彼との出会い
番外編
時系列としては2章の前半。
マリアのお話です。
スザクとの出会い、アンデッドドラゴンの呪いを解いた話、そして決意を固めてエレンパーティに加わるまでの話です。
私はシオンとルクの街で別れて、自分の故郷へと向かった。
けれど故郷に待っていたものは・・・。
既に前を向いていたカムイくんの姿。
彼の瞳にもう私は映っていない。
―『マリア。無事でよかった。』
―『もしよかったら、この後・・・』
都合の良い妄想をあの馬車の中でしていた。
そうしてもしかしたら元に戻れるかもしれないと、今思えば愚かなことを想っていた。
―『今さらなんだよ。』
―『僕を捨てた癖に』
そうやって罵られることもあると思った。
けれど現実は・・・。
―『マリア、おかえり』
それ以上に彼は何も言わず、そして隣の女性の元へ行った。
無関係。
彼は私に関わってもくれない。
これが現実なんだろう。
元に戻るとか、罵られるとか、そんなのは幻想なんだ。
そんな現実に直面しても、私は前を向くことを決意した。
前を向くために王都に行った。
―『それは前を向いたって言えるの?』
誰かが私に声をかける。
―『あなたは現実から逃げただけ。』
な、なにを言っているの?
カムイくんも、洗脳された私に裏切られても前を向いて幸せを掴んだ。
わたしだって彼を見習って・・・。
―『現実から目を背けることを「前を見る」と思っているだけ。』
うるさい。
うるさいうるさいうるさい。
あなたは誰なの?
―『私?それは一番あなたがよくわかっているはずよ。』
えっ、それって・・・。
トントン
私の肩が叩かれた。
私は振り返る。
―『こんにちは、私。』
そこには女の魔族がいた。
けれど私の面影がある。
この姿が私だと言うの?
「いやああああああ。」
私は悲鳴を上げた。
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屋敷の一室。
エレンさんとシオンがギルドのとある依頼を達成して、その報酬として得た屋敷。
元々私は教会の一室で過ごしていたが、いつまでも神父様に甘えるわけにもいかない。
そこで冒険者としてエレンさんとシオンの助けになるために、私もこの屋敷に住むことにした。
最悪の目覚めだ。
また変な夢を見てしまった。
故郷から旅立って、私は神父様の元へと尋ねた。
―『もしも『元に戻れなかった』ら、私たちが新たな人生を歩めるように最大限協力することを約束します。』
その言葉の通り神父様は、新たな人生を歩めるように最大限協力してくれた。
スキル鑑定をしてもらい、私は癒しのスキルがあることがわかった。
そのスキルを活かして、私は教会のシスター兼治癒師として生活している。
今日は・・・私だけ。
エレンさんとシオンはギルドの依頼で遠方に出向いていると聞いていた。
「さて、今日も一日頑張りますわ。」
変な夢を見たけども、それはただの夢。
その夢を忘れるように、私は私自身に喝を入れて、屋敷から教会に向かった。
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いつも通り私は教会で働いていた。
冒険者さんたちの傷の手当。
呪いや毒、痺れを癒し魔法で治す。
礼拝への出席する方々の対応。
魔族に対する不安を覚える方々への、神父様の言葉。
それを聞いて不安が和らぐ出席者の人々・・・。
そんないつも通りの日のはずだった。
ガチャ。
「す、すいません。」
剣士の男性が入ってきた。
トクン。
その姿を見て、心臓が高鳴った。
「アンデッドドラゴンの呪いにやられてしまって・・・。」
カムイくん?
いやでも彼は・・・。
「あのー。シスターさん?」
男性の声で私は正気に戻る。
よく見たら雰囲気はカムイくんに似ているけど、彼の方が少し幼い顔をしている。
似ているだけで心臓が高鳴ってしまうなんて・・・。
私は神に仕える身であるというのに・・・。
「はい、アンデッドドラゴンの呪い、えっ!?アンデッドドラゴン?」
「えっ!?」
それが私と彼の初めての出会いだった。
5話予定しています。