99:三度目
誤字脱字報告ありがとうございます。
できるだけ減らしていきたいですね。
前回と同じく第三者視点です。
王の座をかけた戦い。
彼らの言う『一度目』のことだ。
ルギウスとエリオットと戦ってどちらが魔王として相応しいか決着をつける。
だがその戦いの場にルギウスは現れなかった。
ルギウスは、クイーンモードを発動して暴走状態になった妻のクレアを止めに行った。
彼は躊躇はしなかった。
王の座と比べたら、妻の方が何倍も何百倍も大切だったから。
その結果、エリオットが魔王となった。
強さではルギウスの方が強い。しかし、エリオットが魔王となることに異を唱えるものはいなかった。
強さだけでなく、頭の良さも兼ね備えている。
そして純粋にルギウスよりエリオットを応援するもの方が多かった。
エリオットを凌ぐ圧倒的な強さ。クレアという美しい妻を持つ。
少なからず、嫉妬心を持つ者もいた。
嫉妬は人だけの感情ではない。魔族・・・いや、すべての種族が持っている。
そういう意味では、望まれてエリオットは魔王となった。
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「今のままではあの時のようにクレアも助けにすらいけないな。」
今、クレアはクイーンモードを発動している。
この力を解放することをできるものは限られている。
そしてルギウスのように制御できるものは、さらに極一部だ。
クレアの場合は、感情が暴走するだけだ。その結果、自分の身を傷つけることもあるが・・・。
他の魔族ならは、ただ単に身を滅ぼす行為となる。
『一度目』は暴走状態となったクレアを止めるために、ルギウスは王の座を捨てて彼女を止めに行った。
だが今回は魔王に首を掴まれている。とても助けにいける状況ではない。
「知っているか?」
魔王は笑みを浮かべてルギウスに問う。
「クレアがなぜ『あの時』クイーンモードを発動して暴走状態になったのか。」
「な・・・に・・・・。」
「クレアの配下の女の魔戦士たちを事前に洗脳しておいた。そして王の座を戦いのときに洗脳した女の魔戦士を利用した。」
クレアの配下の女魔戦士は優秀だ。
彼女も『信頼』していた。
「まあ、クレアは自分の配下が洗脳されていた、なんて知らないが・・・。」
その信頼していた部下から攻撃されて、クレアはクイーンモードを発動させた。
そしてルギウスはそれを察知して、クレアを『優先』した。
魔王もそこまで上手く行くとは思ってなかった。
洗脳した魔戦士がクレアを気絶させて、それをルギウスに伝えて、クレアを『優先』させる状況を作ろうと思った。
だが洗脳した駒が『暴走』させるとは思ってなかった。
「クレアがクイーンモードで暴走状態するように『前準備』をしていた。」
魔王は心の中で笑みを浮かべてルギウスに言い放った。
どうだ。どうだ。どうだ。
魔王は油断するとこの言葉が口から出てしまいそうになっていた。
「・・・王の座をかける戦いに『前準備』をしてはいけないというルールはない。その『前準備』をしたお前が勝った。それだけだ。」
思っていたのと違う、と魔王は思った。
普通なら怒り狂うはずだ。
王の座の戦いで妻を利用したのだから。
なのにルギウスは『前準備』をした自分のこと評価しだした。
思ったように怒りの感情を出さないルギウスに腹が立っていた。
「最初はクレアを洗脳しようとした。」
魔王はルギウスの怒りを引き出すためにさらなる事実を言った。
どうだ、どうだ、どうだ。
だがルギウスは「お前の洗脳の『性質』だとそれは無理だよな。」と返した。
・・・だから魔王は、クレアの優秀な配下の女魔戦士を利用せざるを得なかった。
「王の座を手に入れるだけでなく、お前の妻の心の傷を負わすことにも成功した。」
クレアは配下に裏切られ、そして夫であるルギウスにまで迷惑をかけてしまったという心の傷を負った。
魔族から人気があったクレア。
四天王時代も配下を欲するなら、いくらでもクレアの配下につけることができた。
だが、その心の傷の影響か、彼女は配下を欲しなかった。
「心の傷か・・・。」
魔王はただただルギウスの怒りを引き出すために、ルギウスを煽ることを言い続けた。
怒り狂った表情のまま、トドメを刺すということを魔王はしたかった。
「クレアは俺の妻だ。必ず立ち直ると信じていた。」
だがルギウスは魔王の思ったような表情を出さない。
「正面から戦うことしかできなかった。そして『前準備』をしなかった、単純に俺の負けってことだ。」
「・・・・・・。」
「王としてエリオットの方が相応しいと俺も思った。だから負けを認めて、お前を王として認めた。」
力だけではトップには立てない。
知恵や配下の者達が自分についていきたいか、と思わせることも重要だ。
自分には、力しかなかった。だがエリオットは全て持っている。
それをルギウスは認めていた。
「・・・今回もお前の負けだ。」
