109:発想
生まれ変わった国で、私たちもそれぞれの道でやるべきことをするために歩き出した。
ティアはギルドマスターとして活躍した。
各地の長達に、王族が崩壊した今後は、王族ではなく民が主体となって国のことを決めることを伝えた。
好意的に受け入れる地域もあれば、反対する地域もあった。
ただ一番大きい街のルクの街を説得できたことで、反対する地域は無くなっていった。
まず彼女は、国の今後の方針や法律等を決める『会議』という制度を作った。
全ての人が全員参加するのは現実的ではない。
だからその『会議』に参加するのは、村や街の代表者を民の中から、選定することにした。
代表者はティアたちが民を選定するのではなく、その街の民が決めるようにした。
選ばれた人は、街の民の代表としてこの『会議』に参加する。
その『会議』の様子は、映像として『即時』に様々な場所に転移される。そしてその映像は記録として残る。
この『会議』制度のおかげで、民の意志が国に反映されやすくなるような仕組みが、徐々に出来上がっていった。
方針、法律はもちろん、民の意見が国を変えたり、貢献できる仕組みができたことで、民から様々な『発想』が出てくるようになった。
例えば、映像を『即時』に様々な場所に転移させるという発想。
これを発案したのはティアだ。
各地の長に説明するとき、その地へ赴くときの手間や、長を集めて話し合いたいけど、現実的にそれが実現しないとなったときに、ふとルギウスさんとクレアが、四天王時代に映像のやり取りをしていた『水晶玉』を思い出したそうだ。
彼らの場合は水晶玉に映像を『記録』して、それを相手に送るという『即時』でないが、映像を送っていた。
それを転移石の仕組みを合わせれば、転移元の水晶玉で撮っている映像を、転移先の水晶玉に『即時』に転移できるのでは?
そうすれば離れていても、映像を介して話し合うことや『会議』もできるのではないか。無理にギルドや一つの場所に、集まる必要はないのではないか?
というのが『発想』のきっかけだったそうだ。
それを聞いたルギウスさんは「実現したら面白いな」と言って、水晶玉を提供した。
村長さんもティアの発想を面白いと思い、その発想の実現に向けて、力を貸した。
魔法が得意な冒険者、そして魔族も協力した。
今思えば、人と魔族が力を合わせて、一つの新たな物を作るという最初の事例だったのかな。
最初は映像を転移することに時間がかかったりしたが、どこかに集まることなく、そして自分の地域にいながら、他の地域の長や代表者は、ティアたちギルドと話すことができる。
これが非常に好評であった。
そのため少々映像の転移に時間がかかっても、批判の声があがることはなく、改良すれば、移動しなくても話し合うことができるし、どんどん試していこうという長い目で見る人が多かった。
今では映像の転移先の水晶玉を量産して、『映像受像機』として商品として売られるようにまでなった。
「まさか自分の言ったことが、ここまで世に影響を与えるとは・・・」とティアは驚いていた。
今後はギルドからのお知らせを発信したり、いろいろな情報を発信するのに役立てようと色々企画をしている。
そしてこの水晶玉を、一家庭に一個はあるくらいまでに浸透させるのが目標だそうだ。
街から街への移動手段についても、新たな『発想』が影響を与えた。
今までは街から街の移動は、馬車を携えて自分の足で移動していた。
でもそれだとその移動に時間がかかるし、労力も必要だ。
そこで馬車を火魔法や風魔法を駆使して、自動で動かそうという『発想』が出てきた。
自動で動くので馬が必要なくなり、また自動で動く馬車ということから、それは『自動車』と名付けられた。
その発想はどんどん改良されていき、今では『自動車』はたくさんの人を乗せることができるようになり、街から街への移動の時間が短縮された。
『発想』はさらなる『発想』を生む。
『自動車』が生まれたことで、その自動車がスムーズに進むような道が必要では?という『発想』が出てきた。
