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第4話 宝星レギュラー


 放課後、勇士と奏と亮の1軍トリオは、部活動が行われる体育館に向かう。


 今日から1軍の練習に参加する3人は、期待からか少し足取りが軽い。


 本校舎を抜けいよいよ体育館の扉の前にたどり着く。

 扉の前からすでに、体育館からボールをつく音が聞こえる。


 そして、三人は緊張しながら扉を開け、すぐ入り口側にバスケ部の先輩らしき人

たちが、すでに準備をしている。


「こんにちは!」


 三人は、元気よく挨拶をし、先輩部員たちも挨拶を返す。

 すると、練習をしていた一人の部員が、三人の元へゆっくりと歩いてくる。


「こんにちは」


「こんにちは!」


「君たちが1軍に合流する1年生か?」


 身長170後半くらいの、つり目で顔立ちの整った先輩部員が勇士たちに問いか

けてきた。


「はい、1年の早坂奏です!」


「同じく1年の笠原勇士です!」


「同じく1年の宮部亮でーす!」


「俺は、3年の小野弓弦おのゆずる、バスケ部のキャプテンを務めてる」


 三人に声をかけてきたのは、このバスケ部のキャプテン、小野弓弦だった。

 声をかけてきたのが人物が、キャプテンだとわかると、三人に少し緊張が走る。


「監督が来たら練習を開始するから、それまでアップでもしておいてくれ」


「はい!」


 弓弦の言葉に三人は大きく返事をする。


 弓弦が練習に戻ると、その後ろから四人の先輩部員がやって来た。


「おーす、1年! 元気にやっとるかね!」


「こんにちは!」


 身長195㎝の宮部よりも大きな背丈をしている、髪の毛が短めの先輩が、体育

館に響く位の大きな声で話しかけてきた。


「元気があってよろしい、俺は3年の大川泰山おおかわたいざん、ポジションはCだ!」


 弓弦の次に声をかけてきたのは、亮と同じCの大川泰山、見るからに豪快そうな

で、威圧感のある人物だ。


「おっさんは声でけーな、俺は3年のSF、山崎攻やまざきこう、一応副キャプテンだ! 攻さんと呼んでくれ!」


 次に声をかけてきた山崎攻は、金髪のスポーツ刈りで、一見、不良の様な見た目

をしており、泰山とは少し違う、威圧感がある先輩だ。


「おっさんとはなんだ! おっさんとは!」


「そのでっかい声が近所のおっさんに似てるからだよ、おっさん」


 喧嘩を始める泰山と攻だが、仲の悪いもの同士の喧嘩というより、じゃれあいの

ような喧嘩で、仲は良さそうだ。


「あの2人はバスケ部で1、2を争うるさい奴らだから、あんまり相手にしない方

がいいぞ。俺は3年の篠山武人しのやまたけひと、ポジションはSGをやって

る」


 次に声をかけてきたのは、勇士と同じポジションで、茶髪の長めの髪をした篠山

武人。


「おらー、俺はうるさくねぇだろ!」


「俺もうるさくないぞ!」


 抗議する泰山と攻に、武人は面倒くさそう二人を受け流している。


「ごめんね、バスケ部はいつもこんな感じだから。僕は、2年の葉隠錬水はがくれれんすい、PFをやってるよ」


 次に声をかけてきたのは、この中で唯一の2年生で、坊主頭の優しそうな見た目

をしている葉隠錬水。


「今の所、俺を含めたこの5人がレギュラーメンバーだ。」


 騒がしい中、弓弦がまた、1年生の元に戻ってきて冷静に説明をしてくれる。


 1年生がレギュラーになるためには、ここにいる先輩たちからレギュラーの座を

勝ち取らなければいけない。


 3人とも自分のポジションの先輩を意識する。


 そんな中、泰山が同じポジションの亮に話しかける。


