110:それぞれの道
ラフェールさんとシオンは、まずはティアたちの協力をした。
今後の国の方針を自分たちの故郷のルクの街に伝える役をした。
ルクの街は王都が崩壊した時は、国で一番大きな街となっていた。
そこの賛同が得られない限り、話は進まないだろう。
だがそこは彼らが説明したそうで、ティアも凄く感謝していた。
この街の偉い人達の賛同を、ラフェールさんとシオンがしっかりと得たことで、ティアたちも円滑に進めることができた。
その後、ラフェールさんはドニ―の村のガンさんの夢をかなえるための手伝いをした。
―『俺の夢は全ての種族に俺の鍛冶技術で作ったものを自分の店で売ることなんだ。』
ガンさんは、ルクの街で店を出すことになった。
彼の鍛冶技術はすぐに街の人たちに認められた。
ペンダントなどの装飾品、良質なデザインの服は、ルクの街だけでなく国全体で流行った。
『ガンファッション』という言葉も生まれた。
今後は『筋肉祭』に対抗した『ガンファッション祭』というイベントも企画されている。
ガンさんの作った服を綺麗な女性たちが着て、それを見て盛り上がるというイベントらしい。
クレアやティアにその祭りに出演依頼が来ている。あの二人は綺麗だしスタイルも良いから適任だ。
シオンにも依頼が来ているらしい。
そして私にも依頼がきた。
スザクが「出た方が良いよ」と言うので、頑張ってみようかなぁ・・・。
********
シオンはティアたちの手伝いをした後は、故郷で『狙撃場』を開いた。
自分の得意な弓のスキルを活かしたことをしたい、という彼女にとってベストな選択だったと思う。
そこには彼女なりの思いがあった。
―『私は弓と共に成長してきた。』
―『もちろん正確に打ち抜くには、正しい構え、正しい動作いった技術も必要だけど・・・』
―『それ以上に、正しい的を打ち抜くためには、内なる自分の「成長」が必要なの。』
―『正しい構え、動作、そして自分の「成長」が一つになって、理想的で美しい弓が実現して的を打ち抜くことができるの。』
―『それをたくさん人に伝えたい。弓はそれくらい奥が深いものだということを・・・』
魔王を倒した一員ということで彼女の『狙撃場』は、瞬く間に人気となった。
弓の技術だけでなく、心も厳しく鍛えてくれると評判だ。
ちなみにシオンは『筋肉祭』の審査員もやっている。
彼女も自分の道を歩き出して、生き生きしている。
ちなみにラフェールさんもガンさんのお店を手伝いながら、彼女の『狙撃場』も手伝っているとのこと。
ガンさんは『狙撃場』用の弓を作ってくれるらしい。またラフェールさんには「俺の店よりもシオンを優先しろよな」と常々言っているらしい。
相変わらず世話好きだなぁ・・・。
今後も弓の奥深さをたくさんの人に伝えて、『競技』として発展させることを目指しているそうだ。
********
私とスザク、そしてルギウスさんとクレアは魔族の保護を行った。
スザクはまず土地を用意した。
海沿いにある大きな島だ。
島とは言っても、陸地からそんなに離れておらず、船どころか橋を造れば実質、陸続きとなりそうな土地ではあるけども。
スザクはこの島にエイシェントドラゴンの討伐依頼で来たことがあったらしい。
5匹もこの島に潜んでいたらしいので、大きな島ではあるが、人もいなかった。
スザクはしっかりと5匹のエイシェントドラゴンの討伐に成功し、帰ってきたそうだ。
共存すると決めたときに、この島を使えるのではと思ったそうだ。
―『エイシェントドラゴンを5匹を倒したのか。』
―『ホント、スザクさん凄いわね・・・。もし四天王として戦っていたら、私、勝てたかしら・・・。』
ルギウスさんとクレアは驚いていた。
ティアの働きかけで「その島を魔王を倒した報酬としてスザクに与える。」ということになった。
反対するものはいなかった。
スザクはその土地を『モンスター島』と名付けた。
そしてまずは最低限の設備を整えることにした。
まずは私たちの拠点となる建物を用意すること。生活スペースとなる家だ。
そして、陸と島をつなぐ橋を作ること。
その二つについては、ティアから派遣された冒険者たちにも、手伝ってもらった。
橋はできるまでは私の氷魔法で海を凍らせて、それを橋として代用した。
橋ができたら、ちゃんと溶かさないと・・・。
―『これが噂の氷の魔術師か』
―『まな板って言ったら、氷漬けにされるって本当なんだ・・・』
うう、私が一番得意な魔法は炎の魔法なのに・・・。
設備を整えつつ、魔族の保護作業を私たちは始めた。
―『でもどうやってここに魔族たちを集めるか。』
ルギウスさんが言う通り、私たち4人で各地を回って魔族を集める・・・。
なんて大変だ。
―『あら大丈夫よ。』
クレアは、黒く光る丸い石を出した。
―『これからは人と魔族が争うことはないこと、そして行き場のない子たちはここに集まりなさい。ってことを伝えるわね。』
―『魔王・・・四天王時代にエリオットから貰ったけど、いつか役に立つと思って、捨てないで良かったわ。』
―『ルギウスはこれを持ってないのかしら。私もあなたと同じように専属の配下は持たなかったけど、四天王として各地に散らばる魔族に命令するときに必要でしょ?』
確かに魔族四天王として、魔族に命令したいときもあるだろう。
それくらい権力を持っていても良いはずだ。
―『いや持ってないぞ。』
―『・・・やっぱりあなたってエリオットから相当嫉妬されてたんじゃない?』
そう言うと、クレアはその石に向かって命令をした。
―『さて、私たちは受け入れる準備をしないとね。』
―『受け入れるとは言っても、来た子達にも手伝ってもらうことになるだろうけどね。』
伝達が終わったであろうクレアは、私たちにそう言った。
―『だがクレアの言うことをを聞かないやつはどうなるんだ?』
―『うーん、私の指示を聞かないのは、あまりいないと思うけど・・・。』
そういえば女神の塔の道中でも、『クレア様!万歳』っていって謎の踊りを披露したピエロの魔物がいたような・・・。
魔族達の中では、女神様のような立場なのかもしれない。
黒く光る石を使って、一斉に指示を送る。
それがどんな感じに伝わるのかは、想像がつかないが、脳内に女神様が語り掛けるような感じなのだろうか?
