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103:脱出

ここからは終わりに向けて穏やかな展開です。

「スザクさん、これで傷を・・・。」


 シオンは所持していた回復薬草をスザクに渡した。


「ほら、ジュリアも」と私にも回復薬草を分けた。




「魔王、それに勇者は・・・」

 

 ラフェールさんがスザクに言った。  


「もう・・・終わったよ。」


 魔王はスザクが倒した。

 そして勇者は私が始末した。


「そうか。遅くなってすまなかった。」

「ラフェール達も無事でよかったよ。」

「ルギウスは気絶しているのか。」

「ああ、全力で魔王と戦って・・・僕に繋いでくれた。」


 ルギウスさんが勇者を取り込んだ魔王を追い詰めなければ、私たちは恐らく負けていた。


 異種族同士で協力してバトンをつないだおかげで勝てた。

 これからはどんな種族も協力して暮らせるようになると思う。

 ・・・いやそうしていくんだ。





「ジュリア、ごめんなさい。」


 シオンが私に抱き着きながら言った。


「もうマリアは『魔王妃』で、ダメだった・・・。」

「あっ!」


 私は理解した。

 マリアさんもエレンさんと同じで『手遅れ』だったことを。


「私もダメだった・・・。」

「ジュリア?」

「エレンさん、すぐえなかった。」


 涙を堪えきれず、救えなかったとしっかり言えなかった。

 けれどシオンにしっかり伝わったみたいで、「エレン・・・」と小さく彼女は呟いた。



 ・・・そんな悲しみに浸る余裕はなかった。







 ゴゴゴゴゴゴゴ








 突如起こった地響きと揺れるお城。


「おい、まさか・・・。」


 ラフェールさんが顔色を変えて言った。

 私たちも理解した。


「ラフェール、ルギウスを背負ってくれ。」

「ああ、わかった。」

「早く!みんな城から脱出するよ!」

「はい!」


 この地響きは、城が崩れる前兆だってことを理解した。

 私たちは王座の間を出て、外へ急いだ。








 ********








「ふう、なんとか間に合ったね。」


 なんとか城が崩壊する前に脱出することができた。







「クレアとティアは・・・」


 シオンが言った言葉にみんなハッとする。


 ここにいるのは私、スザク、シオン、ラフェールさんと彼に背負われているルギウスさん。



 ティアとクレアはいない。確か先に潜入したって言ったけど・・・。



「大丈夫、あの二人はきっと無事だ。」


 スザクはまるで自分に大丈夫だと言い聞かせるように言った。






 そうだ。あの二人が簡単にやられるはずがない。

 女神の塔への道中も、女神の塔でも頼りになるお姉さんだ。






 きっと大丈夫なんだ。

 大丈夫、大丈夫なんだ・・・。









「スザクくん、無事だったんだね。」


 この声は・・・。


「ドレークさん!」


 ドレークさんだった。彼はクレアを背負っていた。


 そしてその後ろには・・・。


「スザクもまな板のお嬢ちゃんも無事だったか。」





 ま な 板 筋 肉。






 ・・・というのはどうでもよくて、そいつもティアを背負っていた。


「良かった。二人共も無事だった。」

「でもなんであなた達がティアさんたちを・・・。」


 スザクがドレークさんに尋ねた。


「ああ、それはね。」と、ドレークさんは説明を始めた。






 ティアとクレアと共に城下町に潜む魔物を討伐していると、現騎士団団長のグリムが話しかけてきた。


 ―『私も城内の人を魔族から匿っています。助けるために一緒に来てくれませんか。』


 ティアはあまり疑う様子を見せてなかったが、ドレークさんは怪しいと思ったらしい。

 するとクレアがこう言った。


 ―『行くのは私とティアの二人。ドレークさんは先にギルドに一時退避させた人たちを安全に避難させて!』


 この言葉を聞いて、クレアはグリムの誘いに敢えて乗ると、ドレークさんは理解した。

 ドレークさんはクレアの言葉通り、一時避難させたギルドの人達を、例の魔術師の力を借りて避難させた。



 ―『ドレークさんは避難しないのですか?』

 ―『ティアくんたちが残っているのに、部下が頑張っているのに、僕だけ避難するわけにはいかないからねー。』


 ドレークさんはそう言うと、ドレークさんを守ると言って「まな板筋肉」も残ったらしい。


