思わず甘えたくなってしまう。
けれど違う。
私は前を向いて逃げている。
「いいえ。私は前を向くために王都にきたと思っていました。でもカムイくんから目を背けて王都に逃げてきただけなのです。」
カムイくんが私とのことを切り替えて、しっかり前を向いていたこと。
彼は大きな街で宿をやることを夢見ていたっけ。
私もその妻として・・・なんて無意味な『妄想』ね。
「前を向くためと『言い訳』をして王都に逃げてきたんです。・・・そして冒険者のこともそうです。」
私は遠くを見て言った。
「ですがスザクさんとお話して、そしてジュリアとスザクさんの関係を知って・・・。私は変わろうと決意しました。」
―『僕の心が弱いから、大切な人を傷つけてしまっている。』
―『大切な人は共に成長する存在でありたいと言ってくれた』
―『なので僕は自分の心を強くするためにここにいます』
「スザクさんの仰られていた『大切な人』はジュリアなのですね。」
ズキン。
スザクさんの大切な人は、私の大切な仲間のジュリア。
その事実に耐えるように私は目を瞑った。
「あの悪魔のような勇者によって未来が壊されても、スザクさん、そしてジュリアはそれを取り戻すために前を向いていた。私は前を向いたのではなく、逃げていたことに気づかされたんです。でも・・・。」
私は『逃げること』が悪い行動だとは決して思わない。
次の道へ進むために必要な場合もあるだろう。
でも私がやっているのは、前を向いて『進んでいる』のではなく、ただ前を向いてただただ『逃げていた』ことに気づいた。
・・・かき消したはずの私自身が畳みかける。
―『あの男に淡い想いを抱いているじゃない。』
―『いつも教会で楽しそうにお話ししてるじゃない。チャンスよ。』
―『女としてのプロポーションはジュリアよりも私の方が上よ。』
―『それに今は恋人同士でもないわ。』
―『アプローチしたって問題ないわ。』
・・・煩いな。
けれどこれも私自身。
魔族のような姿で、たびたび私に語り掛けてくる。
これは私が作り出してしまった私自身そのもの。
けれど私はそれと向き合わず、私の似ている『魔族』として別の存在として扱っていた。
私の中の存在なのだから、私以外の何者でもないのに・・・。
この『魔族』のような私が思っていたことは、私自身も思っていたことだ。
―現実から目を背けることを「前を見る」と都合よく思っていたことも・・・。
―嫌なことから目をそらして逃げて、それを「前を見る」と都合よく思っていたことも・・・。
―そしてジュリアに嫉妬心を抱いたことも・・・。
このような醜い思いと自分を切り離したくて、別の存在として扱った。
自分にとって都合の悪い思いを切り離して、綺麗な自分でいようとした。
そんな卑怯な自分から・・・。
色々なことから、いままで逃げてきた自分から・・・。
「変わるのです。」
そう。
私だってジュリアとスザクさんのように・・・。
この仲間達と一緒に成長する。
「エレンさん、私も『冒険者として』あなた方の助けになります。パーティに加えてください。」
私は決意を言葉に込めて、力強く言った。
マリアの番外編は終わりです。
今後もこのようにジュリア以外のキャラクターの視点での話や、本編では書ききれなかった部分等を番外編として書く予定です。




