魔女の処刑の、その後。
※以前投稿した『魔女の処刑』のその後です。
悪い魔女が処刑された。
国を守っていた守護竜を殺した存在が魔女に殺された。
――その不気味な魔女が、守護竜を殺した。
だから、国は魔女を処刑した。
ずっと国を守って来ていた魔女と、守護竜。
守護竜は死に、魔女は処刑された。
聖女がいるから、構わない。
そう国は判断し、ずっと見た目も変わらず生き続ける魔女を処刑した。
*
聖女とは何であるか、と言えば神が遣わして聖なる乙女である。時折世界に現れる存在である。
時には悪と称される、魔女という存在とは違い、その力もその存在もすべて聖なる者とされているのが聖女である。
魔女も守護竜も――、全てが清らかで聖なるものであるわけではない。魔女や竜と聞けば、危険な存在だとすぐさま判断するようなものももちろんいる。
魔女や守護竜が、その国を守り続ける守護者であると認識され続けていたのはその国を守るための行動故だった。二人が揃い、その国を思いやり、国のために行動し続けていること。その事実があったからこそ、皆が彼らを慕っていた。
だけど、守護竜の死はその均衡を破るには十分なものであったと言える。
守護竜の死を、魔女のせいにし、そしてその場に聖女は成り代わる。魔女という魔という字に連なる存在ではなく、聖なる存在がこの国を守る。その響きのなんと良いものか。
どこからか現れた聖女は、不思議な力を持ち合わせていた。そして、魔女に代わるだけの力を確かに持ち合わせていた。
その聖女は今――、神に祈っていた。
金色に輝く髪に、美しい青い瞳を持つ少女。——彼女は確かに聖女としての力を持っている。神が遣わしたとされる、その国に突如として現れた聖女。
確かに彼女は神がつかわした者だった。
そして断片的にでも、その声を聞くことが出来るものだった。
聖女が最初にこの地で聞いたのは、守護者が居なくなるということだった。そしてその後、聖女がこの国を守っていくのだと。その声を国に伝えた所、魔女が守護竜を殺すのだとそんなことを言われた。——だから聖女はそれを信じた。
魔女は狂い、守護竜を殺すのだと。そんな周りの言葉を信じた。
守護竜は何処までも偉大で、強く、死ぬような存在ではなかった。だから殺される以外で死ぬなんて国の誰一人として考えていなかった。
聖女が聞いた神の言葉と、魔女からもたらされた守護竜の寿命と言う言葉。
――それを聞いた時、国は訝しんでしまった。ずっとこの国を守り続けた魔女なのに。守護竜に寿命が来るはずはなく、魔女が殺そうとしていると。
そして、魔女が守護竜を焼き尽くしたのを見て、やはり殺したのだとそんな風に聖女は実感した。
魔女が狂い、守護竜を殺し、国に虚偽の報告をしたのだと――。そんな風に聖女は思った。周りの話を聞いてもそれ以外考えられなかった。
――だから、魔女の処刑を率先して行うように行動した。
だけども、魔女の最後の言葉を聞いた。
この国をよろしくねと、笑いかけた魔女の言葉を聞いた。
彼女は、本当に悪だったのだろうか。
魔女を処刑した後、今更ながらに聖女はそんなことを考えてしまった。
聖女は神に遣わされて、この地に下りた。身体は成人しているものの、言ってしまえば世界にやってきたばかりの赤子同然のような存在である。無垢であり、無知である。聖女としての力の使い方は把握しているものの、聖女は全てを知るわけでもない。
この国に降り立った聖女は、自分が聖女であることを自覚していた。それは聖女として当然の自覚である。
降り立った聖女は未熟であり、神は全てを聖女に伝えられるわけではない。聖女に伝えられた神の声が正しく伝えられるとは限らない。
――私は神の声を国に伝えた。そして、みんなの言葉を聞いて私は魔女を処刑した。
魔女を処刑し、国の者たちは喜んでいる。
だけど、本当に良かったのだろうか……。
神に祈る。神の声は聞こえない。聖女の力はまだ残っている。だけど、徐々に弱まっているようにも感じた。
――私は何か間違ったのだろうか。
その不安も大きくなる。
実際に聖女は、この国が今、傾いてきているのを自覚している。
聖女は確かに魔女の代わりに守護結界を作ることが出来る。でも、その力は徐々に弱まっている。
守護竜と魔女が居なくなったことで周辺諸国からこの国は狙われているそうだ。
守護竜や魔女が居なくなり、この国は幸運に向かうという者が多くいるが――、それでもこの状況を危惧している人も少なからずいる。
聖女は何が正しくて、何が間違っているのか分からない。神の声を聞きたくて祈るが、その言葉に神は答えない。
聖女が神にひたすら祈っている間に、事態は急変する。
守護竜と魔女のいない国に他国が攻め入った。
そして王国は聖女が虚言を吐いたと、聖女のせいで魔女を処刑してしまったと、そのせいで国が責められていると、そんな風に今度は聖女を責め立てた。
聖女は、それに反論しなかった。
――魔女の最後の言葉を聞いて、その後の国を見て、それは事実だと思った。
だから聖女は受け入れた。
だけど、聖女の視界は急に暗転し、気づけば聖女は神の前に居た。
『聖女、貴方は間違えました。出来れば魔女と共に国を守ってほしかったのですが……。私が上手く伝えられなかったことも悪かったです』
神様、ごめんなさい。
『大丈夫ですよ。次の出番までまたお休みなさい』
神様、守護竜様と魔女様は……。
『心配しなくて良いですよ。おやすみなさい』
そこで聖女には体はない。ただ休むように聖女は言われ、神の元で眠りについた。
守護竜が死に、魔女が処刑され、聖女が消えた場所で国は滅んだ。
というわけで難しかったですが、魔女の処刑のその後です。
短編100作品企画でも希望があったのですが、色々と思いついているので普通に短編としてこちらは投稿しています。
聖女の設定どうしようかなとか迷いながら、聖女の方を書いてみようとこうなりました。
聖女は神から遣わされた無垢な存在で、どちらかと言うと流された感じですね。神の声は断片的に聞けるものの、正しく聞けるわけではなかったといった感じです。そして聖女という神から遣わされた存在は、神に回収されたみたいなイメージですね。
また関連した話も書くつもりなので、何だか中途半端な感じになってしまいました。続編希望多かったので、どんな風に書こうかなと悩んでこうなったので少しでも楽しんでいただけたら嬉しいなと思います。