今まで街と街を結ぶ道は、綺麗な道もあったが、デコボコで進むのが大変な道もあった。
なのでその道を綺麗にするという仕事ができた。
魔王が倒されたことで、戦うことを専門としてた冒険者の今後の仕事が心配された。
魔王が倒されても、各地で暴れている魔物を抑えるということはあるかもしれない。それでも討伐をメインに活動していた冒険者の仕事はこのまま放置していれな減る一方だ。
これも『発想』が生んだ仕事が解決した。
例えば魔法が得意な冒険者は『自動車』の改良に携わった。
また、火魔法や風魔法でその『自動車』を操作するという仕事が生まれた。
今では、たくさんの人を乗せて『自動車』を操作して、街と街を移動するという商売が生まれて、魔法が得意な冒険者たちは『自動車』の操作する人として活躍している。
このおかげで街と街の距離が近くなり、新たな相乗効果が生まれたとか・・・。
強靭な肉体を持つ冒険者は肉体を活かした仕事があった。
例えば、街と街を結ぶ道を綺麗にする際にも活躍した。
他にも家を建てる仕事や、物を配達する仕事でも大活躍したそうだ。
また王都の復興でも彼らは大きな力となった。
崩壊した城の片づけでは彼らなしに終わることはなかっただろう。瓦礫を運ぶのに彼らの力は必要不可欠だったからだ。
今では城があった場所は、まっさらな土地となっている。
また王都の名前も変わった。『ウィリング』という名前の街として新たなにスタートした。
たくさんの人を乗せて『自動車』を操作して、街と街を移動するという商売における『自動車』の出発タイミングや到着点への予想時間などをまとめて一覧を作ったりする仕事もあった。
それをあの「まな板筋肉」を中心に行っていたのだから驚いた。
頭を使う仕事だと思うのだけど、「まな板筋肉」は立派に役目を果たしたらしい。
さらに自らの肉体や筋肉を見せつけて、人々を楽しませようという『発想』を出した人がいた。
私は正直需要があるのかなと思ったけど・・・。
筋肉には意外とファンがいるらしく、筋肉質な肉体をたくさん見たいという人もいるらしい。
シオンは興奮気味に「面白そう」って言ってたっけ・・・。
今では『筋肉祭』というイベントが開かれるまでになって、そこで一番の筋肉の人が優勝する・・・らしい。
ちなみに初代筋肉王はラフェールさんだった。
『筋肉祭』はさっきの『映像受像機』を使って、毎回たくさんの人がこの様子を見ているそうだ。
とんでもないところにも人々が盛り上がる『発想』ってあるんだなと私はものすごく驚いた。
このように民から様々な『発想』が出てくるようになった。
さらにそれを発展させるための『発想』もどんどん生まれた。
きっと自分の考えが国に反映されやすくなったから。
自分自身が考えて、それを実行することができるような仕組みをティアたちが作りあげられたからだと思う。
今までの王族中心の国だったら、私たちは『楽』だったかもしれない。
なぜなら自分自身はなにも考えずに済むから。発想を出すために頭を使わなくていいから。
もしかしたら今の方が大変かもしれない。
けれど民が前よりも生き生きとしていると思う。
発想や民の考えをまとめるのは大変だが、ティアたちが上手くやっている。
ドレークさんやワカバさん、神父様たちの教会の人も彼女を上手くサポートしている。
この国が生まれ変わったのは、ギルドマスターとなったティアの力はとても大きい。
それでもティアは言う。
「私はまだまだだよ。」と・・・。
「ギルドとしても、まだまだこの国の仕組みがよりよくなると思っている。だから私たちも発想を出し続けていかないとな。」
そう言う彼女の笑顔は、凄く生き生きとしていた。
後日談といいますか、物語のエンディングを感じさせるようなお話になりますね・・・。
この話ではティアの活躍を書きました。
ティアの過去、スザクとの出会い、ギルドでの活躍、ギルドマスターになった後・・・。
彼女視点で一つの長編小説が書けそうな位、作者としては思い入れのあるキャラとなりました。
ちなみにティア視点の話はエピローグで1話予定しています。