エピローグ ~ギルドマスターの一人旅~
エピローグは3話あります。
1つ目の話は、ティア視点のお話です。
ギルドマスターとして、スザクが変えようとした「国のあり方」を変える忙しい日々を送っていた。
彼は恐らく一人でやろうとしていた。だが彼は戦う力、他種族とわかり合える優しさはある。
しかし一つの組織をまとめる力はない。そして彼は『純粋』すぎる。きっとスザクの優しさを利用する輩が現れる。
私は彼のように『純粋』な心の持ち主ではない。それどころか汚い心を持っている。
私はそんな輩には利用されない・・・。
だから私は「国のあり方」を変えることを、彼から引き取った。ドレークさんや神父、ワカバたちや冒険者、そして魔族の協力もあって順調に進んで行った。
この事に好意的な地域が多かったが、反対する地域もあった。
その地域の長と交渉したときに、私の身体を求められたこともあったが・・・。
以前の私だったら、相手を『返り討ち』にしてしまっていただろう。
今は相手を不快にしない程度に笑顔で躱して、どうにか『返り討ち』にはしていない。
『返り討ち』にしてしまっては、その時点で決裂してしまう。
・・・かといって身体を許すわけはない。
躱せるようになったのは、少しは私も大人にでもなったということだろうか。
反対する地域も、賛同する地域が増えていくと、案外それに流されてしまうものだ。
特に王都の次に大きいルクの街の賛同を得てくれたラフェールとシオンには、感謝しないといけないな。
だが何度も何度も身体を求められて、我慢の限界がきて『返り討ち』にしないか不安だった。
そして正直、交渉や話し合いのために、各地を回るのも大変だった。
そこで私はルギウスとクレアの映像を記録する水晶玉に注目した。
それと転移石の仕組みを組み合わせれば、映像を即時で転移させて、移動しなくても、各地域の長と話し合いができるのではないかと。
そして、各地の長や民から選定された代表者が一つの場所に集まらなくても、話し合いができるのでないかと。
ルギウスに話したら水晶玉を提供してくれ、モック村の村長さんや、魔法が得意な冒険者、そして魔族も協力してくれた。
今では私が思い描いた通りの使い方ができていて、移動する手間がなくなって、かなり円滑に物事が進むようになった。
そしていやらしい長が、私の身体に触れて、私の我慢の限界がきて『返り討ち』にしてしまうということもなくなった。
**********
ギルドマスターとして順調に物事を進めていたある日・・・。
エレンやマリアについて、彼女達の家族たちにどのように伝えるかを決めるために、皆で集まった。
―『2人で決めたい。』
と言うジュリアとシオン。
―『けれど二人だけに任せるのは・・・』
とスザクが渋る。
そんな彼に私は言った。
―『私とクレアも二人の話し合いに参加させてもらう。だがあくまで決めるのは二人で私たちは見守るだけだ。』
―『もし二人が間違った決断をしたと思ったら、私たちが責任を持って止める。』
―『だからスザクよ。二人に決めさせてあげよう。』
そう言うと彼は納得してくれた。
だが、私も何が正しいのかわからない。
正直不安だった。
彼女達は結論を出した。
真実と嘘を交えて、家族たちに伝えるという結論を・・・・。
私は彼女達の決断を後押しした。
いや、後押しする以外の方法がわからなかった。
するとクレアが言った。
―『ただ嘘を貫き通す覚悟はあるかしら?』
覚悟・・・。
私は彼女達の結論に対して『覚悟』を持って、後押しできたのだろうか?