「お前が宮部だな、相当すごいCなんだってな、だが、Cのポジションは譲らんぞ

!」


 いきなり泰山が亮に宣戦布告をする。

 はっきりと宣言する泰山に、勇士と奏は呆気にとられる。


「そうかぁ、別にこの高校は1年でも普通にレギュラーになれるんだー、じゃあレ

ギュラー目指そうかなー」


 泰山の宣言に亮はいつも通り呑気に返す。

 呑気に見えるが、意外と負けん気の強そうな亮に泰山は豪快に笑う。


「ハッハッハ! 1年のくせに生意気な奴だな!」


「俺は、思ったことを言っただけですよー」


 強気に返す亮に、泰山は背中をバンバンと叩き、いたく気に入った様子だ。


「でもよー、一番レギュラーが危ういの武人じゃねぇのか?」


 唐突に攻が切り出し、さらに続ける。


「うちは、ちゃんとしたシューターがいねぇからなぁ。俺も弓弦もレンも3は、そ

こそこ打てる程度だからな」


「お前なぁ……本人の前でよく言うなぁ!」


 あまりにも残酷なことを言う攻に武人が少し怒る。


「たけちゃんは、3は全然だからなぁ!」


「貴様ぁ!!」


 鬼の形相で攻に迫る武人に、攻は全力で逃げていった。

 勇士は、その光景を苦笑いで見ているが「これはチャンスなのでは?」と脳裏に

よぎった。


 そんな中、弓弦が奏に話しかける。


「早坂はPGだったよな?」


「はい、そうです!」


「何かアドバイスが欲しい時は気軽に聞いてくれ。まぁ、俺の方がアドバイスを欲

する状況になるかもしれないがな」


「いえ、そんな……」


 真面目そうな弓弦の冗談に、奏は少し驚く。

 騒がしい向こう側とは対照的に大人の会話をする二人。


 そうしていると、体育館の扉が開き1軍監督の猪本監督がやってきた。


「こんにちは!」


 部員たちが一斉に監督に挨拶をする。


「集合!!」


 弓弦の合図で部員が猪本監督の周りに集合し、1年生の三人も見様見真似で集合

する。


「こんにちは」


「こんにちは!」


「今日から1軍に合流する1年生を紹介する。1年生、前へ」


「はい!」


 猪本監督に前へ出るよう促され、大きく返事をして前へ出る三人。


「では、順番に自己紹介をしろ、まずは笠原」


「はい! 1年の笠原勇士です、ポジションはSGをやってました、よろしくお願

いします!」


 自己紹介をしてお辞儀をする勇士に、周りの先輩もお辞儀をして返す。

 自己紹介を終えると勇士は一歩下がり、隣の奏が自己紹介を始める。


「1年の早坂奏です、ポジションはPGをやってました、よろしくお願いします!」


 勇士同様、一歩下がり亮が挨拶を始める。


「1年の宮部亮でーす、ポジションはCをやってましたー、よろしくお願いしまー

す」


 相変わらずの緩い口調の亮が自己紹介を終えると、猪本監督から元の場所に戻る

よう促され三人は元の位置に戻る。


「2、3年は、この三人に色々教えてやってくれ。それと、マネージャー志望の女

子が2人居るので紹介する、入れ」


 すると、体育館の扉が開き二人の女子生徒が体育館に入って来る。

 勇士は二人とも知っている人物で、驚きの表情を浮かべる。


「ふぉおおおお!!!」


 入って来た女子生徒を見て攻と泰山が歓声を上げる。


「静かにしろ!」


「はい!」


 声を上げた二人を猪本監督が注意し、二人は大きく返事をして姿勢を正す。


「では、順番に自己紹介をしろ。」


「はい、1年の西園寺葵です、小学校から中学校まで選手としてバスケをしていま

した、よろしくお願いします!」


 まず、最初に挨拶をしたのは勇士の幼馴染の葵だった。


(本当にマネージャーになるのかよ……)


