成長
あれから彼はギルドの依頼を達成すると、私のところに訪れて、お話をしてくれた。
彼にとっては、傷を癒しに来るついでなのかもしれないけども・・・。
どのような冒険をしたのか。
どのような人達と出会ったのか。
どのような魔物を倒したのか。
彼の話を聞くと、まるで自分の世界が広がるようで・・・。
スザクさんのお話を聞くことは、いつの間にか私の楽しみになっていた。
そして憧れを抱くようになっていた。
「それではマリアさん。また。」
今日もスザクさんとお話した。
なんと海沿いの大きな島でエイシェントドラゴンを5匹も1人で倒したそうだ。
エイシェントドラゴンが潜んでいたその島は、ドラゴン以外何もいなかったとか・・・。
「それを一人で倒してしまうなんて凄いですわ・・・。」
彼が教会から去った後、思わず私は呟いた。
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教会での一日が終わり、私は屋敷に帰ってきていた。
今日はギルドの依頼で遠出していたエレンさんとシオンがこの街に戻ってくる予定だ。
彼女達の疲れが少しでも癒えるように、美味しいご飯を準備しようとエプロンを紐をしっかり締めた瞬間・・・。
「ただいま。マリアー」
シオンの元気な声が響いた。
「おかえりなさい。エレンさん、シオン」
そこには「3人」いた。
いつもの2人に加えて、そこにいたもう1人は・・・。
「あら、ジュリア。久しぶりですね。」
「マリアさん。」
ジュリアだった。
可愛らしい見た目は変わっていない。
でもなんでエレンさんたちと・・・。
もしかして彼女も私たちと同じように大切な人と『上手く』行かなくて・・・。
「さて私はご飯の準備でもしますわ。エレンさんたちはお疲れでしょうからゆっくりしてください。」
ジュリアに何があったのか。
でも今聞くときではない。
今はゆっくり身体を休めてもらうべきだ。
「ありがとう、マリア」
エレンさんが言った。
「ご飯の準備ができたらお呼びしますわ。」
ジュリアは一体、何があったの?
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「うわあ、凄く美味しそう。」
目を輝かせてジュリアはそう言った。
その表情を見ると元気そうで安心するのだが・・・。
ここにいるということは、きっと故郷の恋人さんとは上手く行かなかったということ。
「「「いただきます。」」」
3人はそう言ってご飯を食べ始めた。
「そういえばジュリアはどうしてエレンさんたちと?」
「ああそれはな・・・。」
私の問いにはエレンさんが答えた。
エレンさんとシオンは二人でモック村の素材採取の依頼に向かった。
そのモック村はジュリアの故郷で、再会したらしい。
「モック村といえば、氷の魔術師がいるとか・・・。」
なんでも男を三人も凍らせたとか・・・。
無表情で慈悲もないとの噂だ。
「あの・・・。」
ジュリアはゆっくりは手を上げた。
「マリアさん。それ、私なんです。」
「えっ?」
ジュリアによると、口説かれたり、まな板って言われたから氷漬けにしたらしい。
「ふふ。」
「マ、マリアさん。」
「あっ、ごめんなさい。」
あの可愛いジュリアが、屈強な冒険者の男に対して氷漬けにするなんて。
「可愛い妹が屈強な男を氷漬けにするなんて・・・。妹が逞しく成長したようで何だが嬉しいわ。」
「マリアさんー。」
ジュリアは恥ずかしそうに顔を手で覆った。
成長・・・。
私も王都に来て、なにか成長できたかな。
「それでジュリアは助っ人として、私たちと一緒にモック村の森に入ったんだが・・・。」
エレンさんは話を続ける。
森の中で『ポイズンバタフライ』という強力な魔物と対峙したらしい。
3人で力を合わせて乗り切ったとのことだった。
ジュリアの勇気のある選択が、ポイズンバタフライを倒す切り札になったらしい。
「ジュリア凄いですわ。高いレベルで魔法を使えるなんて。」
「あ、ありがとうございます。」
「ふふふ、それはそうよねー。」
「あの『魔法剣士』くんと、お互いに成長しようって言って別れたんだものね。」
「シ、シオンさん。」
からかうように言うシオンに対して、ジュリアはポカポカをシオンを叩く。
「ま、まほう・・・剣士?」
まさか『彼』のこと?
「ああ、あの噂のスザクのことだ。」
エレンさんが言った。
色々な感情が駆け巡った。
ジュリアとスザクさんが知り合い?
いやまさか・・・。
もしかして恋人同士だった?
「勇者の洗脳で壊された関係を取り戻すために・・・。」
お二人も洗脳の被害者だった。
ということは元恋人同士なのね・・・。
「スザクは向き合う強さを得るために、ジュリアは同じ土俵に立つために努力していたそうだ。」
離れ離れになっても、お互いが成長しようと約束している。
羨ましい。
「だから私は『近くで成長しないか?』と妹の背中を押すように、ジュリアをここに連れてきたよ。」
エレンさんが連れてきたのは、大切な仲間と冒険したい、そして魔術師としての戦力もあるだろう。
それ以上にきっと洗脳を乗り越えようと彼女に対して、背中を押したかった。
っていうのが一番だと思った。
私もジュリアを応援しないと・・・。
―『ふふふ。本当に応援できるの?』
私の中の私が笑った。




