大切な人
―『これからよろしくお願いします。』
―『よ、よろしくお願いします。』
彼が安静にする少しの時間話をするだけなのに・・・。
私たちはまるでこれからお見合いをするような、硬い挨拶をした。
だから、あまり会話も進まない・・・。
ということはなかった。
「スザクさんって、あの噂の剣に魔力を纏わす『魔法剣士』なのですか?」
「は、はい。」
彼は照れた顔で返事をした。
年齢も近いからかかなり会話は弾んだ。
スザクさんの冒険者としての話、私は故郷から旅に出てここでシスターをしている話・・・。
もちろん『勇者』に関する話はしてないけども。
あの男の話をしたって何も面白くないし、知らなくて良いことだってある。
それに国からは『他言無用』ということで補償もして貰った。
わざわざ話す必要なんてない。
スザクさんは最近名をあげている、あの『魔法剣士』なんだとか。
剣士というイメージが先行して、もっとカッコよくて、逞しい人だと思っていたけど・・・。
なんというか「弟」みたいな人だとは思わなかった。
「凄い、凄いです。」
「ありがとうございます。」
きっとものすごく努力をされたんだろうなー。
「けれどマリアさんも故郷を離れて、この教会で癒し魔法で人々を癒していて凄いです。」
「えっ!」
凄い?この私が。
「凄いです。街の人が噂している優しい癒し魔法の使い手は、マリアさんのことだったんですね。」
驚く私をよそに、純粋な目で私を見つめながらスザクさんは言った。
―『現実から目を背けてる私が「凄い」なんて笑えるわ。』
また私の中の私が言葉を投げつけてくる。
「マリアさんが冒険者として一緒に来てくれたら、あの癒し魔法で傷を癒してもらえるのかあ・・・。
・・・って僕は初対面の女性になに言ってるだろ。」
―『あなたは逃げ続けているだけ。』
スザクさんが私にとって凄く嬉しいことを言っていた気がする。
けれど私の中の言葉が、彼の言葉に耳を傾けさせてくれない。
「マリアさん?」
私の様子に疑問を抱いた彼は私の顔を覗き込む。
スザクさんの顔を見て私はハッとする。
「すいません、いきなり初対面の男から冒険者として一緒に来い。なんて言われたら困りますよね・・・。」
私の中の私の言葉に気を取られていたせいで、彼を無視してしまっていた。
無視されたと思った彼は悲しい目をして言った。
「い、いえ、そんなことはないです。」
彼が私を冒険者として必要としてしてくれることに喜びを感じていた。
でも私は・・・。
「わ、私なんか、冒険者としては無理ですわ。」
正直私は冒険者に向いてない。
きっと彼と一緒に来ても足を引っ張るだけ。
―『あなたは嫌なことから逃げて前を向いていると思い込んでいるだけ。』
私の中の私が言った。
そうね、その通りよ。
きっとこの癒しの魔法があれば、エレンさんたちの助けになると思う。
けれど私は逃げている。
シスターとして前を向いたから、と言い訳して。
戦闘に向いてない『性格』だ、と言い訳して。
そして夢で見た私に似た魔物が怖いから、と言い訳して。
―『前を向いて現実から逃げるのね。クスクス』
私の中の私に反論できないでいると。
「そんなことないですよ。マリアさん。」
彼の優しい声が、私の中の私の声をかき消した。
「マリアさんはアンデッドドラゴンの呪いを解いた。自信を持ってください。」
笑顔で彼は言った。
「そしてマリアさんの魔法から感じる優しさは、マリアさんの人としての『優しさ』なんだと思います。」
胸の中で暖かなものが広がった。
それはカムイくんと初めて出会ったときの暖かさと似ていた。
もっと彼のことを知りたい・・・。
「・・・スザクさんは。」
「はい?」
「何故冒険者になったのですか?」
私は気になった。
スザクさんは私よりも少し年下。
そして顔立ちだけ見たら普通の男性。
でも『魔法剣士』として名を上げている。
噂によると、あのギルド副マスターのティアさんよりも実力が上だとか・・・。
「どうしてですか、スザクさん。」
彼の顔が一瞬歪んだ・・・気がした。
「・・・それは僕の心が弱いからです。」
「えっ!?」
まさかの答えだった。
心が弱い?
どういうことなのかしら・・・。
「僕の心が弱いから、故郷の大切な人を傷つけてしまっている。」
ズキン。
彼は自分の心が弱いから大切な傷つけていると言った。
それよりも彼に『大切な人』いることに、私の心がズキリと言った。
「大切な人は共に成長する存在でありたいと言ってくれた。なので僕は自分の心を強くするためにここにいます。」
正直私は思った。
冒険者として名を上げたから、心って強くなるのかなと・・・。
けれど、その大切な人と離れ離れになっていても、きっとお互いが一緒に成長しようとしている。
きっと一緒の方向を向いている。
・・・それが凄く羨ましい。
私はカムイくんと離れ離れになっている。
けれど一緒に成長ではなく、別々に成長するしかない。
・・・そう、別々の道で。
「って重いですよね。すいません、変な話をしてしまって・・・。」
「い、いえ私の方が変な質問しましたので・・・。ごめんなさい。」
「そんな、マリアさんは悪くありません。」
「そんなことは・・・。」
沈黙が流れる。
そういえば『男性』とこうやって話すのって久しぶりかも・・・。
「ふふ。」
「マ、マリアさん。」
突然吹き出してしまったからだろうか。
スザクさんが私の顔を覗き込む。
「いえ、こうやって男性と楽しく話すのって久しぶりだなと思いまして。」
あの男に洗脳されて、そして解放されてから私は男性から一線引いて関わるようにしていた。
あの男も最初は紳士的にふるまってきた。
けれど洗脳し、飽きたら捨てて、そして私の時間とカムイくんを奪った悪魔だった。
男性全員がそうでないことはわかっている。
でも男性と関わることに、どこか恐怖を感じていた。
「スザクさん。」
けれど彼と話してその恐怖が和らいだ。
「また私とお話してくれますか?」
そんな私の問いに対して・・・。
「もちろんです。」
可愛らしい笑顔で返してくれた。