魔王はルギウスを掴む手の力をさらに強める。
「我に負けた上に、クレアの暴走状態を止めることができずに助けられないな・・・。」
「もんだい・・・ない・・・」
「ほう。なぜだ。」
「ティアが・・・傍にいるからだ。」
あの金髪の女戦士のことか、と魔王は理解した。
魔王としては、できれば洗脳しておきたかった『駒』だ。
魔界の時はエリーとシュリの二人を一人で相手にして、彼女達を圧倒していた。マリアの回復魔法がなかったら、ティアが勝っていただろう。
強さ、美しさ。
魔王妃として申し分ない女だと、魔王はティアのことを評していた。
「なるほど、あの女戦士ならとめることができるかもな。」
だが、と魔王は続ける。
「それはクレアとティアが我の元に来て、今のお前を助けることはできないということだ。」
クレアの暴走状態を止める。
それで撤退せざるを得ない程に、体力は消耗する。
クレアもティアもそこから先に進むことはできないはずだ。
「もんだい・・・ない・・・」
ルギウスはさっきと同じ言葉を発した。
「・・・強がりか。」
ルギウス目を見て、魔王は不思議に思った。
自分に敗れて明らかに絶望的な状況であるのに、希望を持つ目をしているからだ。
「いや・・・違うな。」
ルギウスはニッと笑って言った。
「・・・スザクがいる。」
魔王は衝撃を受けていた。
確かにあの魔法剣士は実力はある。
それよりもあのルギウスが、クレア以外の他の者をここまで信頼していることに驚いた。
「それにあいつを支えるジュリアもいる。」
「・・・あの魔術師か。」
魔界では、自分の言葉に惑わされそうになったり、エレンの言葉で戦意を失った姿を見ている。
あの魔法剣士の後しか追うことができない金魚の糞。足を引っ張る姿しか、魔王は想像できてなかった。
「・・・やっときたか。」
ルギウスの言葉と共に扉が開く音がした。
入ってきたのはスザクとジュリアだった。
「・・・今回もエリオットには、勝てないのかもしれないな、俺は。」
魔王は驚いた。
あのルギウスが「勝てない」という言葉を発したからだ。
「だが『勝負』には負けんぞ。」
あとはあいつらに託そう。例え自分の身体が壊れても・・・。
心を救ってくれたあいつらのために・・・。
ルギウスは最後の力を振り絞る。
「ぐう、ルギウス。」
「アサルトモード。」
魔王は驚いた。
身体がボロボロの状態でそんなことをしたら、ただただ、身を滅ぼすだけだからだ。
いや、ボロボロじゃない状態であっても、身体に大きな負担をかける。それくらい力を限界まで解放する行為はリスクがある。
ルギウスはアサルトモードを発動した。
だが、女神の塔の時のように無双できない。
あの時は体力も十分に残っていたが、今はかなり消耗している。
この状態でアサルトモードを発動しても、魔王は倒せないだろう。
だがルギウスは今残っている力で魔王を消耗させて、スザクたちにつなぐという思いで発動させた。
ただ女神の塔、そして魔王との戦い・・・。
ルギウスは短期間で複数回、アサルトモードを発動している。身体への負担は計り知れない。
そしてこれが身体に大きな負担をかける行為であることを、スザクとジュリアは知らない。
「アサルトモード・・・。」
スザクは静かにつぶやいた。
彼も女神の塔でその状態となったルギウスを見ている。
正確に言えば、地に伏せていただけだから、そのオーラを体感しただけだが。
グシャ
さっきまで魔王に首を掴まれていたはずのルギウスが、地に足を付けていた。
さっきまでルギウスを掴んでいた魔王の腕が、あらぬ方向に曲がっていた。
さっきの音は、魔王の腕が曲がったときの音だ。
「えっ、いつの間に・・・。」
ジュリアが驚きの声を上げる。
それくらい視覚で認識するのは難しかった。
ジュリアが視覚で認識できたのは・・・。
見たこともないようなオーラを放ちながら、地に立つルギウスの姿。
・・・けれどこのオーラが無ければ、私でも勝てるかもしれないと彼女が思うくらい身体はボロボロだった。
「ぐう、ルギウス、ぐぶ!」
魔王が呻く隙も与えず、ルギウスは魔王に追撃した。
「おわりだ」
「ルギウスぅ・・・・」
追撃を受けた魔王に対して、ルギウスは近づく。
「フルバ・・・」
時が止まった。
技名を口に出そうとして、ルギウスは止まった。
客観的に見れば、ルギウスは隙だらけだった。
だが、唐突に訪れた沈黙に、魔王もスザクもジュリアもついてこれてなかった。
時が止まったのは、突然訪れたこの沈黙に誰もついてこれてなかったから。そして各自の頭で理解ができなかったから・・・。
バタン
あまりにもあっけない音を立てて、ルギウスは倒れた。
そして時は動き出した。
人間視点の物語が多いですが、魔族側にも物語があります。
別の物語を書くときに、魔王がどのような経緯で魔王になったか等の物語を書いてみても、面白いのかも・・・とふと少し思いました。
次回はジュリア視点に戻ります。




