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第5話 レギュラーVS控え


 勇士たちが、1軍に合流してから二日目、今日も強豪校らしい厳しい練習メニュ

ーをこなしていくバスケ部員たち。


 3対3を終えて現在は休憩中だ。


 1年生トリオで、先ほどまでの練習を振り返っている。

 互いの良くなかったプレーを、指摘し合い、そのプレーに対しての改善策を話し

合う。


 そうしていると、キャプテンの集合の号令が掛かり、監督の元へ集まる。


「次は、5対5のゲームをする」


 いよいよ、1年生にとっては初めての実践形式の練習だ。

 1年生トリオは、少し期待に胸を膨らませる。


「まずは、Aチーム、小野、篠山、山崎、葉隠、大川」


 Aチームに選ばれたのは、全員レギュラーメンバーだった。


「Bチームは、早坂、笠原、青木、中井、宮部、ゲームは、前半、後半ともに、1

0分間で行う」


 対するBチームは、1年生を中心とする控えメンバーだった。

 恐らく、1年生全体に行った振り分けテスト同様、1年生がどこまでできるか、

試すためのゲームだと予測される。




 メンバーが発表されると、それぞれのチームメンバーで集まった。


「いきなりレギュラーメンバーと試合するとはな」


「監督が僕たち1年生を試してるね」


「ここで勝ったら、レギュラーに一歩近づけるねー」


 1年生トリオが会話していると、Bチームの先輩メンバーがやってくる。


「よろしくな~、正直、俺じゃ攻さんを抑えられそうにないから他で頑張ってくれ」


 弱気な言葉を吐くのは、2年生の控えSF、青木将敏あおきまさとし

 攻は、普段おちゃらけた性格をしているが、バスケの才能はこの部で一番といっ

てもいいほどで、このチームのエース選手だ。


「おいおい、後輩の前でそんなこと言うなよ」


 もう一人は、3年生の控えPF、中井拓哉なかいたくや


「まぁ、実力の差はだいぶあると思うけど、1年生は気楽にやっていけよ」


「はい!」


 拓哉の優しい言葉に大きく返事をする1年生。

 Bチームのゲームプランを話し合い、すぐにゲームが始まる。




 両チームジャンプボールのポジションにつく。ジャンパーは亮と泰山。


「悪いが、1年坊だろうと俺たちは手を抜かんぞ!」


「全力でやってくれないと倒しても面白くないし、それでいいですよー」


 開始前から亮と泰山が、軽く火花を散らす。


 そして、ボールが二人の間に投げられ試合開始ティップオフ

 先に、空中のボールに触れたのは泰山だ。弾かれたボールを手にしたのは攻。

 すると攻は、すぐさまドリブルを突き、相手のゴールリングへトップスピードで

向かう。

 マークマンの正敏がついていこうとするが、攻が右から左へと素早く※レッグス

ルーをして、正敏を置き去りにしてレイアップを決める。

 開始、僅か数秒で、Aチームが得点を上げる。


----------------------------------------------------------------------------


 レッグスルー……足の間でドリブル突いて、左右にボールを持ち変えるドリブル。


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「最高!」


 攻が相手チームに、どうだと言わんばかりにアピールをする。


「早い……」


 攻のスピードに圧倒される勇士。

 圧倒されながらもボールを即座にエンドラインから出し、オフェンスに向かう。


 ボールコントロールをする奏が、パスを出せる場所を伺う。ローポストでポスト

アップしてパスを要求する亮。奏はまず亮にパスを出す。


