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111:嘘と真実

 忙しい日々を送っていたある日、仲間が皆、集まった。


 エレンさんとマリアさんについて、故郷の人にどう伝えるか考えるために・・・。




 これは私とシオンの二人が責任を持って決めるべきだと思った。

 スザクたちが参加したら、きっと甘えてしまう。

 私たちで決めるから大丈夫と彼らに伝えた。


 ―『けれど二人だけに任せるのは・・・』


 スザクは、私たちの言うことに首を縦に振らない。

 どうしようかと悩んでいたら・・・。


 ―『わかった。』


 とティアが言った。


 ―『私とクレアも二人の話し合いに参加させてもらう。だがあくまで決めるのは二人で私たちは見守るだけだ。』

 ―『もし二人が間違った決断をしたと思ったら、私たちが責任を持って止める。』

 ―『だからスザクよ。二人に決めさせてあげよう。』



 ティアがそう提案すると・・・。


 ―『わかりました。』


 と彼も納得してくれた。






「私たちはあくまで見守るという形だ。」

「自分たちでしっかりと決めるのよ。」


 ティアとクレアの二人に見守られながら、私とシオンは話し合いを始めた。




 真実を伝えるべきなのか。


 世界が平和になったけど、彼女達は実は魔王側だった・・・。

 真実を知ることが幸せだ。ということを言う人もいる。

 けれど本当にそうなのだろうか。この真実を知って幸せなんだろうか。



 あえて何も伝えないべきなのか。


 けれどなかなか帰ってこない娘たちを家族たちは心配するかもしれない。

 そしてギルドに赴き、何か拍子で真実を知ってしまったら・・・。

 家族は不幸せ、さらに『隠し事』をしていたとして、ティアやギルドにも迷惑をかけるかもしれない。








 私たちは一つの結論にたどり着いた。



 真実と嘘を交えて、家族たちに伝えることを。



 エレンさんとマリアさんは私たち一緒に冒険者として名を上げた。

 そして魔王を倒すために奮闘するようになった。

 彼女達は私たちと一緒に魔王を倒すことなった。

 そしてその戦いの中で戦死をした。


 この中には嘘がある。

 まずは「私たちと一緒に魔王を倒すことになった」ということは嘘だ。

 彼女達が魔王側であったことは、一部の人しか知らない。


 私たち、そしてドレークさんだ。この嘘を通すことは、状況としては簡単だろう。


 また「戦いの中で戦死」したということに嘘はない。

 けれどそれは味方としての立場なのか、敵としての立場なのかで大きく意味が違う。


 私たちはただ「戦死した」ということを伝えるつもりだ。

 普通なら『味方』として戦死したと、思うはずだ。


 マリアさんの故郷にはシオンが、エレンさんの故郷には私が伝える、ということになった。


 そして見守ってくれた二人も・・・。


「お前たちが決めたことだから私たちは口を出さない。」


 ティアは私たちの決断を後押ししてくれた。


「ただ嘘を貫き通す『覚悟』はあるかしら?」


 クレアは『覚悟』はあるかと聞いてきた。


 もし嘘をつく自分の心に耐えられず、真実を話してしまったら・・・。

 また最初は嘘の話をしていたとしても、後になって、例えば一年後になって真実を話すということしたら・・・。


 嘘をついているという罪悪感に耐えきれず、後から真実を伝えるのは、自己中心的なことだということ。


 事実とは違うことを言うこと、つまり嘘をついたら、それをずっと抱えていくことになる。

 その『覚悟』があるのかと、クレアは聞いている。


「「はい、あります。」」


 私たち二人はクレアに返事をした。

 それを聞いたクレアは「わかったわ。」と優しい声で言った。



 ********








 私はボウカーの街に訪れた。

 エレンさんの家族に・・・伝えるために。


 ―『嘘を貫き通す『覚悟』はあるかしら?』


 クレアの言葉が胸に響く。


 ここからは中途半端なことは許されない。

 自分の嘘をつくという罪悪感に耐えきれず、中途半端に真実を話すことは、自分を傷つけたくないという自己中心的ことであることだ。


 なんどもなんどもなんども・・・

 クレアの言葉が心に響いた。そのたびに私は心の中で『覚悟』を決めた。




 そして・・・エレンさんの家の前に着いた。

 私は家の扉を意を決して叩いた。








