エピローグ ~女神の独り言~
エピローグ2話目は、女神の塔の主様視点です。
「見事にやりおったのぅ・・・」
魔王がスザク達の手によって倒された。
「まさか本当に異種族同士が共闘して撃ち破るとは・・・。」
この者達・・・異種族同士で協力して女神の塔へきたこの者達に、世界を変えることができる可能性を感じた。
だから女神の『試練』もかなり厳しいものを与えた。
魔王と打ち破ることは、単純な強さだけでは叶わない。
強さだけなら、ルギウスが魔王となっていたはずじゃからだ。
単純な武力の強さならきっとあやつらなら勝てるだろう。
だが、生き物は複雑だ。
心という見えない、そして計ることができない不確定要素を持つ。
そしてそれが、武力で上回る相手に勝つ大きな要因になることもある。
スザク。
自己満足な努力を、自己満足と気づかない男。
確かにこやつは努力を怠らなかった。
だがそれで得た物は、強くなったということだけ。
彼女を取り戻すということに直接は繋がらない。
だから、わらわは気づかせた。
―『お前の努力とやらは、彼女のためと思い込んでいる自己満足の行動で、その努力が実ると思い込む現実逃避、じゃな。』
スザクは、剣士の命ともいえる剣を手放した。
じゃか彼は『出会い』に恵まれた。
剣を手放してもルギウスとラフェールに救われた。
レオンハルト、ティア、ルギウス、ラフェール・・・。出会いが彼を助けた。
良くも悪くも、まっすぐな性格がそうさせたのかもしれぬな。
魔王も勇者もこやつのような『仲間』がいたら、変わっていたのかもしれぬのぅ・・・。
ジュリア。
都合よく物事を考え、都合が悪くなると目をそらしてしまう女じゃ。
肝心な時に逃げる・・・もしかしたら魔王の配下となったエレン側についてしまうかもしれない。
だから彼女を肝心な時に逃げないで、それに向き合わせようとした。
彼女に見せた二つの幻。
スザクが英雄となり、ジュリアは妻となり、仲間とも一緒にいることができる幻。
彼女が取り戻したかったスザクが、別の人間と人生を歩むと決めた幻。
彼女にとっての最高の幻と、一番辛い幻を見せたが、乗り越えた。
自分にとっての最高の未来は、自分で手繰り寄せるということ。
そして一番辛い未来に直面したときに、切り替えることができるかということ。
わらわの見せた幻は、あったかもしれない未来とも言えるのかのう・・・。
シオン。
とにかく物事をできるだけ自分の『楽』な方向に無意識に持っていこうとする。
楽に許してもらおうとして、ラフェールとも元に戻ろうとした。
相手が傷ついているのも考えず、洗脳された事情で元に戻ろうと押し切ろうとした。
彼女の場合は、洗脳という理不尽なものに壊されてしまった。
理不尽なことで失ったものを取り戻したい気持ちはわからなくもないが・・・。
理不尽なことで彼女は苦労している。
でもかつての仲間や魔王に、もし「苦労が報われたの?」とか「もう楽になっていいのよ」と言われたときに、彼女も魔王の配下になってしまうのではと思った。
理不尽な目にあうことは生きていれば誰でもある。
・・・それを言い訳にしていたら、前へは進めない。
それを彼女は知らなければならなかった。
ラフェール
こやつはスザクと違って、目的をハッキリさせて努力をしていた。
勇者に力で負けて、シオンを取られた。
『二人に』復讐をするために、遠距離で攻撃する手段を磨いた。
過激ではあるが、目的はしっかりしている。
そしてシオンを失った乾きを潤すように、言い寄ってきた女を抱いた。
洗脳の事情を知った。
そして勇者と自分は、自らの欲望のために女を抱いたという意味で、同じだと思ってしまった。
勇者に力で勝てないこと。
そして洗脳の事情を知ったことで勇者と同じだと思ったこと。
勇者という存在に一番コンプレックスを持っていた男かもしれないのぅ・・・。
ティア。
金髪の美しく強い女冒険者。そしてギルドの副マスターという地位にいる。
スカウトしたスザクに想いを寄せる。
だがこやつの想い人は、自分の可愛い仲間・・・。
想い人が自分のことを見てくれない。