 ドリブルを突きながら背面で押し込もうとする亮だが、泰山の屈強な体を中々押

し込めない。


 すると、勇士が右方向へフェイントを入れてから、亮がいる左方向の※コーナー

に走りこむ。


 それを見た亮が勇士へパスを出し、受け取った勇士が素早くシュートを放ち3ポ

イントを沈める。


---------------------------------------------------------------------------


コーナー……ゴールリングから真横付近のエリア


---------------------------------------------------------------------------


 「ワオ! 素晴らしいシュートデス!」


 ベンチで見ていたジェニファーが、勇士のシュートに大きな歓声を上げる。


「1年生にやられてんぞー」


「うるせぇ!」


 攻が、勇士のマークマンの武人をおちょくる。


「どうした、俺のフィジカルの強さに、もう、戦意喪失か?」


「今のは、勇士がフリーになってたからパスしただけだよー」


 泰山の挑発に簡単には乗らない亮。


 今度は、弓弦がトップでボールコントロールをする。泰山がローポストから上が

ってきて、弓弦のマークマンの右にスクリーンをかけようとする。


 弓弦は、そのスクリーンを利用しようと、スクリーンをかけられる方へドリブル

を突く。


 マークマンの奏がスクリーンにかかり、動きを一瞬止められ、泰山に※スイッチ

する。


 弓弦には、亮がスイッチしてについていくが、弓弦が高く、ふんわりと上げたパ

スをゴールリング付近に上げ、そのパスを泰山がそのままアリウープダンクでリン

グに叩き込む。


「オォオオオオオオ!!!」


 アリウープダンクを決めた泰山が雄たけびを上げる。

 弓弦と泰山の※ピック&ロールは、宝星のよく使うオフェンスのパターンだ。


---------------------------------------------------------------------------


スイッチ……ディフェンスをする相手が変わること。


ピック&ロール……ボールを持っている味方にスクリーン(ピック)を仕掛

けた選手が、その後、リングに向かってターン(ロール)をして、パスを受け取ろ

うとする動き。


---------------------------------------------------------------------------


 Bチームのオフェンスに移り今度は、拓哉がローポストでシュートを打とうとす

るが、錬水のディフェンスにより、※タフショットを打たされ、シュートは外れる。


 Aチームはもう一度、泰山がスクリーンを掛けにきて、弓弦もそれを利用する。


 奏は、何とかスクリーンの前を通り、スクリーンに掛からないようにしようとす

るが、無理に掻い潜った奏の態勢が、不十分な内に弓弦がミドルジャンパーを決め

る。


----------------------------------------------------------------------------


タフショット……ディフェンスのマークが厳しかったり、態勢が不十分だったり、

難しいシュートのこと。


----------------------------------------------------------------------------


「ふぅ、厳しいな」


 これには奏も思わず弱気な言葉をこぼす。


「流石にレギュラーは強いねー。まぁ、次は止めよー」


 すかさず、奏のフォローをする亮に、意外と気が利くのだと思った奏の顔から笑

みがこぼれる。


 右側ウィングに、ボールを持つ武人が勇士と対峙する。