 勇士は、まさか本当に葵がマネージャーになるとは思いもしていなかった。


 葵が挨拶を終えると、もう一人の女子生徒が一歩、前へ出て挨拶を始める。


「ハロー、1年のジェニファー・ホワイトデス。バスケの国、アメリカから最近、

移住してきまシタ、よろしくデース!」


 もう一人は、勇士が入学式に偶然出会ったジェニファーだ。


 外国人ということはわかっていた勇士だが、まさか、バスケットボール大国のア

メリカ出身だとは知らなかった勇士は少し驚く。


 ジェニファーの挨拶が終わると、猪本監督が話を始める。


「1年生の挨拶も終わった所で、早速練習を始める。小野、いつも通り頼んだぞ」


「はい、じゃあ、準備運動をしてフットワークから始める」


「はい!」


 キャプテンの指示で部員が、準備運動を出来る隊形に広がりストレッチを始める

 ストレッチをしていると勇士は、マネージャーの方が少し気になり横目でそちら

の方をチラッと見る。


 いつもと違って、髪の毛を後ろで結んでいる葵が目に入り、勇士は葵がバスケを

選手としてプレーしていたときのことを思い出していた。


(そうえば、バスケしてる時は、いつもポニーテールだったな・・・・・)


 そんなことを考えながら、今度は、葵の横に居るジェニファーに目をやると、ジ

ェニファーと目が合い、ウィンクで勇士に合図する。


 勇士はドキッとして、すぐにジェニファーから目線をそらす。そんな勇士を見て

、ジェニファーは、にっこりとほほ笑む。


 ストレッチを終えると、次はランニングをバスケットコート10周ほどしてから

フットワークに入る。

 様々なフットワークメニューをこなし、ドリブル練習に入る。


 ドリブルメニューも様々あって、その場で色々なドリブルをしたり、コート上を

走りながら行うドリブルもある。


 その次はシュート練習だ。

 パスをもらいレイアップシュートを決める近い距離から始まり、少しずつ距離を

広げていく。


 距離が遠くなるほど、シュート率が悪くなるが勇士は、遠くの距離でも正確に美

しいフォームと軌道でシュートを決めていく。


「ヒュー」


 勇士の美しいシュートに思わず攻が口笛を吹く。


「やっぱり、レギュラー危ういんじゃねぇか?」


「お前は本当にデリカシーがないな!」


「練習に集中しろ!」


 攻と武人のやり取りに弓弦が注意を促す。


 その後も、1対1、2対1、3対3、などの練習をこなし本日の部活動は終了と

なった。

 今日は、5対5の実戦形式の練習はやらないようだ。


 監督の元に集合して話を聞き、キャプテンが挨拶をする。


「お疲れさまでした!」

 

