100:ジュリアの決意
遂に100話を越えます。
ジュリア視点です。
バタン
さっきまでボロボロになりながらも魔王を攻め続けてきたルギウスさんは
その音と共にあっさりと倒れた。
「ル、ルギウス・・・」
スザクは突然倒れたルギウスさんに声をかけた。
だがそれが彼の動きを一瞬鈍らせることになる。
「これで終わりだ。」
魔王はルギウスさんにトドメを刺そうとした。
「し、しまった。」
スザクは反応が遅れてしまっていた。
・・・でも私がいる。
「グラスウィップ」
私は草魔法でツタを出現させて、ルギウスさんの身体に素早く巻き付けた。
魔王の一撃がルギウスさんを捉える前に、ツタを素早く引いて彼の身体を私たちの方に寄せた。
魔王はルギウスさんが倒れていた地面に強烈な一撃を叩き込む。
間一髪だった。なんとか間に合って良かった。
「ぬう、金魚の糞め。」
魔王はルギウスさんをツタで救った私に怒りの目線を向けた。
「セイクリッドソード!」
それはスザクから視線を逸らすということ。
彼に隙を見せるということ。
私が草魔法でルギウスさんの身体にツタを巻き付けたときには、彼はもう切り替えていた。
私と一瞬だけ、目があった。
―『ルギウスは頼むね。』
彼はきっと目で私にそう伝えた。そして魔王に攻撃する準備に入っていた。
「スザク!」
彼の聖なる剣が魔王を捉える。
ルギウスさんが限界まで体力を削って、そしてスザクがトドメを刺す。
種族を越えた絆が魔王を打ち砕く。これで魔王に勝てる。
「ぐおおおああああああ」
魔王はスザクの攻撃をもろに受けて、王座の方向へ吹き飛んだ。
魔王を倒せたんだ。
これで世界が平和になるんだ。
私たちが成し遂げたんだ。
「スザク。」
「ジュリア。気を抜いちゃダメだ。」
「えっ。」
「まだ・・・終わってない。」
私は彼のそばに寄って、王座の方を見た。
・・・なぜか人影が二つある。
そしてその影が段々と明らかとなった。
「えっ!」
その姿に衝撃を受けた。
一つは魔王の姿だった。
何故かダメージをほとんど受けてない。
もう一つは・・・。
まるでゾンビだ。
顔はぐちゃぐちゃ、身体もドロドロで一言でいえば醜い。
「うっ!」
吐き気がした。生理的に無理だ。
でも私が生理的に無理なのは・・・醜い姿だからだけではない。
「ゆう・・・しゃ?」
「えっ!?」
私が発した言葉に、スザクが驚いた反応を示した。
「・・・我は勇者を取り込んでルギウスと戦った。」
魔王が私たちに向かって話し出した。
「力を上手く取り込めたことでやつとも互角以上に戦えた。」
やつ・・・きっとルギウスさんのことだ。
「だが我は消耗していた。お前たちにトドメを刺されそうになった。」
「・・・どうして傷が回復しているんだ?」
「それは我達が受けたダメージ全てをな。」
魔王はニヤッと笑って続けた。
「勇者に全て押し付けて、取り込んだ勇者を『捨てた』からだ。」
魔王は勇者と一心同体となった。
ルギウスさんとの戦闘で受けたダメージを全て勇者に押し付けて、一心同体の状態を解除したとでも言うのか。
全てのダメージを押し付けられたゾンビは、うねうねと気持ち悪く動く。
「『捨てた』ことで我の力は弱まるが・・・。」
魔王の言葉を聞いて、私達は当たり前のことを再認識させられた。
「ルギウスを倒せた。この男はもう不要だ。」
ルギウスさんの強さに慣れ始めていた私たちは、強さに関する感覚が鈍っていたことを思い知った。
魔王は強い。
そんな当たり前のことを再認識した。
「僕たちは二人だ。今度こそトドメを刺す!」
スザクは魔王に剣を向けて言った。
二人で力を合わせれば魔王を倒せる。
私も覚悟を決めて、杖を構え直した。
「我側も『二人』だぞ。」
「えっ!」
魔王は何を言っているのか?
どう見ても魔王は一人である。分身した形跡はない。
私が魔王を見て考え込んでいると・・・
「危ない!」
スザクが叫んでいた。
「えっ!?」
火球が私に向かってきていた。考えていたから、避けるという行動にとっさに移せないでいた。
スザクが私の前に出て、剣ではじき返した。
「なぁぁんで、おれの洗脳がぁ、あの女にはきかねええんだよおお。」
この声は勇者のものだった。
あのゾンビような物体から発せられた声だった。
「我が受けたダメージを全て押し付けてもゾンビのように生きているか、まさに『勇者ゾンビ』だな。」
魔王城でエリーとシュリに裏切られて足や手を、剣や氷の魔王のやりで刺されても生きていた。
そして今も見た目は醜いが生きている。
「これで我側にも『二人』いることを理解してもらえたな。」
「くっ。」
魔王の言葉を聞いて、スザクは苦しそうに声を出した。
そして剣を持っていない方の腕を私の前に出す。
まるで魔王と勇者から私を守るように・・・。
「今度こそ、魔王からも勇者からもジュリアを守って見せる。」
彼は小声で力強く呟いた。
一人で戦う気なんだ。と私は理解した。
でも無理がある。相手は魔王とゾンビみたいな見た目とはいえ勇者。
彼を魔王との勝負に集中させないといけない。
でもそのためには・・・。
「勇者は私がやるわ。」
「えっ!」
私は甘かった。
心の中では勇者と蹴りをつけてやると言いながら、『ルギウスさんが勇者を殺してくれるし。』と人任せになっていた。
そして今、それをスザクにさせようとしている。
自分自身で蹴りをつけるべきことを、物語でいう王子様にさせようとしている。
物語のお姫様のように、王子様がお姫様にとっての都合の悪い存在を成敗する。その後、王子様とお姫様が結ばれる。
そんな都合の良い物語のようなことを期待していた。
でも私はお姫様なんかじゃない。
あの男とは自分で蹴りをつけないといけない。
私は決してお姫様ではない。
スザクと共に成長して、支え合うんだ。
「でもあの男は君にとって・・・」
「魔王に集中して!」
きっとスザクは私に優しい言葉をかけようとしてくれた。
その言葉を私は遮った。
「スザク。」
私は彼の名前を力強く言った。
そして私を守ってくれていた彼の腕を振り払って、勇者ゾンビと向き合った。
「魔王に勝ってね。」
静かに、でも力を込めて言った。
「任せたよ。ジュリア!」
大切な人の言葉に背中を押してもらって・・・。
あの男と蹴りをつける。
次回はスザクVS魔王です。
12月の初日に投稿します。