106:変わらないこと
「さて、全員揃ったかのう・・・。」
戦いの傷を癒し、チームに分かれた後のことを仲間同士で報告し合った後、私たちは村長さんの家に来ていた。
「まあジュリアとスザクはワシに色々聞きたい、という顔をしているが、まずは確認させてくれ。魔王を倒したのだな。」
「はい。」
スザクが答えた。
「そうか、よく頑張ったな。・・・お前たちが村を旅立って、大きなことを成し遂げてくるとはのう。」
長生きはするもんじゃな。と村長さんは笑顔だ。
「それに魔族と協力して、魔王を倒すとはのう・・・。」
村長さんはルギウスさんとクレアを見て言った。
二人は傷は深かった。
魔族だから。
という理由で迫害されたり、不利益な扱いをうけることはなかった。
神父様やワカバさんが懸命に癒し魔法をかけた。
村の人は私やスザクに協力したことを知ると、「スザクとジュリアを助けてくれてありがとう」村の産物をルギウスさんとクレアに渡した。
―『いい村だな。』
―『ええ、そうね。』
ルギウスさんとクレアから、そんな会話が聞こえてきて嬉しかった。
「相当な戦闘能力を持っておるのう。」
「何を言う。優秀な魔術師よ!」
ルギウスさんが村長さんのことを『優秀な魔術師』って・・・。
「避難所の一角に転移の魔法陣を描いていたのはお主だな?」
「えっ、魔法陣?」
「スザクよ。気づかなかったのか?」
避難所のスペースに沢山のテントがある中、不自然に開けられているスペースがあった。
そこには王都から転移してきたものを受け入れる『魔法陣』があったらしい。
「よくできた質の良い魔法陣だった。この魔法陣なら安全に転移を行うことができただろうな。」
「まさか魔族に褒めてもらう時がくるとはのう・・・。」
「えっ、えっ、村長さんが?」
私はまだ信じられないでいた。
確かに沢山の魔法は教わったし、私が魔法を使えるようになったのは、村長さんが基本を叩き込んでくれたからだと思っている。
でも見た目は穏やかで優しい村長さんがそんなことを・・・。
「ジュリアとスザクは驚いているのう。」
笑いながらのんきなことを村長さんは言った。
驚くに決まっている。
私だってルギウスさんに「優秀な魔術師」って言われたことないのに・・・。
じゃなくて優しい村長さんが、ルギウスさんが褒めるレベルの「優秀な魔術師」だったことに驚いている。
「どういうことか!」
「説明してください。」
私とスザクは村長さんに詰め寄った。
「わかった、わかった、ちゃんと説明してやろう。」
村長さんは苦笑いをしてから、話し始めた。
「ドレークとワシはな。昔に一緒に冒険者をしていたことがあったんじゃ。」
「えええ!?」
村長さんが冒険者・・・。
「あの優しそうなじいさんがか。」
「信じられないわね・・・。」
ラフェールさんとシオンが小さな声で会話していた。
私も信じられない・・・。
「ほ、本当ですか?」
「本当だよ、スザクくん!」
スザクの問いに答えたのは、ドレークさんだった。
「ライアスさんは凄腕の魔術師だったよ。」
知らなかった。
ドレークさんやルギウスさんが認めるほどの凄腕の魔術師だったなんて。
村長さんの名前が「ライアス」という凄くかっこいい名前だったなんて。
「ほっほっほ。ワシもお前たちの前では、優しい村長で居たかったのだがのう・・・。」
「そ、村長さんが凄い人だったんだ。」
でも今思うと確かに私の魔術が伸びたのは、村長さんが凄かったから。
適切な指導をしてもらえたからなのかも、と思った。
「凄いというのは俺も説明したつもりだったが・・・。」
―『よくできた魔法陣だった。この魔法陣なら安全に転移を行うことができただろうな。』
「ルギウスだったかのう。お主は転移魔法を『単体』で『転移元』と『転移先』を指定して『発動』することができるな。しかも回数制限もなく・・・」