「お疲れさまでした!」


 キャプテンに続き、他の部員も挨拶をして部活動の終了だ。


 久々に本格的な練習で勇士もかなり疲れている様子だ。

 そんな勇士に葵が近づいて来る。


「お疲れ、体力落ちてるんじゃない?」


「かもな……家でもランニングしないとな」


「そういうとこ真面目だよね。」


 おちょくるように言ったつもりだが、真面目に返され葵は苦笑いする。


 すると、今度はジェニファーが勇士の方にやって来る。


「お疲れ様でデス、ユーシのシュート、とても美しかったデス!」


「シューターだし、練習だとあれ位普通だよ」


「クールデス、とってもカッコイイデス!」


 グイグイと近づきながら、褒めてくるジェニファーに、どう対応したらいいのか

わからない勇士は、困惑と恥ずかしさが入り混じった表情を浮かべる。


 そんな二人を見ている葵は、面白くなさそうに、一言、口を開く。


「二人とも、仲良さそうねー」


「はい、私とユーシはとっても仲良しデス!」


 そう言うとジェニファーは、勇士の背中にピッタリとくっつく。


「えっ!? ちょっ!?」


 背中にいきなり柔らかい感触を感じ、明らかに動揺する勇士。


「アオイも仲良くするでーす!」


「仲良くしない!!!」


 勇士にくっ付きながら話しかけて来るジェニファーに、ついに、堪忍袋の緒が切

れた葵は、大声でジェニファーの申し出を拒否し体育館を勢いよく出ていった。


 周りの部員も思わず勇士たちの方を見る。


「アオイはなんであんなに怒ってたのですか?」


「いや、わからない……」


 首を傾げるジェニファーは、自分が怒られた理由に全く心当たりがなさそうだ。

 勇士は、大声を上げ勢いよく飛び出した葵の姿に呆然としている。


「アオイは難しい性格をしてマス、それでは、私もかえりマス。また明日ね、ユー

シ!」


 そう言ってジェニファーは、何事もなかった様に体育館を後にする。


 まだ呆然としている勇士に攻が物凄い勢いで突撃してくる。


「でぃやぁああああああああああ!!!!」


「ぐふぁあ!!!」


 攻の突進をもろに背中で受ける勇士は、今まで出したことのない汚い声を上げる。

 そのまま、勇士の背後から巻き付く山崎はかなり興奮気味だ。


「笠原ぁ!! お前、あの美女二人と知り合いなのか!! まさか彼女じゃねぇよ

な!! おぉん!!」


「違います! 葵はただの幼馴染で、ジェニファーさんはただのクラスメイトです

!離してください!」


 勇士が離れるよう攻にお願いするが、攻は聞く耳を持たない。


 そこへ泰山も、物凄い勢いでやってきて勇士の胸ぐらを掴む。


「お前!! さっき、おっぱい背中に当たってたよなぁ!! なぁあ!! 何カッ

プだったんだー!! バスト何センチだ? ウエストは何センチだ? ヒップは何

センチだ? 俺に教えろぉおおおお!!!」


「そ、そんなのわかりませんよ、二人とも離してください……」


 攻に後ろから強く締められ、泰山に前から胸ぐらを掴まれ、前後に揺さぶられ、

練習で疲労が溜まっている勇士の体は、限界を迎えようとしている。


 そのとき、武人が攻を、錬水が泰山を羽交い締めにして、勇士を助けに来てくれ

た。


「初日から後輩に変なことすんなよ!」


「あぁああああ!!!」


「泰山先輩も落ち着いて!」


「うがぁあああ!!!」


 羽交い締めにされても暴れ続ける二人。

 勇士はようやく解放され安堵の表情を浮かべる。


「こいつら、どうしようもないから帰った方がいいぞ!」


「てゆうか、帰ってくれないと二人とも止まらないよぉ!」


「わ、わかりました! お疲れ様です!」


 先輩二人に大変な役目を押し付けて申し訳ない気持ちになる勇士だが、ここはい

うとおりにした方が良さそうなので、勇士は素早く体育館をあとにするする。


 体育館を出ても攻と泰山の、ゾンビの様なうめき声が聞こえてきて、さらに申し

訳ない気持ちになるが、あのまま付き合っていたら自分が大変なことになるので、

武人と錬水に感謝しながら帰宅する勇士だった。

 登場人物


小野弓弦

学年3年生 ポジションPG 身長178㎝ 体重70㎏

宝星高校、バスケ部のキャプテン。

性格は、自分に厳しく、他人にも厳しい努力家。

バスケでは、とにかく味方を活かすゲームメイクを好み、自分では点をあまり取り

にいかないが、シュートは、そこそこ得意。

泰山とは、小学校から同じチームでプレーしている。


山崎攻

学年3年生 ポジションSF 身長187 体重81

宝星高校、バスケ部の副キャプテンでチームのエース。

性格は、お調子者のムードメーカーでいつもうるさい。

バスケに関しては、類い稀な才能を持っていて、どのプレーも得意なオールラウン

ダー。

小学校の頃からバスケを始めて、始めたきっかけは、女の子にモテるため。


大川泰山

学年3年生 ポジションC 身長198㎝ 体重90㎏

性格は、豪快で、攻と同じくらいうるさい。

とにかくダンクシュートが大好きで、試合では、半分以上のシュートがダンクの

ことが多い。

攻とよく、ナンパをするが、大体二人の容姿に怖がられ、逃げられる。


葉隠錬水

学年2年生 ポジションPF 身長190㎝ 体重86㎏

性格は、優しくておおらかで、人生で怒ったことが一度もない。

プレースタイルは、3ポイントがそこそこ入れられ、ディフェンスが得意な選

手。

幼馴染の、1つ年下の彼女が居るらしいが、泰山と攻には言っていない。


篠山武人 

学年3年生 ポジションSG 身長183㎝ 体重77㎏

性格は、基本、落ち着いているが、からかわれると爆発することもある。

速いドライブで相手を簡単に抜き去っていくことが得意だが、3ポイント

は不得意。

足の速さが、陸上部並みで、入学当時は陸上部によく勧誘されていた。

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