彼女達はこう答えた。
―『はい、あります。』
彼女達は私たちに力強く言った。
それぞれ『覚悟』を持って、エレンとマリアの故郷へ、旅立って行った。
私とクレアは二人きりとなった。
―『ティアはわかっているんでしょう。』
―『他に伝えなければいけない人間がいることを・・・。』
クレアは言った。
―『ああわかっている。』
―『これは彼女達がやることじゃない。』
―『私がやるべきことだ。』
剣聖エリーと賢者シュリ。
・・・そして勇者が戦死したことをそれぞれの故郷に伝えること。
―『・・・一人で背負うのはあなたの贖罪かしら。』
クレアが言った。
―『そうだ。』
私は短く答えた。
―『そう。わかったわ。』
**********
私はまずエリーとシュリの故郷に真実を伝えに行った。
魔王との戦いで戦死した。
私はギルドマスターとしてその事実を淡々と伝えた。
敵としてなのか、味方としてなのかは決して言わずに・・・。
エリーとシュリの家族はとても悲しんだ。
それでも
―『教えてくれて、ありがとうございます。』
と両家族は同じことを言った。
知らないということは不幸だ。
だが知り過ぎるのも場合によっては不幸だ。
―『・・・知らなくても良いこともあるのよ。』
―『クレア?』
―『真実を知ることが必ずしも幸せなことじゃないの・・・』
あの時のクレアとの会話を思い出す。
きっと・・・これで良かったんだ。
そして私は今、あの男の故郷にいる。
「ここで最後か・・・。」
思ったより普通の街だ。
「まずは家族の情報を集めないとな。」
私は聞き込みして、情報を集めようとすると・・・。
「あっ、新しい女ギルドマスターだ。」
「凛々しいですわ。」
「胸でけえ。」
人がぞろぞろと寄ってきた。
これはチャンスだと思った私は、集まってきた人達に言った。
「この中に、勇者の家族のことを知っている者はいるか?」
**********
「あなたがギルドマスターのティアさんね。」
私は勇者の家族について知っている者に、勇者の実家に案内してもらった。
そして勇者の母が出迎えてくれた。
「ああ、勇者のことについて話がある。」
「フォース。あの子に何か・・・。」
フォース・・・。
あの勇者の名前だろうか。
いや、私は勇者の名前すら憶えてなかったのか・・・。
女を洗脳していたとはいえ、四天王を二人を倒し、各地で魔物の脅威から救っていた者の名を。
・・・そういえば故郷の人ですらも『勇者』で、フォースと言う名前を発言した人はいなかった。
「ああ、覚悟して聞いてほしい。」
「・・・」
私の言葉で何かを察したのだろう。勇者の母の表情が硬くなった。
「勇者は魔王との戦いの中で戦死した。」
なるべく感情を殺して、無機質な声で私は言った。
スザクとジュリアの話によると、魔王と一心同体になっていたらしい。
最後はその魔王にすらも捨てられて・・・。
ゾンビのような姿になって、ジュリアと戦って・・・。
最上級魔法を連発されて・・・。
跡形もなく亡くなった。
敵側だったり、ゾンビになったり、洗脳した女性にトドメを刺されたり・・・。
色々なことはあるが、『魔王との戦いの中で亡くなった』のは紛れもない事実だ。
私は嘘は言ってない。
「魔王・・・フォース・・・。」
母が悲しそうな声を出して涙を流した。
・・・私は嘘は言ってない。
この人の涙を見て、私は心の中で言い訳をしていた。
「フォース・・・頑張ったのね。」
家族は勇者がどのように王都で過ごしていたか知らない。
王族が洗脳の被害者に補償をしていたからだろうか。
それとも、それ以上に魔族から救っていた評判があったからだろうか。
思ったよりも勇者の悪評は広まってない。
むしろ勇者を称える声の方が大きかったと思う。
知らないということは不幸だ。
だが知り過ぎるのも場合によっては不幸だ。
「ティアさん。」
―『教えてくれて、ありがとうございます。』
・・・この人もエリーとシュリの家族と同じことを言った。
その言葉を聞いて、私は勇者の母に一礼して、勇者の家に背を向けた。
そして逃げるように家から離れようと歩き出したら・・・。
私の目の前に、私と同じ金色の髪の女が立っていた。
「勇者は・・・」
その女は私に尋ねてきた。
「勇者は魔王との戦いの中で戦死した。」
勇者の母に伝えたときと同じように、感情を殺して無機質に伝えた。
「そう。」
彼女はそう言うと、そそくさと勇者の家の隣の家に消えていった。
隣に住むと言うことは幼馴染ということなのだろうか?
「幼馴染の女からも『勇者』か・・・。」
きっとあの男も肩書でしか自分を見てもらえなかった。
私も「女冒険者」や「女冒険者の出世頭」や「女のギルド副マスター」とか肩書で見られていたこともあった。
けれど彼は違った。
私を肩書などでなく、ティアとして見てくれていた。
女の私にも剣術のアドバイスを求めてきた。
けれど決して「女」として見てくれなかった。
きっと「姉」とかそんな感覚だったのだろう。
もし勇者もスザクのような仲間がいたら、変わっていたのだろうか?
勇者ではなく、自分を自分として見てくれる人がいたら、変わっていたのだろうか?
けれどそれはもしもの話だ。
考えても無駄な『妄想』だ。
「・・・さて、ギルドに戻ろう。」
勇者の家族に真実は伝えなかった。
その『重荷』というのは、今後ずっと私が背負っていく。
間違ってもジュリアやシオンには背負わせない。
勇者という言葉すらも思い出させてはいけない。
それが私の贖罪。
クレア以外知らない、私の汚い心へのけじめ。
―『・・・知らなくても良いこともあるのよ。』
―『クレア?』
―『真実を知ることが必ずしも幸せなことじゃないの・・・』
暴走状態のクレアを止めた後の、あの時のクレアとの会話を、再び思い出していた。