きっとそんな感じだったら、女神様からのお告げだと思って、言うことを忠実に守りそう・・・。
―『私の言うことを聞けなくて、暴れだした悪い子は、あなたとスザクさんが「保護」しにいけばいいわ。』
―『なるほどな。』
―『そういった情報はギルドのティア達が提供してくれるはずだし。』
確かにルギウスさんとスザクのコンビに勝てる魔物はいない。
暴れていても、抑えることができるだろう。
しばらくすると、徐々にクレアの招集をかけた魔物たちがモンスター島に来た。
その魔物たちにクレアは、魔王が倒されたからこれからは様々な種族と共に生きることを改めて説明した。
―『クレア様、万歳。』
あっ、お決まりのセリフだ。
女神の塔の道中でのピエロの魔物だけじゃなくて、来た魔物のほとんどが言ってる。
―『クレア様、我々も協力します。』
魔物たちはそう言うと、陸と島をつなげる橋を作っている冒険者に協力した。
島の開拓を手伝う魔物もいた。
また様々な種族と共に生きることを、後から来た魔物に伝えてくれた。
―『ジュリアの姉御、指示をくれ。』
クレア、いや魔物たちにとっての女神様と対等に話す私の姿を見て、ある魔物がそう言った。
魔物たちから見たら、四天王であるクレアと、呼び捨てで普通に会話しているのが凄いことに映るのだろう。
でも私はそんなことに気づかず、『姉御』と言われて気分が良くなった。
私は家を建てるのを手伝いなさいとか、橋を作るのを手伝いなさいとか、モンスター島をこのように作りなさいと、指示を出しまくって、一緒に協力して、作業をした。
―『あらジュリア。私よりも四天王っぽいことをしているわね。』
指示を出す私を見て、クレアは笑顔で私をからかった。
私とクレアはモンスター島での、魔族の受け入れと保護を行った。
スザクとルギウスさんは、受け入れの準備をしながら、暴れる魔物の場所に行って保護を行った。
そして、各地で様々な種族が共存することを説いて回った。
最初は受け入れられないこともあったそうだ。
それでも根気強い説得や、ティアたちギルドの協力もあり、徐々に受け入れてくれた街や地区も出てきた。
また特に大きな街で影響力もあるルクの街で、カムイさんの宿屋が、従業員として魔物を受け入れてくれたのが大きかった。
そして受け入れてもらった魔物もしっかりと仕事をして、『信頼』を得ていた。
―『最初は勇気が要りましたけど、しっかり働いてくれますね。』
―『掃除は特に凄いですよ。我々の想像以上に綺麗してくれます。』
―『彼らの個性を活かしたディナーショーとかも企画しているんですよ。』
―『僕にできることがあったら言ってください。』
とカムイさんは言っていた。
あの時は、お客さんがなかなか来ないって言っていたけど、今では大盛況らしい。
ティアが気に入ったので、ギルドの仕事等で来るときに利用していたら、一緒にきたワカバさんや他ギルド職員さん達も気に入った。
そこから評判がどんどん広がって、今では人気宿屋。人手が足りなくなった時期もあった。
人気になって、経営も順調。人手不足も魔族を受け入れ、異種族同士で協力して乗り越えた。
さらにはエイミーさんとの間に、子供ができたとのこと。
羨ましいなぁ。
橋を作るのを手伝った魔物は、そこにいた冒険者と共に、建物を作る仕事をしている。
また『筋肉祭』に参加する魔物もいたり、サーカス団に加入した魔物もいるとのこと。
スザクやルギウスさんの説得、ギルドの協力、カムイさんの影響もあったけど、魔物たちがしっかりと仕事をして『信頼』を得ているから、各地で受け入れが進んでいるんだと思う。
魔物たちもしっかりと共存に貢献している。今ではまだ完全にとはいかないが、一歩ずつ進んでいる。
そういえば、あのオオカミの魔物はサーカス団に入団できたのかな・・・。
私たちは魔王を倒した時以上に協力して、国のあり方や種族の壁を取り除く活動を続けていった。
ラフェール、シオン、そしてジュリア達の後日談的な話でした。
スザクがエイシェントドラゴンを5匹倒した話というのは、2章でティアさんがさらっと言っていたり・・・。
ここまで明るい話が続いてますが、次回は少し暗い話かもしれません。