「ああ。」
「・・・ワシは『転移先』しか指定しておらん。」
村長さんが言うには・・・。
あくまで村長さんは避難所を『転移先』として指定しただけで、『転移元』と『発動』はドレークさんに託したとか・・・。
『転移先』は村長さんの魔法陣。
『転移元』は魔力を込めた石をドレークさんに渡したらしい。
―ドレークさんは『失敗』したときのことも考えて、手を打っておくべきだと主張したらしい。
―失敗したら、真っ先に勇者がいたここが狙われるからと。
そういえばドレークさんは私たちが魔界に行ったときに色々な備えをしていた。昔からの知り合いの魔術師は村長さんのことだったんだ。
それでその石をギルドの職員や神父様に渡した。
そして私たちが女神の塔へ出発した後、ドレークさんの備えに賛同しだした人にも配ったそうだ。
―『もしも魔王が攻めてきたら、私のタイミングで発動します。』
と『転移元』の石を配った人に説明したそうだ。
そして魔王が攻めてきた時に、ドレークさんがその石を一斉に『発動』させて、ここの村に転移させたそうだ。
「あくまで『転移元』は魔力を込めた石、『発動』はドレーク、ワシは『転移先』の魔法陣を描いただけじゃ。」
「ここまで大掛かりな準備をしてやっと転移ってできるんだけど・・・。ルギウスくんは『転移元』も『発動』も『転移先』も一人で、しかも簡単にできるからね。」
『転移元』は自分の周り、『発動』はルギウスさん、『転移先』は行ったことがある場所・・・。
彼は本当に凄いの一言だ。
「ワシも転移魔法を感じ取ったときは驚いた。」
私たちが王都からモック村に帰ってくるときは、ルギウスさんの転移魔法を使った。
その転移魔法がモック村に近づいてくると感じ取った村長さんは、もしかしたら私たちが帰ってくるかもしれない。
と思ったらしい。
「だから村長さんや、おじさんとおばさんが迎えてくれてたのか。」
転移魔法でモック村に戻ってきたら、既に村長さんとお父さんとお母さんが迎えてくれた。
村長さんが王都からの転移魔法を察知して、入り口で待っていてくれた。
「これで信じてくれるかのう?」
村長さんは穏やかな笑顔で言った。
それは、私とスザクが小さいころから見続けてきた穏やかな笑顔だ。
「お前たちが魔王を倒した英雄になっても、ワシが実はそれなりの魔術師であってもな。」
その笑顔のまま、村長さんは続ける。
「ワシがお前たちの村長であることには変わりない。そうじゃろう?」
スザクが魔王を倒した英雄になっても。
私もたくさん魔法が使えるようになっても。
村長さんが凄腕の魔術師でも。
生きていれば、変わることはある。
けれど何があっても、変わらないことだってある。
・・・どんなことがあっても、私とスザクの故郷の村長は『村長さん』なんだ。
「「はい。村長さん!」」
「さてライアスさん、そろそろいいですか?」
ドレークさんは言った。
「そうじゃのう。」
「王都の人が避難している人や村の人にも、魔王を倒したことを報告をしないとね。」
「えっ、まだしてないのか。」
ドレークさんの言葉にティアが反応した。
「まあ報告は僕からみんなにしたけど・・・。」
「信じてもらえなかったとか?」
「いや、皆は魔王を討伐した君たちから、直接報告を聞きたいものなんだよ。」
私たちの傷が癒えるまで、待っていて貰っていたらしい。
「ワカバくんに頼んで、人を集めているんだ。申し訳ないけどお願いね。」
実は凄い人だった村長さん。
物語の序盤で出てきて、実は凄い人だったというのはよくありますね。
4章の頭で既に『例の魔術師』については出ていましたが、1章でジュリアに魔法を教えている等の描写があったので、村長さんが『例の魔術師』だってことを予想されていた方もいたのかなと。
次回、王都から避難した人やモック村の人に魔王を倒したことを伝える回です。