112:命
5章最後の話です。
様々な種族の受け入れが進んでいた。
国のありかたも良い方向に変わってきた。
そんな、忙しい日々を送っていたある日・・・。
―『僕と結婚してください。』
スザクは私に言った。
本当に幸せだ。
彼と一生関わることができない、という未来だってあった・・・。
そんな未来だったら私は生きていたのだろうか?
あの頃の私は絶望して自ら死を選んでいたのかもしれない。
私を幸せにする最高の言葉。
この言葉を聞くために頑張ってきた。
でも臆病な私は、彼に聞いた。
―『本当に、私でいいの?』
洗脳されていたとはいえ、彼を傷つけた。
勇者に復讐する姿も見せてしまった。
それに・・・私以外にも彼を想う女性はたくさんいる。
―『正直失ったものが大きいし、他の女性に行くこともできたかもしれない。』
―『けれど洗脳と言う事情を知った僕は、君を見捨てることができなかった。』
―『とは言っても僕は逃げてしまったけどね。』
―『それでも君は僕を追ってきてくれた。』
―『そして・・・勇者にも復讐してくれた・・・。』
―『勇者に復讐して、やっと君を信用するような僕で本当にごめんね。』
スザクは、私があの時、勇者に最上級魔法を連発して、復讐した姿を見て安心したらしい。
そんなことは絶対に有り得ないけど、勇者を助ける。
ということをするかもしれないと思っていたらしい。
実は洗脳関係なしに『自分の意志』で勇者に着いて行ったのでは。
という疑念を抱いていたらしい。
でも無慈悲な私の姿を見て『洗脳されたから』勇者のところに行ってしまった。ということを確信したらしい。
―『良い部分も悪い部分も受け入れるのが、「夫婦」なんだと思うんだ。』
―『一緒にいたいから結婚するんじゃない。お互いが幸せになるために結婚をするんだ。』
―『僕は・・・ジュリアと幸せになりたい。』
都合の良い部分だけを見ていたらきっと成り立たない。
それしか見えない人は、都合の悪い部分が見えたときに、文句を言う。
「話が違う」「そんな人だと思わなかった」って・・・。
そうやって自分のパートナーに自分の理想を押し付けていく。
そんな関係では上手くいくはずがない。
私たちはお互いの良い部分はもちろん、悪い部分だって知っている。
スザクは勇者に嫉妬していて、私が復讐するところを見て安心していたこと。
私は勇者にやり過ぎと言われても仕方ないくらいの復讐をしていたこと。
お互いの悪い部分を見ても、私たちは一緒に居たいとお互いに思っている。
そしてお互いがお互いを幸せにしたいと思っている。
―『だからこれからも僕の隣に一生いてほしい。』
彼が真剣な眼差しで問いかけてくる。
もちろん私の返事は決まっている。
―『はい。』
この答え以外にあるのだろうか。
スザクと一緒に居たいから・・・。
魔法の修行だって頑張った、勇気を出してあの男が過ごしている王都にも向かった。
魔王討伐という大きなことを成し遂げれば、物語のようにその男女は結ばれるから・・・。
そんな都合のいい考えだけで、魔王がいる魔界にだって行った。
スザクの隣で戦いたい、彼の力になりたいから・・・。
女神の塔に行こうってみんなに提案した。女神の塔の試練だって乗り越えた。
洗脳されて、今までのことが壊されて・・・。
それを取り戻して、新たにスタートを切って・・・。
そしてやっとここまで来た。
「はい」という言葉以外、ありえない。
―『これからもよろしくね。ジュリア!』
私の返事を聞いたスザクは、小さいころから知っている笑顔で言った。
そして今・・・。
私のお腹の中には、スザクとの新たな命が宿っている。
―私は彼に命を惜しいと思ってほしい。
―強さのために命を捨てないでほしい。
―そして叶うことなら私と一緒に命を育んでいってほしい。
洗脳から解放されて、勇気を出して村に帰って、村長さんからスザクの話を聞いた時に願ったこと。
それが叶ったんだ。
「お腹、大きくなってきたね。」
スザクは私のお腹を優しく撫でながら言った。
「ジュリアは名前は考えているの?」
「ええ。」
私たちの子。
願いが叶うならば、水を零さずに生きてほしい。
でももしかしたら・・・。
私のように、いや、私以上に水を零すことがあるかもしれない。
そうなったとしても前向きに、生きてほしい。
そんな願いを込めて・・・。
「男の子だったら『ルーカス』、女の子だったら『エリア』よ。」
章終わりの登場人物紹介の後、エピローグです。