 コンコン








 しばらく沈黙が流れる。












 叩く力が弱かったのかな。












 扉を叩いてから、たいして時間が経ってないのにその時間が長く感じる。










 不安が心を支配する。












 ガチャ










「・・・あなたは?」


 きっとこの人はエレンさんのお母さんだ。

 エレンさんと当たり前かもしれないが、似ている。


 思わず安心しそうになる。エレンさんに似ているから。

 けれど私は『エレンさんのこと』を伝えにきた。


「私はエレンさんと冒険者として、一緒に過ごしたジュリアと言います。」



 私は自己紹介をした。



「エレンのお友達なのね。さあさあ入って。」


 エレンさんのお母さんは私を中に案内してくれた。




「それでジュリアさんはどんな用件できたのかしら?」


 中に案内されてテーブルに座ってからお母さんから尋ねられた。

 しっかりと話さないと・・・。






 けれど私の口は開かない。






 あれだけ『覚悟』を決めたはずなのに・・・。

 ここでその決意が揺らいでいるというの?








「・・・娘が一緒じゃないってことはきっといい報告ではないのよね。」


 私の様子を見て、何かを察したようにお母さんは言った。


「話してくれるかしら。ジュリアさん。」


 その言葉を聞いて、私の口はやっと開いた。


 エレンさんは、私たちのリーダーとして、冒険者として名を上げたこと。

 魔王を倒すための作戦に選ばれたこと。


 ・・・そしてその戦いの中で戦死をしたこと。


 私は嘘偽りなく・・・いや最初から決めていた嘘で作った真実を間違いなく伝えた。



「そう、ですか・・・。」


 エレンさんのお母さんは私の話を聞き終えてそう言った。


「私たちは(エレン)息子(ディーン)も失ったのね・・・。」


 

 小さい声だったけれど、私の耳に残った。

 

 本当に真実を伝えてよかったのだろうか?


 そんな思いが私の心を支配する。



「・・・おかえりください。ジュリアさん。」


 その言葉を聞いて、私は静かに椅子から立ち上がり玄関へ向かう。

 そして玄関でエレンさんのお母さんから言葉をかけられた。


「私たちに『真実』を伝えてくれて・・・ありがとう。」













 ・・・これで良かったんだ。









 私はエレンさんの家を出て、そのままのボウカーの街を出た。


















 ・・・モンスター島に帰ってきた。


「おかえり、ジュリア。」


 スザクはいつもの顔で迎えてくれた。

 その顔を見て、思わず彼の胸に飛び込むように抱き着いてしまった。


「・・・頑張ったね。」


 彼は何があったか聞かずに言葉をかけて、頭を撫でてくれた。

 その優しい温もりに、私の涙腺は耐えることができなかった。


「うう、うわあああん。」


 私はまるで子供のように泣き叫んだ。


 スザクは頭を撫でてくれた。

 私が泣き止むまで、続けてくれた。

魔王という大きな敵を倒したら物語が終わる。

というのが多いと思いますが、実は考えなければいけないことはたくさんあると思います。


王を失った魔族達のこと、討伐依頼や採取依頼等の冒険者の仕事が減っていくことについての対応。

王族が崩壊していたらその国の今後のこと。


そして、戦死した仲間のこと。


敵か味方かの立場の違いがあるとはいえ、戦死した仲間にも家族がいる。

戦死したことをどのように伝えるのか?

そしてそれがもし敵側として戦死したのだとしたら、そのことも話すべきなのか?



少々重い話になってしまいましたが、魔王を倒した後のこともしっかり描くべきだと作者は考えていたので、この話を書きました。

ただ魔王を倒したというある種の物語としてのゴールテープは切っている状態ではあるので、あまり長くならないようにはしました。



次の話は5章最後の話です。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  道を違え、敵対までしたけれど、ジュリアがエレンさんを大切に思っていたことは変わりがない真実だったと改めて思います。  取り戻せなかったものの喪失感だけではなく、母親に混じり気のない真実を…
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