 結果的に、ティアとクレアを救ってくれたから残ってくれてよかった。






 ・・・まさかこの男に感謝する日が来るとは思ってもなかったけど。







「グリムくんの誘いに敢えて乗った二人が心配になってね、避難させた後に、ティアくんたちを追ったら、二人が倒れていたんだ・・・。」


 ドレークさんは二人の行動を追跡できるように、別れる直前にティアにマーキング魔法を唱えて、追跡できるようにしていた。

 ギルドの一時退避している人たちを避難させた後に、そのマーキング魔法で二人を追跡して、二人が倒れていたのを発見したそうだ。


 エリーとシュリととても激しい戦闘を行ったのだろう。

 私たちは、彼女達に何が起こっていたのか知ることはできないけど、とにかく無事でよかった。






「さて、僕たちもみんなが避難したところにいこうか。」


 そういえばドレークさんの『協力してもらったという例の魔術師』って誰なんだろう。

 きっと避難した先にいるはずだ。

 感謝しないと・・・。


「避難所ってどこなのかしら?」


 シオンがドレークさんに問いかけた。


「モック村だよ。」

「「えっ!」」


 その答えに驚いた。スザクも同じように驚いていた。


「もしかして『例の魔術師』って・・・」

「村長さんのこと?」

「いや、まさかね・・・。」


 私はスザクとこしょこしょと話した。


 でも、こんなことはあるのだろうか?

 村長さんとドレークさんが知り合いなんてことがあるのだろうか?


「さて、早速僕たちもモック村に転移しよう・・・って言いたいけど・・・。」


 ドレークさんは視線を落とす。


「さっきの人たちを転移させた時点で、前準備で用意していた、最後の転移だったんだ。」


 用意ということは、転移石のように準備したり、村長さん疑惑の魔術師さんの魔力の準備とかもあるのだろう。




「だからモック村に歩いていくしかないね。」


 ごめんね。とドレークさんは言った。


 ちょっと距離は遠いけど、頑張って向かうしかない。

 むしろ、街の人を助けたのだからよかったと考えよう。


「城下町のどこかで一旦休んでから向かおうか。」

「・・・その必要はない。」


 苦しそうな声で反論したのはルギウスさんだった。


「る、ルギウス?」


 彼を背負っていたラフェールさんが驚きの声を上げた。


「ドレーク・・・モック村でいいんだな?」

「ああ、そうだけど。」

「俺の転移魔法で移動しよう・・・。」



 確かに彼の転移魔法なら可能かもしれないけども・・・。

 そもそもルギウスさんはモック村に行ったことがあるのだろうか?



「ルギウス、無理はダメだ。」

「ならジュリアよ。」

「はい。」


 ルギウスさんから不意に名前を呼ばれたので、驚いたように返事をしてしまった。


「回復魔法をかけてくれるか?」

「わ、わかりました。」


 私は彼の言う通り、回復魔法を発動した。


「でもルギウスの転移魔法は一度行ったことある場所しかいけないんじゃ・・・。」

「それは問題ない。」

「えっ!?」

「俺と初めて会ったときのことを覚えてるか。」

「あっ!」


 スザクは何かを思い出したようだ。


「・・・思い出したようだな。」

「君が言ってたあの時の村って。」

「ああ、モック村だ。」

「危なかったんだね。僕たち。」


 スザクは顔色を変えて、私に言った。


 私は正直ピンときてないので、彼が顔色を変えている理由がわからないけども。とりあえず、転移することに問題なさそうなので良かった。




「はい。完了です。」


 あれだけの傷だったので、しっかり休まないと完全に回復はしない。

 でもこれで一時的には力を出せそうだ。


「感謝するぞ。皆、俺に近づいてくれ。」


 私たちはルギウスさんの指示に従う。


「それじゃ、いくぞ。」というルギウスさんの言葉と共に、あの浮遊感が私たちを包んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ゆっくりと大団円に近づいて行くのですね……  失ったもの、救えなかったものを改めて確認させられました。  更新ありがとうございます。
[良い点] 今更気づく。 勇者はちっぱいもおっぱいも愛せる博ぱい主義者だったのか(←〇んでしまえ
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