12:私は勇者に復讐したい
それからたくさんスザクとお話をした。
それは勇者によって壊された、そして失った時間を取り戻すように・・・
私たちは語り合った。
気付いたら、夜も更けていた。
「ったく母さん、どこ行ったんだよ・・・。」
おばさんは本当にどこ行ったんだろう。
「そろそろ私も帰るね。」
名残おしいけど、帰らないとね。
「送って・・・いくよ」
「えっ、いいよ。ほんのすぐの距離だし・・・」
「そ、そうだよね」
ちょっとした距離でもスザクと一緒に歩きたい。
けれど彼も仕事で疲れているだろうし、お話しに付き合ってくれただけ十分だ。
今日は失ってしまったかもしれないものをたくさん取り戻せた。
家族、故郷、そしてスザク。
・・・これ以上望むのは強欲かもしれない。
けれど少し欲張ってもいいですか?
「ジュリア、またね。」
「あのね。スザク」
息を吸って一番取り戻したいことを言葉にする。
「私と恋人関係に戻れませんか?」
**********
「あらージュリアちゃん、帰ってきたのねー」
「お、おばさん?」
おばさんがなぜか私の家にいる。
「ジュリアちゃん?・・・んーわたしもおうちに帰ろうかしら」
というとおばさんは「おじゃましましたー」と言って帰っていった。
「ちゃんとスザクくんとは話せたの?」
「うん、しっかり話せたよ」
笑顔で答える。
一番取り戻したいものは戻ってこなかった・・・。
それだけで涙が出そうになるけど、それは自分が欲張った結果。
お母さんたちに絶対に涙は見せない。
「・・・そう、それなら良かったわ。今日は疲れただろうから、もう寝なさい」
「うん、わかったわ。」
**********
何を間違えたんだろう。
勇者を出会ったから?
洗脳されたから?
魅了状態になったから?
私が強欲すぎたから?
布団で目をつぶるとスザクの言葉がよみがえる。
『・・・ごめんジュリア。それは考えさせてほしい』
『ジュリアと再会できてうれしかった。けどやっぱり僕はまだ弱いみたいだ』
『どうしても、勇者と愛し合っている君の顔が浮かぶんだ。そんな光景が見えるんだ・・・』
『僕が強かったら、そんなことに気にしないんだけど。僕が「弱い」せいなんだ、ごめんね』
『でも友達からまた始めれば・・・・』
トモダチ・・・?
どうして、どうして?
スザクは許してくれた。
でもなんで恋人に戻れないの?
私と勇者が彼に傷つけた心の傷の溝は深い。
私のせいだ。自業自得だ。
わかっている。そんなのわかっている。
勇者、ゆうしゃ、ユウシャ
ねえ、なんであいつはのうのうと生きているの?
なんであいつはなにも、うしなってないの
なんでいきているの?
『勇者と愛し合っている君の顔が浮かぶんだ』
ああそうか。
あいつが生きているせいだ。
勇者を消せば、スザクと私は結ばれるんだ。
―『エレンさんは、勇者が憎いですか?』
馬車の中でエレンさんにした質問を思い出す。
「憎い、憎い、憎い」
呪文のように呟く。
復讐したい、復讐したい。
私とスザクの絆を玩んで、飽きたらゴミのように捨てた。そして今は私とスザクの恋人として結ばれるはずの結び目で邪魔してくる。
復讐したい、復讐したい。
私は勇者に復讐したい。