 武人の右側には、大きくスペースが開いていて※アイソレーションの形になって

いる。

 ボールを保持している武人は、右側へ素早く一歩目のドリブルを突く。


 勇士も右側に素早く反応し、武人の正面へ入ろうとするのを見た武人は、勇士が

右に動いた瞬間、左へと鋭いクロスオーバーをする。


 だが、勇士はクロスオーバーにもすぐ反応して武人についていく。


「チッ……」


 止められた武人は、舌打ちをして逆サイドにいた攻にパスを出す。


 ボールを貰った瞬間、攻は、左へドリブルを一つ突き、ミドルの※プルアップジ

ャンパーを放ち、得点を決める。


 その後も、Aチームが有利に試合を進めBチームは、苦戦を強いられる。




 前半、残り8秒、ローポストで亮にボールが渡る。


「懲りずにまた勝負する気か?」


 泰山が亮を挑発する。


今のところ亮は、泰山に完全に抑えられていて、振り分け戦の時のような支配力を

みせられず、2得点に抑えられている。


 亮は、いつものように押し込もうとするが、泰山は余裕で耐える。

 すると亮は、体を横に向け※フックシュートを放つ。


 咄嗟のシュートに、泰山も反応しきれずそのまま亮のシュートはゴールリングに

吸い込まれると同時に、前半終了のブザーが鳴る。


----------------------------------------------------------------------------


プルアップジャンパー……ドリブルをついてから、打つシュート。


フックシュート……ディフェンスの横を向き、片手で、弧を描くように打つシュート。


----------------------------------------------------------------------------


「そんなシュートもできるとはなぁ! やるじゃねぇか!」


「痛いですよー、先輩」


 嬉しそうに亮の背中を叩く泰山に、亮は迷惑そうにしている。


 前半のスコアは、25対17でAチームが8点のリード。

 勇士は、5本中3本の3ポイントを決めていて絶好調の様子だ。


 Bチームは、ベンチで前半の振り返りをする。


「あのピック&ロールを止めるのは難しいね……」


「上手いよねぇー」


 宝星レギュラーのピック&ロールに、いつも自信家の亮と、奏が悔しそうにする。


「いやー、2人は頑張ってくれてるよー。俺が攻さんを抑えられないばっかりに……」


 確かに、時間が経つにつれ、相手のピック&ロールに対応していった亮と奏だっ

たが、攻のオフェンスがどうしても止められなかった。攻は、前半だけで13得点

も取っている。


「アイツは、バスケに関してはすごいからな。俺らは何とか笠原の3で持ちこたえ

てるって感じだよなー」


「いやぁ、上手くパスを回してくれるからですよ」


 不甲斐なさそうに言葉をこぼす拓哉に、勇士は何とかフォローしようとする。


「ユーシは、とってもすごいデス!」


 ジェニファーが急にBチームの会話に混じってくる。


「ちょっと調子がいいからって調子に乗らないでね!」


「そうだぞ、調子に乗るな!」


 ジェニファーに褒められた勇士に葵と、さっきは褒めてくれた拓哉が睨みつけな

がら釘を刺す。

 さらに、Aチームのベンチ(攻と泰山)からも鋭い視線が勇士に突き刺さる。


「後半戦は、どうしようか……」


 奏が冷静に後半戦についての話に戻そうとする。


 それから、後半どう戦うか話し合い休憩が終了する。


 後半戦もAチームが主導権を握っていく。


 前半、ドライブから得点を量産していた攻が、後半ではドライブでディフェンス

を引き付け、前半、得点がなかった錬水などに※キックアウトし、アシストしつつ

得点を上げていった。

 

