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11:ただいま

「ジュリアちゃんおかえり」

「大変だったねぇ」

「俺はジュリアちゃんを信じていたぜ」



 家に帰る途中、村の人たちから声をかけてくる。

 本当に優しい・・・。

 洗脳されているとか関係なしに拒絶してもおかしくないのに。



 ―『私は勇者様の女なの。』

 ―『これからも野菜を作って王都に届けてくださいね。私と高貴な勇者様が食べてあげますから』



 酷い言葉を投げつけたのに。



 でも村の人は私を受け入れてくれた。



 これから私はこの村のために頑張ろうと思った。

 できることなら・・・・スザクの隣で。



 それに私の知る村と比べて、凄く活気がある・・・。



「ねえお父さん。凄い活気だね。」

「ああそうだよ。」



 お父さんの話によると、今までは野菜を生産して王都や街に村の産物して届けていたけど、今はスザクが南の森から素材を採取できるようになったので、その素材を活かしたものを村の産物して売り出せないかと計画しているらしい。



「本当、スザクくんのおかげだわ」



 お母さんの言う通りだ。


 スザクは私を取り戻すために強くなってくれた。その結果、村にも貢献している。

 これからは私もスザクの隣でこの村に貢献するんだ。

 





********





 家に着く。



 私が戻りたかった場所だ。思わず涙が出てきた。



 もしかしたら二度と帰ってこれなかったかもしれない、一番安心する場所。



「おかえり、ジュリア」

「ただいま、お父さん、お母さん」




 勇者によって壊された家族の絆。

 それがたとえ洗脳の力によっても、壊された事実は変わらない。





 壊されたものを取り戻すように、私たちはお話しした。

 失った一年間を埋めるようにたくさんお話しした。






 あっという間に時間は過ぎた。









 ・・・そろそろ日も落ちてきた。


 


「・・・スザクくんのところに行きたいんでしょ?」

「お母さん、私は」

「いいのよ。彼とまだお話ししていないものね。それに・・・」


 お母さんは優しい笑顔を向けて言う。


「私たちは家族よ。これからゆっくり取り戻していけばいいじゃない!」

「うん、ありがとう。お母さん」


 私はスザクの家に行った。






 ********





「大丈夫。きっと大丈夫。」


 私は言い聞かせるようにつぶやく。



 あの時よそよそしくされたのは、お仕事中だったから。

 真面目な彼だもの。

 仕事をしっかりやり遂げてから私に会おうとしたはず。



 でも日が落ちても彼は私の家に来てくれない・・・。

 村の人は許してくれたけど、もしかしたら本当は彼は許したくないのかもしれないという態度の表れなのかな。



「大丈夫、大丈夫よ。」



 じゃあなんで私は目の前にある彼の家の扉をノックすることができないの?



「大丈夫よ。私は前に・・・進むの」



 意を決して、扉を叩いた。




 コンコン




 しばらく沈黙が流れる。






 叩く力が弱かったのかな。それとも私ともう会いたくないのかな?






 扉を叩いてから、たいして時間が経ってないのにその時間が長く感じる。





 不安が心を支配する。






 ガチャ



 扉を叩いて出てきたのはスザクのお母さんだった。


「あ、あ、おばさん。その」

「あらージュリアちゃんじゃない。さあさああがってあがって」

 と、ほぼ強引に中に入れてもらった。



 そしておばさんはスザクを呼ぶと、「じゃあわたしは出かけてくるわねー」とどこかへ行ってしまった。








 スザクと二人きり。すごくドキドキする。


 それは愛する彼と二人きり、だからでない。


 拒絶されるかもしれないという不安だ。





「ふう、ジュリア、おかえり」


 スザクは言った。


「えっ、スザク」

「君が戻ってきて本当に良かった。良かったよ。」

「ス、スザク」


 あれだけ酷いことをしたのに・・・。でもスザクはは私が戻ってきたことに良かったと言ってくれた。


 


 これは奇跡だ。




 あの時神父様は『元に戻らなかった』人もいると言っていたけど、

 私は幸運なことに家族との村との、そして最愛のスザクとの絆を取り戻せた。




 でも、きちんと謝らなきゃ。






「酷いことして、ごめんなさい」

「謝罪はいい。僕もジュリアの異変に気付かなくて・・・ごめん」

「スザクが謝ることはない。そんなの、普通は気づかないよ・・・」

「・・・ジュリアも謝る必要ないよ。それよりさ、僕は『おかえり』って言ったんだけど。」



 エレンさん、私、取り戻すことができたよ。



 あなたのおかげで逃げずに向き合えた。そのおかげだ。




「うん。『ただいま』スザク!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] うーむ、どうしても訓練された一読者としては 【居もしない】不穏な気配に怯えてしまう。 被害者フォローをしてくれる珍奇な国にバックアップされて、 優しい村人たちに受け入れられた彼女の未来は…
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