105:報告
私とスザクの家で、私たちは魔王との激しい戦闘で負った傷を癒した。
ワカバさんや神父様、癒し魔法を使える冒険者さんたちも家に来てくれて、私やシオン、特に意識を失っていたクレアとティアの傷を癒してくれた。
そのおかげでクレアとティアも目覚めた。神父様たちに本当に感謝だ。
ただ二人とも綺麗なので、お父さんがデレデレしてしまった。
その瞬間、身を震わすほどの殺気がお母さんからあふれ出たと思ったら、お父さんはテーブルに伏せていた。
・・・なんてハプニングもあったけど。
―『お母様・・・凄いオーラを出すわね。』
とクレアが驚いてのは、印象に残った。
皆が目覚めた後、魔王城と化した城で、どんなことがあったかを報告した。
ティアとクレアは魔族と化した騎士団長グリムの誘いに乗り、エリーとシュリと戦ったこと。
二人を倒すことができたけど、クレアがクイーンモードを発動して暴走状態になったのをティアが止めたこと。
だけどエリーとシュリとの激しい戦闘と暴走状態を止めるために体力を消耗してしまい、そこでもう動けなかったこと。
さらに『盾』として使われていた人達はもう既に絶命してしまっていたこと。これは村で目覚めた後、ドレークさんから聞いたらしい。
「先に裏から侵入して、少しでも戦力を削ごうと思ったの。けれどまたルギウスの足を引っ張ってしまう形になってごめんなさい。」
クレアがみんなに謝った。
「何を言う。」
クレアの言葉にルギウスさんが言葉を挟んだ。
「お前を俺は信頼している。先に侵入するのは作戦とは違ったが、結果的にパワーアップしたエリーとシュリを倒してくれただろう。」
特にシュリは魔族化しかけている王族や騎士団の人たちを『盾』に使い、自分の身を守っていたらしい。
そんな卑劣な『盾』を使われていたら攻撃を躊躇してしまう。クレアのクイーンモードじゃないと勝てなかったと思う。
「戦闘は結果が全てだ。・・・今は生きてここにいる。それでいいだろう。」
「ごめんなさ・・・」
「もう謝るな。」とルギウスさんはクレアの口に優しく人差し指を添えた。
「・・・俺もお前も、エリオットの言う通り、頭は良くないのかもな。」
ルギウスさんはクレアに笑顔で言った。
彼の笑顔って初めて見るかもしれない。
「これからは穏やかに一緒に暮らそう。」
こんな優しい笑顔ができるんだ・・・。
「はい。」
その笑顔にクレアは涙を浮かべながら答えた。
「ありがとう。ルギウス。」
ルギウスさんとラフェールさん、シオンは街の人を救いながら城や街の様子を調べていた。
お城の中もルギウスさんが少し集中して城の中を探ったら様子がわかり、クレアとティアが先に潜入したことがわかったらしい。
なら自分たちも潜入しようということになって、地下からクレアとティアが侵入していることがわかったので、城門からスザクと私が侵入すると仮定したとき、自分たちは別の場所から潜入した方がいいとなった。
そこで屋上のバルコニーから潜入することなり、ルギウスさんが二人を抱えて飛んだとのこと。
「なるほど、確かに別の場所から別れて侵入した方が、相手の戦力は分散するよなー」
ツッコミどころはたくさんある気がするが、まあルギウスさんなら・・・という感じでスルーしていた。
彼らが屋上から侵入した部屋にはマリアさんがいた。
ルギウスさんはマリアさんの相手をラフェールさんとシオンに任せて、王座の間に向かった。
二人はマリアさんと途中から参戦したグリムを倒して、私たちのいる王座の間に来た。
マリアさんはどんな時でも前を向き続けた。
恋人さんが別の人と結婚してしまっても、魔王妃になっても・・・。
「マリアさん・・・。」
スザクがポツリと呟いた。
最後は私たちのチーム。
私とスザクはレオンハルトさんを倒し、ディーンさんとエレンさんを救えなかったこと。
魔王がいる王座の間に入ったときはルギウスさんと魔王が既に戦っていたこと。
そして女神の塔でも、発動したという『アサルトモード』を発動して魔王を全力で削ったこと。
スザクがルギウスさんからのバトンを引き継ぎ、魔王を倒したこと。
「ルギウス、短期間でアサルトモードを2回も発動したの?」
クレアが顔色を変えて、ルギウスさんに詰め寄った。
「致し方無い。魔王があれだけ力をつけていたのは『計算外』だった。」
「でも力を解放をするってことは、身体に負担をかけることよ!」
クレアは、女神の塔で『幻』を見せられた後に、塔の主様に向かって叫んだ時と同じ顔をしていた。
「わかっている。もうしない。」
「・・・約束よ!」
悲しみに溢れている声だけど力強く、ルギウスさんに言った。
「ルギウス、最初で最後の『命令』だ・・・。」
スザクが突然、ルギウスさんに向かって言った。
「アサルトモードの今後の発動を禁止する。これは命令だ!」
「スザク・・・。」
「これ以上、自分を傷つける必要はないから。」
スザクは黒い珠を壊したから、ルギウスさんに命令することができる。
「・・・ありがとう、スザクさん。」
クレアは静かに言った。
そして、勇者についても・・・。
私が最上級魔法を連発して『復讐』したことも報告した。
「ありがとう、ジュリア。」
シオンが私に抱きついて言った。
「あの男と向き合って大変だったでしょう・・・。私からもありがとう。」
クレアが頭を撫でてくれた。
「これで少しはスッキリした・・・かな。」
ラフェールさんは小さく呟いた。
「・・・よくやったな、ジュリア。」
ルギウスさんは静かに、そして穏やかな笑顔で言った。
「これでやっと勇者の呪縛から解放されたのかな。」
スザクが言った。
あの男に壊されたものは、戻ってこない。
けれど新しいスタートを切るための「けじめ」はつけられたのかな・・・。