すると嫉妬心が生まれる。
さらに、魔界での失敗を後付けで自らの嫉妬心と紐付けていた。様々な失敗の要因があるにも関わらず、自己満足で一人で背負おうとした。
作戦の要員を集めた、魔族最強の四天王のルギウスと穏便に交渉したという点で十分な働きじゃったがのぅ・・・。
彼女の持つ嫉妬心を魔王に利用されてしまったら・・・。
魔王妃として、彼らに剣を向けていたかもしれない。
じゃから魔王にジュリアが洗脳される幻を見せた。
そこで見せる行動次第では、幻に閉じ込めることもあったがのぅ・・・。
クレア。
明るく優しく強く美しい魔族の女。
過去に魔王による洗脳で、仲間に裏切られた過去を持っている。
そして実力はあるが、肝心な時にルギウスの運命を変えてきたな。
洗脳という能力の一番の被害者かもしれぬな・・・。
彼女はティア達を信頼していた。
じゃか『また裏切られるかもしれない』という思いを抱えていた。
さらに自らの行動することを恐れた。
もし『一度目』の時に、魔王の洗脳の対策を配下達に施すことができていたら・・・。
もし、あの時、勇者に勝っていたら・・・。
もし、結局救えなかった『盾』を気にせずにクイーンモードを発動せず、『盾』ごとシュリを倒していたら・・・。
結果は裏目に出たかもしれない。
じゃか『行動』しなければ何も始まらない。
シュリの盾に屈して、フルバーストを撃たせてしまっていたら・・・。
ティア、クレアはエリーとシュリに敗北していた。
もしそうなっていたら、スザクとジュリアVS魔王、エリー、シュリという構図になってしまい、スザク達は敗北していただろう・・・。
それぞれが抱える心の課題に試練を与えた。
少々辛いものだったかもしれぬが、皆、乗り越えてくれた。
この者達は魔王に勝った。
そしてそれをゴールとしなかった。
新たなスタートとして、魔族との共存、国のあり方を変えていった。
もうこの『世界』は大丈夫かのう・・・。
この世界を創った神は、まるで自ら作った世界をおもちゃのように扱った。
ー『魔族と人間が争ったら面白いだろうなー』
ー『洗脳の能力を魔王に与えたら面白そうじゃね?』
ー『せいぜい神である俺を楽しませてくれよ。』
そいつは飽きたら、わらわにこの世界を押し付けた。
わらわはそいつが作った負の遺産を無くそうと、世界に干渉しようとした。
でもわらわはこの世界の創造神ではない。干渉できる範囲が限られていた。
女神の塔で試練を与えるという回りくどい方法を取った。
神であるわらわに変えられぬなら、この世界の者に変えてもらうしかなかった。
そして彼らは見事に変えた。
わらわも彼らを見習わないといけない。
創造神という立場を利用して、その世界の者を弄ぶそいつを許してはならない。
この者達が、種族のあり方や国のあり方を変えたように、神のあり方も変えないといけない。
女神としてわらわが蹴りをつけてこようぞ。
そいつと蹴りをつけたら、この世界の女神として・・・認めてもらえるかのぅ。
『魔王に勝つ』ということを、物語のゴールにすることは多いです。
ですが、それは新たなスタートであると思っています。
ゴールした後に彼らがどのようにスタートをしていくのか。
これを表現したくて、魔王を倒した後すぐにエピローグには行かず、10話ほど話を続けました。
少し長かったかもしれませんが・・・。
もしかしたら、スザクが魔王を倒してからすぐにエピローグにならないかよ。
ってもやもやしていた人もいたかもしれません・・・。
女神様の話をしますと、世界を作る神々にも色々な事情があるのかなと思い、エピローグで女神の塔の主視点を書きました。
創造神なら世界に介入して、洗脳の能力を消すということが一番手っ取り早い解決策ですが、他の神から引き継いた世界だと干渉できない。
だから神ではなく、世界の者に試練を与えて変えてもらう・・・。
色々な物語でも『試練』をクリアしたら、『力』を与えるというのは、そんな裏の事情があったりするのかなと想像してみました。
女神様視点の物語、世界を作る神々視点での長編小説があったら、面白いのかなと思ったり・・・。