----------------------------------------------------------------------------


キックアウト……ドライブでインサイドに切り込んだ選手が、アウトサイドにパス

を出すこと。


----------------------------------------------------------------------------


 一方、Aチームは、勇士の3ポイントを中心に攻めようとしたが、勇士へのチェ

ックを強めてシュートを打たせる機会を少なくされた。


 それでも勇士は、4本中2本の3ポイントを決め、2ポイントも1本決めて、8

得点を取った。


 点差も少し開き、勝負所と言える状況ではなかったので勇士は、いつも通り後半

戦もプレーできていた。


 亮も前半同様、苦戦をしながらフックシュートや奏のパスでの合わせで6得点を

取った。


 宝星は、どちらかと言うとディフェンシブなチームで、Bチームに簡単に得点は

許さなかった。


 結局、52対36で、Aチームが圧倒してゲームは終了した。


 奏と亮は、レギュラーとの差を痛感したが、勇士はレギュラー相手でもかなりの

活躍をして手応えを感じていた。


「流石のシュート力だな!」


 嬉しそうな声で攻が勇士に話しかけて、肩を組んでくる。


「お疲れ様です! 今日は調子が良かったですから」


「これほどのシューターは中々いねぇからなー、試合でもすぐ使われるだろ」


「いえ、そんな……」


 宝星にはシューターが居ないからか、攻はずっと勇士に対しての評価が高いよう

だ。

 このチームのエースから高く評価され、謙遜しながらも心の中では、喜びの感情

が溢れる勇士。


 一方、イマイチ納得いかない結果だった亮の元に泰山がニヤニヤしながら近づい

てくる。


「今日は俺の方が活躍したが、お前も10得点、2アシスト、6リバウンドで中々

の活躍だったじゃねぇか!」


「嫌味ですかー、人のこと、2回もブロックもしといて……」


 泰山の言い方だけ聞けば、亮も悪くない数字に聞こえるが、シュート成功数が1

4本中5本と、ビックマンにしては高くない数字だった。


 一方の泰山は、14得点、7リバウンド、3ブロック、シュート成功数が12本

中7本と、高いシュート率で、三回のブロックの内二回、亮をブロックした。


「集合!」


「はい!」


 キャプテンの号令で監督の元へ集合して、監督の話が始まる。


「今日は、初めて1年生も交えたゲームをして、結局、Aチームが圧勝したが、

これからの成長次第では、1年生でもどんどん試合で使っていく」


 監督の言葉に全体に緊張感が走る。


「2年、3年も1年の成長に負けずに練習に励んでくれ」


「はい!」


「今日の練習を終了する。お疲れ!」


「お疲れさまでした!」


 猪本監督の話が終わりこれから自主練習をしたい者は残り自主練習始める。


 さっきの監督の話のせいか、ほとんどの部員が残るようだ。


 勇士も自主練習を始めようとすると葵が声をかけてくる。


「お疲れ、勇士は自主練するの?」


「あぁ、もちろんして帰るよ」


「まぁ、あんなこと言われたら気合が入るに決まってるよねー。今日は私は帰

るけど、何か手伝って欲しいことが言ってよね!」


「あぁ、サンキュ」


「それじゃーね、勇士」


 そう言って葵は、小さく手を振って体育館を後にする。


 葵に続いて今度は、ジェニファーが勇士の元にやってくる。


「お疲れ様デス! 今日もユーシのシュート、すごかったデース!」


「あ、ありがとう」


「また、明日も明後日もずっと、ユーシのシュートを見ていていデス!」


 少し変な言い回しに困惑する勇士だが、素直に褒めてもらえたことはうれしか

った。


「それじゃー、また明日デース!」


「また明日」


 ジェニファーも体育館を後にする。

 その直後、勇士は後ろからとてつもない気配を感じた。


「オマエ、ホントウニアノフタリトツキアッテナイノカ?」


「ハクジョウシロ」


「本当に付き合ってないですって……あとなんで片言なんですか!?」


 攻と泰山が昨日の様に勇士を問い詰める。

 にじり寄って来る2人に覚悟を決める勇士だったがその前に弓弦が立ちはだか

る。


「お前たち、自主練習しないなら早く帰れ」


「んだよ、ちょっと後輩と交流を深めてただけじゃねーか」


「そーだ、そーだ」


「お前らはいいが、笠原の練習の邪魔をするな」


 そう言われた二人はつまらなそうに自主練習をしに行く。

 あの二人はキャプテンの言うことは、しっかり聞くようだ。


「ありがとうございます! キャプテン!」


「気にするな、あいつらの悪乗りは面倒くさいからな」


 呆れ顔をしながら話す弓弦に、キャプテンの頼もしさに感激する勇士。


 弓弦は、すぐに自主練習に戻り、勇士も弓弦に続き自主練習に入っていく。


 一刻も早くレギュラーに入れるよう、遅くまで練習に打ち込む勇士だった。

登場人物


中井拓哉

学年3年生 ポジションPF 身長189㎝ 体重80㎏

性格は、男らしく、年下から慕われやすい。

ゴール下でのフィジカルなプレーが得意。


青木正敏

学年2年生 ポジションSF 身長186㎝ 体重75㎏

性格は、弱気で、あまり目立たないタイプ。

攻ほどではないが、割とオールラウンダー。

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